国立大学の財政・財務(読み)こくりつだいがくのざいせい・ざいむ

大学事典 「国立大学の財政・財務」の解説

国立大学の財政・財務
こくりつだいがくのざいせい・ざいむ

国立大学財政]

国立大学財政とは,市川昭午による定義を援用すれば,「国が国立大学に関する目的を達成するために必要な財源を確保し,公教育経費として配分管理する活動」となる。この国立大学財政に関する法的・制度的側面として,第2次世界大戦前から続く学校特別会計法が1947年(昭和22)に廃止されるとともに一般会計に移行された。しかし,このことは大学予算の伸び悩みや執行上の弾力性を失うといった問題を生じさせた。高度経済成長期に入ると,大学進学需要の急速な高まりや世界各国における科学技術の進展に伍していくために,国立大学の拡大・充実が求められることとなり,1964年に国立学校特別会計法が制定され,同法1条では「国立学校の充実に資するとともに,その経理を明確にするため,特別会計を設置し,一般会計と区分して経理する」ことが定められた。その後,同制度のもとで国立大学は第2次臨時行政調査会によるシーリングで一時的な停滞時期はあったものの,総じて安定的な拡大を経験してきた。しかし同法は,国家財政逼迫を受けての国家公務員改革の流れの中で実施された2004年(平成16)の国立大学法人化の法人化にともない廃止され,新たに運営費交付金制度が導入され現在にいたっている。

 この運営費交付金制度は,従来の国立学校特別会計制度に基づくラインアイテム方式からブロックグラント方式に変更されることにより,その使用にあたる大学側の裁量が大幅に増えることになった。具体的には,こうした制度変更により,予算の使途制限が外れ,年度間の予算の繰越しなども可能となり,多期間にわたる最適化が可能となるなど,大学の自主性・自律性拡大を狙った法人化の趣旨に沿う形での変更がなされることになった。一方で,2005年から導入された国立大学に対する効率化係数(1%)・付属病院を有する大学に対する経営改善係数(2%)の導入により,国立大学への運営費交付金の削減が始まり,第2期中期目標・計画期間においても,大学改革係数への変更はあったもののその削減が現在まで続いている。こうした基盤的資金の削減の一方で,競争的資金としての科学研究費補助金や各種のCOEGP(センター・オブ・エクセレンス/グッド・プラクティス)などの獲得競争が促進されてきている。これらの結果として法人化以降,効率化係数等の導入にもかかわらず,国立大学全体で見た場合の収入総額は,病院収入や各種の競争的資金の獲得額の増加によって上昇してきている。

[国立大学財務]

国立大学財務とは,市川による大学財務の定義を援用すれば,「個別の国立大学法人における日常的な資金調達や会計処理活動」と定義することが可能となる。こうした国立大学財務は,大学法人化以前はほとんど注目を浴びてこなかった。その理由は,前述した国立学校特別会計制度の下では,個別国立大学の予算執行に当たっての使途も強く制限されたうえに,授業料収入などの自己収入も含めて基本的に収支衡するように制度設計されていたことがあげられる。これに加えて国立学校特別会計として国立大学全体としての数値は公表されてきたものの,個別国立大学に関わる数値の公表はきわめて限られていたことなども影響している。しかし,法人化とともに導入された運営費交付金制度によって,国立大学法人会計基準に基づいて個別国立大学レベルでの財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)の公表も義務付けられ,前述した効率化係数・経営改善係数等による運営費交付金の削減のもとで,個別国立大学はその収支バランスを保つことが求められることとなり,その財務活動は大学運営においてきわめて重要な意味を持つようになった。

 この結果,各国立大学は収入増加策,支出抑制策をさまざまな形で取り入れていき,大学内における資金配分も国立学校特別会計制度下における各部局への一律的配分ではなく,大学が掲げる中期目標・中期計画の達成や外部資金の獲得に向けたさまざまな学内資金配分がなされるようになる。こうした国立大学の収入増加策として何よりも重視されたのが,各種の競争的資金の獲得であった。こうした競争的資金の獲得にあたっては,学内資金配分においてさまざまなインセンティブの付与がなされるなど,学内における競争的資金も増大してきた。しかし,すべての大学においてこうした競争的資金や外部資金の獲得が成功しているわけではなく,結果として医学部を有する大規模総合大学でより大きな収入増が生じている一方で,人文系の単科大学など一部の大学では収入減が生じており,大学間での収入格差や学問分野間での収入格差の増大などが進行してきている。こうした結果は,大学間での競争的環境の醸成といった観点からは成功しているように見えるが,長期的にサステイナブルな形で多様な学問の発展を目指すといった観点からは問題のある状況となっている。
著者: 島一則

参考文献: 市川昭午「高等教育財政研究の課題と方法」,塚原修一(研究代表者)『高等教育の現代的変容と多面的展開―高等教育財政の課題と方向性に関する調査研究』国立教育政策研究所,2008.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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