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国際商事仲裁 こくさいしょうじちゅうさいinternational commercial arbitration

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

国際商事仲裁
こくさいしょうじちゅうさい
international commercial arbitration

当事者が選んだ仲裁人の判断に従うことを合意して行う紛争解決手続である仲裁のうち、国際取引紛争を対象とするものをいう。[道垣内正人]

意義

歴史的には、仲裁は、商人間の争いを自主的に解決する制度として発展してきたものであり、国家の司法制度が確立されてくるにつれて、好ましくない存在として扱われるという時期を経て、今日では多くの国において、その有用性が認められるようになっている。すなわち、法は、国家による紛争解決方法である訴訟とは別に、私人である仲裁人に法的解決を委ねる仲裁契約を有効と認め、仲裁契約が存在するのに裁判所に提訴された場合には、裁判所はその訴えを却下するという扱いをし、仲裁手続を経てなされる仲裁判断には確定判決と同一の効力を認めるという扱いをしている(日本では仲裁法45条1項)。とくに国際取引をめぐる紛争の解決手段として仲裁の有用性は一般に高く評価されている。[道垣内正人]

国際商事仲裁の利点

仲裁には、裁判との比較において、秘密裏に専門家による迅速な解決が得られるという仲裁の一般的なメリット(利点)があり、とくに国際取引紛争の場合には、それに加え、国籍等に配慮した適切な仲裁人の選定をすれば、中立性を確保することができ、また、準拠法となる法律や一般には知られていない国際商慣習の適用について信頼性の高い判断を仰ぐことができるというメリットがある。また、仲裁判断の国際的通用性を確保するものとして、日本を含む150か国以上の国が締約国となっている「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(昭和36年条約第10号。一般に「ニューヨーク条約」とよばれている)があり、仲裁合意の尊重や仲裁判断の他の締約国での承認および執行について、国際的なインフラが整備されている。以上のようなメリットが評価され、国際取引に関する契約には仲裁条項が置かれ、訴訟による解決を排除して、仲裁による解決によるとする例が少なくない。もっとも、仲裁契約は当事者間限りのものであり、また、仲裁手続も仲裁判断も裁判とは異なり公開されないため、国際取引でどの程度仲裁が活用されているかについての統計的な数字は不明である。なお、裁判についても上記のニューヨーク条約に匹敵する仕組みを構築しようとする努力は20世紀の末からハーグ国際私法会議において試みられており、2015年には「管轄合意に関する条約」が発効し、メキシコおよびヨーロッパ連合(EU)加盟国(デンマークを除く)の計28か国で効力を有するに至っている。[道垣内正人]

