国民の多数に蔓延(まんえん)して体位・体力を低下させ、生産性を減退させるなど、社会に悪影響を及ぼすような病気をいう。日本においては、結核が1935年(昭和10)から死因の第1位となり、富国強兵を最優先の目標とした当時にあっては、結核がまさに国民病であり、その対策として現在の保健所や厚生労働省にあたる機関が発足したわけである。また、相次ぐ戦時下にあっては、死亡率こそ低いが、性病、寄生虫病、トラホーム(トラコーマ)、近視なども国民病として重視された。さらに、明治以降からの上下水道をはじめとする生活環境整備の遅れが、第二次世界大戦後においても赤痢、腸チフスなどの消化器系伝染病の常在流行をもたらし、当時は先進国としては恥ずべき国民病とされていた。その後、これら伝染病の急速な減少に伴い、1951年(昭和26)からは死因のトップが脳血管疾患、癌(がん)(悪性新生物)、ついで心臓病が占めるようになり、これら生活習慣病(成人病)が新たな国民病として注目されるようになった。なかでも癌は、肺癌の激増を中心に1981年(昭和56)から死因の第1位となり、その主原因の一つと目されるわが国の高い喫煙の流行こそ国民病だとする者もある。このように、時代とともに、また国によって国民病の内容は異なっている。
[春日 齊]
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