日本大百科全書(ニッポニカ) 「外国仲裁判断」の意味・わかりやすい解説
外国仲裁判断
がいこくちゅうさいはんだん
foreign arbitral award
外国を仲裁地とする仲裁において仲裁人が下した最終的な判断。日本の仲裁法は仲裁地を基準にして国内仲裁と外国仲裁に分けている。しかし、国によってその基準は異なり、フランスのように、外国を仲裁地とする仲裁であってもフランス法を仲裁手続の準拠法とすることを認め、それを「国際仲裁」として、国内仲裁・外国仲裁とは別のカテゴリーとして認める法制もある。そのため、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(昭和36年条約第10号。一般に「ニューヨーク条約」とよばれている)第1条1項では、承認・執行を求められる国以外の国の領域内でなされた仲裁判断のほか、それが求められた国において内国仲裁とは認められない仲裁判断について適用する旨規定している。
仲裁地の決定は、第一次的には当事者が合意により、そのような合意がないときは仲裁廷(通常1名または3名の仲裁人により構成される法廷)が当事者の利便その他の紛争に関する事情を考慮して、定めることになる。もっとも、仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、仲裁地でなくても仲裁人の間での評議、当事者、鑑定人または第三者の陳述の聴取、物または文書の検分をすることができるので、仲裁地は仲裁のいわば国籍を定めるための人工的な概念である。
外国仲裁判断の承認・執行とは、外国仲裁判断の効力を認め、それに基づく強制執行をすることである。これに関して、日本は一部の国との間で友好通商航海条約なども締結している。多国間条約としては、1927年(昭和2)の「外国仲裁判断ノ執行ニ関スル条約」があり、日本もこれを批准している。そして、この改正条約として作成されたのが既述のニューヨーク条約であり、日本を含む約170か国が締約国となっている。外国裁判所の判決の承認・執行についてはこの種の条約はないため、ニューヨーク条約は国際取引紛争の解決手段としての仲裁の有用性を支える基盤となっている。ニューヨーク条約第5条1項によれば、以下のいずれかを当事者が立証すればその仲裁判断の承認・執行は認められない。仲裁契約を締結した者に行為能力がなかったこと、仲裁契約が有効でないこと、仲裁判断が不利益に援用される者に対して仲裁手続に関する適当な通告がなかったこと、その者が他の理由により防御することが不可能であったこと、仲裁判断が仲裁に付託されていない事項に関するものであること、仲裁手続が当事者の合意に反していたこと、仲裁手続が仲裁地法に反していたこと、仲裁判断に拘束力がないこと、以上である。また、同条約第5条2項によれば、自国法によれば仲裁による解決が不可能である事項に関する仲裁判断であること、または承認・執行をすることが自国の公序に反することのいずれかに該当するときには、裁判所は職権によって、承認・執行を拒否することができるとされている。日本の仲裁法の附則第3条によれば消費者は消費者契約についての仲裁合意を解除することができるとされ、同法附則第4条によれば個別労働関係紛争についての仲裁合意は無効とされているので、これらに関する外国仲裁判断の承認・執行は日本では認められない。
日本はニューヨーク条約の批准に際して、同条約の締約国でなされた仲裁判断についてのみ同条約を適用する旨の相互主義の留保をしているが(同条約1条3項)、仲裁法第45条・46条はニューヨーク条約とほぼ同一の条件ですべての外国仲裁判断の承認・執行を認めているので、事実上この留保を撤回したのと同じ状況になっている。
[道垣内正人 2022年4月19日]