ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジェノサイド」の意味・わかりやすい解説
ジェノサイド
genocide
現代の国際法では,ジェノサイドは国際軍事裁判所憲章(ニュルンベルク憲章)で規定された「人道に対する罪」の一部となっている。国際軍事裁判によってナチスの残虐行為が明らかになったことを契機に,1946年12月の国連総会で,ジェノサイド罪が国際法のもとで処罰されうることを言明した決議が採択され,1948年12月,国際連合初の人権条約となる「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」が採択された。条約では,ジェノサイドの嫌疑をかけられた人間は国際的な刑事裁判所や行為地の国内裁判所で裁かれなければならないと規定されたが,続く 50年の間は効果的な執行制度を欠き,21世紀初頭まで恒久的な刑事裁判所は存在しなかった。1993年,ボスニア・ヘルツェゴビナが紛争(→ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争)におけるユーゴスラビア連邦共和国のジェノサイド条約違反を国際司法裁判所に提訴した。これをきっかけに,国際社会はジェノサイドと疑われる犯罪の訴追に取り組み,国連安全保障理事会は旧ユーゴスラビア国際戦争犯罪法廷とルワンダ国際犯罪法廷を設置した。1998年,戦争犯罪やジェノサイドを審理・処罰する恒久的な国際機関として国際刑事裁判所 ICCを設立する条約「国際刑事裁判所に関するローマ規程」が 120ヵ国の賛成により採択され,2002年7月1日に発効した。
一方で,ジェノサイドの防止という課題は残されている。防止策を議論するうえで,戦争犯罪とジェノサイドの区別は重要となる。戦争犯罪の場合,あらゆる民間人が標的となりうるが,ジェノサイドでは人種,国籍,民族,宗教などの属性によって特定される。また,戦争犯罪の場合には戦争が終結すれば追加の防止策は必要ないが,ジェノサイドの場合には紛争終結後も標的となる集団の生存を確保するための対策を講じる必要がある。(→民族浄化)
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