従来は,刑法の場所的適用範囲に関する国内法を意味する狭義の概念であった。しかし今日では,犯罪の国際化に伴い,国際刑事管轄,外国判決の国内的効力,犯罪人引渡し等の国際司法共助(国際共助)などが重要性を増大させるにつれて,それらを含む広義の概念として用いられる傾向にある。日本の現行法は,刑事管轄については条約上立法を義務づけられた事項に関し,〈航空機の強取等の処罰に関する法律〉〈公海に関する条約の実施に伴う海底電線等の損壊行為の処罰に関する法律〉等によって個別的に対応している。外国判決の効力については,一事不再理効を認めず,ただ刑の執行にあたり外国での受刑を考慮して減軽・免除することとしている(刑法5条)。司法共助に関しては,逃亡犯罪人引渡法,国際捜査共助法等によって対処している。この広義の国際刑法は,手続法をも含むため,国際刑事法とも称される。将来国際刑事裁判所が創設されれば,そこで適用される実体法・手続法は国際刑事法の基本的な内容となる。
刑法の場所的適用範囲に関しては,属地主義,属人主義,保護主義,世界主義の四つの原理がある。(1)属地主義は,犯罪が自国の領域内(国内)で行われた場合には,なんぴとを問わず自国の刑法を適用する,という原理で,国家の領域主権に基づく。旗国主義は,この属地主義の特別な場合として,国外にある自国の船舶・航空機内で行われた犯罪に対しては自国の刑法を適用する,という原理である。(2)属人主義は,犯罪が自国民によって行われた場合には,犯罪地のいかんを問わず自国の刑法を適用する,という原理である。これを基礎づける考えには,国民の国家に対する忠誠関係に求める国家忠誠説と,自国民を外国に引き渡さないかわりに外国に代わって処罰する必要のある点に求める代理処罰説とがある。後者では,犯罪地たる外国の刑法でもその犯罪が可罰的であることが必要となる。(3)保護主義には,国家保護主義と国民保護主義とがある。前者は自国の利益を侵害する犯罪に対して,後者は自国民の利益を侵害する犯罪に対して,犯罪者・犯罪地のいかんを問わず自国の刑法を適用する,という原理である。前者は国家の正当な防衛に,後者は国家の国民に対する保護義務をそれぞれ根拠とする。(4)世界主義は,人類または各国共通のあるいは国際的な利益を侵害する犯罪に対して,犯罪者・犯罪地のいかんを問わず自国の刑法を適用する,という原理で,国家の文化的使命・国際協力,犯罪に対する社会防衛の国際的連帯性に基づく。奴隷売買・海賊・麻薬取引のほか,ハイジャッキング・海洋汚染・無免許放送等,この原理が適用される範囲は広がる傾向にある。
日本の刑法は,属地主義・旗国主義を原則とするため(刑法1条),国内犯は,犯罪者の国籍・罪の種類を問わず処罰している。これに対し国外犯は,他の原理により,主体・罪種を制限して例外的に処罰している。したがって,国外犯の処罰には刑法8条により〈特別ノ規定〉が必要である。ところが,それは明文の規定を意味せず,法令の解釈から処罰の趣旨が読みとれれば足りるとされている。ここに解釈論上の問題がある。また立法論上も,国外には外国と,公海などどの国の主権も及ばぬ区域とがあるが,改正刑法草案にみられるように十分配慮されていない。公海については,大陸棚・排他的経済水域における活動に関して,また世界主義に基づいて処罰される公海上の犯罪に関して,刑法の適用が必要とされる範囲が広がっている。
→国際犯罪
執筆者:田中 利幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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