法律・条約

国内法としては仲裁法(平成15年法律第138号)があり、原則として日本を仲裁地とする国際商事仲裁に適用される。この法律は、明治以来、民事訴訟法のなかに置かれていた仲裁に関する規定(1996年の新民事訴訟法制定の際に「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」のなかに移された)を、仲裁をより実効性のある紛争解決手段とするために全面的に見直し、また、1985年(昭和60)に国際連合国際商取引法委員会United Nations Committee on International Trade Law(UNCITRAL(アンシトラル))が作成した国際商事仲裁に関するモデル法を参考にして、国際標準に準拠し、国際商事仲裁にも十分配慮して制定されたものである。このモデル法は、カナダ、オーストラリア、香港(ホンコン)、ブルガリア、ロシア、スコットランド、シンガポールなどの国や地域でほぼそのまま採用されており、また、オランダやアメリカのフロリダ州などは独自の観点から取捨選択して自国法に取り入れている。日本はこの後者の方法を採用したことになる。なお、UNCITRALは、2006年に上記のモデル法を一部改訂し、電子的な方法での仲裁合意や仲裁廷による保全処分などについての定めを置いている。
 他方、国際商事仲裁に関する条約として重要なものに、前記のニューヨーク条約がある。これは、1923年(大正12)の「仲裁ニ関スル議定書」および1927年(昭和2)の「外国仲裁判断ノ執行ニ関スル条約」を引き継ぎ、国際商事仲裁の利用の拡大を目的に1958年に国際連合のもとで作成された条約である(1959年発効)。同条約は、書面による仲裁合意を妨訴抗弁(仲裁合意の対象となっている紛争について提起された訴えに対し、その却下を求める申立て)して認めることのほか(同条約2条)、外国仲裁判断の承認・執行拒否事由として、仲裁契約が有効になされていなかったこと、当事者に対する防御権の保障に欠けていたこと、仲裁付託事項を逸脱していること、仲裁付託適格性を欠いていること、公序に反することなどを規定している(同条約5条)。日本は相互主義の留保をしているが(同条約1条3項)、仲裁法によればニューヨーク条約とほぼ同一の要件で外国仲裁判断の承認・執行を認めているので、事実上、相互主義の留保を撤回したのと同じ状態になっている。なお、2006年に、UNCITRALは、電子取引に対応するため、ニューヨーク条約を改正することなく、上記の書面性の要件(同条約2条)について、交換された書簡や電報によってもよいとの定めは排他的な例示ではないことなどの勧告をし、同年、国連総会はその勧告をアプリシエイト(高く評価)する旨の決議を採択している。
 また、投資受入国と外国投資家(企業)との間の国際投資紛争解決のために、「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約」(昭和42年条約第10号)がある。これは、投資紛争解決国際センターInternational Centre for Settlement of Investment Disputes(ICSID(イクシッド))を設立し、そこで行う調停および仲裁の規則を定めた条約である。締約国と他の締約国の国民との間で投資から直接生ずる法律上の紛争であって、両当事者がセンターに付託することについて、事前事後を問わず書面で同意している場合に(同条約25条)、いずれか一方がセンターの事務局長に書面による調停または仲裁手続開始の請求を行うことにより開始される(同条約28・36条)。締約国数は、日本を含む160か国に達しており、とくに途上国等への投資をめぐる紛争の解決方法としては有効なものといえよう。
 そのほか、伝統的に2国間の友好通商航海条約の多くに仲裁に関する規定が置かれている。また、近時の多くの投資協定中にも、外国投資家が投資先で「公正かつ衡平な待遇fair and equitable treatment」を受けなかったことなどを理由とする投資先国を相手とする紛争について仲裁を用いることが定められており、相当数の事例において投資先国に多額の損害賠償を命ずる仲裁判断が出されている。[道垣内正人]

仲裁機関

仲裁には、当事者が仲裁人の選任、仲裁手続、仲裁人報酬などすべての事項を個々に取り決めるアド・ホック仲裁と、常設の仲裁機関の用意している仲裁手続に関する規則に従って、その機関による事務的補助のもとに仲裁を行う機関仲裁とがある。国際商事仲裁を多く手がけている常設仲裁機関としては、アメリカ仲裁協会American Arbitration Association(AAA)、ロンドン国際仲裁裁判所London Court of International Arbitration(LCIA)、およびパリに本部を置く国際商業会議所International Chamber of Commerce(ICC)が著名であり、アジアでは、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)、香港国際仲裁センター(HKIAC)などが多くの事件を扱っており、日本には、日本商事仲裁協会および日本海運集会所がある。[道垣内正人]

問題点

仲裁付託適格性、すなわち、仲裁によって解決できる紛争の範囲についてどこの国の法律を適用するかについては、独占禁止法や証券取引法上の請求がなされる場合に仲裁人がその判断をできるのか、あるいは公益に関する問題として裁判所のみが判断することができるのかという問題が実務上重要な論点となっており、これについては国家主権にかかわるため、国際的な統一はできていない。たとえば、アメリカでは仲裁付託適格性が広く、独占禁止法や証券取引法上の請求は仲裁付託適格性があるとされているが、日本の仲裁法は、当事者が和解をすることができる民事上の紛争(離婚・離縁を除く)を対象とする場合に限り仲裁合意は有効であると定めているだけであり(同法13条1項)、公益に関係する場合の裁判例は存在しない。外国仲裁判断の承認・執行の要件の一つとして、承認・執行国法によっても仲裁付託適格性が認められることが必要であるため(ニューヨーク条約5条2項a)、外国での仲裁判断の執行が見込まれる場合には、当該外国における仲裁付託適格性の調査が必要である。[道垣内正人]

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