内科学 第10版 「回虫症」の解説
回虫症(線虫症)
成虫は15~35 cmと大型で,消化管内で1~2年間生存する.虫卵はヒトの糞便とともに排泄され,ヒトに経口摂取される.虫卵は肺を経て消化管に至る.成虫の大部分は十二指腸に存在するが,ほかの消化管やまれに消化管以外の臓器に移動する場合もある.患者あたり数百の虫体が存在し,雌は毎日20万個の虫卵を産生する.
回虫症は基本的には無症状であるが,以下の症状を伴う場合がある.①Löffler症候群は幼虫が肺組織内に存在する過程で発症する.症状は乾性咳,血痰,瘙痒感,発熱,肺雑音,喘息症状を伴うが,胸部X線では変化はなく,症状は5~10日で消失する.②腹部違和感,悪心,下痢など非特異的な症状が認められ,多量の虫体は消化管閉塞の原因となる.③成虫は肝・胆・膵,口腔,鼻腔,涙管,臍,鼠径管などに迷入して症状を発症する.④低栄養・成長障害との関連が指摘されている.
診断の基本は便の虫卵検査である.受精卵は楕円形で長径50~70 μm,金平糖のような凹凸を示す.また排泄された虫体で診断されることも多い.
治療では下記薬剤が選択され,90%以上の治療効果が期待されるが,内視鏡的摘出術や外科的処置の併用が必要となる場合もある.薬剤は虫卵には無効であり便検査での虫卵消失の確認が必要である.①パモ酸ピランテル10 mg/kg(単回服用).保険適応有.②メベンダゾール200 mg(分2)3日間.保険適応外.
感染は経口感染(虫卵で汚染された土壌や野菜を介して)である.日本では有機農法作物,開発途上国での長期滞在などがリスクとなる.[立川夏夫]
■文献
Farid Z, Patwardhan VN, et al: Parasitism and anemia. Am J Clin Nutr, 22: 498-503, 1969.
Stolk WA, de Vlas SJ, et al: Anti-Wolbachia treatment for lymphatic filariasis. Lancet, 365: 2067, 2005.
回虫症(胆道寄生虫症)
病態生理
経口摂取された回虫幼虫包蔵卵は,消化管で幼虫となり,小腸壁を貫通し,小静脈やリンパ管を経て心肺に至り,再び小腸に到達して成虫となる.総胆管や肝管への迷入が多いが,胆囊や膵管へ迷入することもある.
臨床症状
胆道炎症状(発熱,腹痛,悪心・嘔吐など)を呈する.成虫の胆管内移動により胆管閉塞機転に伴う反復性腹痛を呈することがある.黄疸を呈することは少ない.
診断
検便による虫卵の確認を行う(迷入例では確認不能).腹部超音波により胆道内の音響陰影を伴わない索状エコー像や無エコーの内管を有する2本の線状エコー像(inner tube sign)(図9-26-1),横断像では周囲高エコーで内部低エコーを示す輪状エコー像(bull’s eye echo)がみられ,運動性が確認されれば確実に診断できる.内視鏡的逆行性胆管造影検査(ERC)では虫体が透亮像として認識される.
経過・予後
胆道内に迷入した成虫は数日以内に死亡し,吸収される.雌の寄生の場合は虫卵のみが残存し,肝臓に異物肉芽反応を伴う膿瘍を形成することがある.
治療・予防
虫体を把持し,内視鏡的摘除術を行う.ウログラフィンの刺激により回避行動をとり,自然排泄されることもある.[河上 洋]
■文献
生田修三,水口泰宏,他:駆虫剤の経皮経肝的胆囊内注入が有用であった胆囊内回虫迷入症の1例.日消誌,107: 768-774,2010.
大前比呂思,千種雄一:肝外胆道寄生虫症.別冊日本臨牀 肝胆道系症候群(Ⅲ 肝外胆道編),第2版(井廻道夫,他編集),pp489-496,日本臨牀社,東京,2011.所 正治:寄生虫性肝胆系疾患.肝胆膵,57: 565-570,2008.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報