改訂新版 世界大百科事典 「国際経済法」の意味・わかりやすい解説
国際経済法 (こくさいけいざいほう)
現代においては国民経済と国際経済は密接に関連しており,国民経済における秩序づくり(経済法)と同時に,国際経済総体におけるなんらかの秩序づくりが不可欠となっている。〈国際経済法〉という法分野は,このような要請に応じてできあがってきたものである。第2次大戦後,アメリカの指導力を背景として,ブレトン・ウッズ体制が形成され,国際通貨基金(IMF),世界銀行,および,関税・貿易に関する一般協定(GATT(ガツト))を中心として,国際経済秩序が建設された。このようなブレトン・ウッズ体制は,たび重なる試練に直面しつつも,ともかくも現代に至るまで,国際経済の基本秩序となってきている。この主要内容は,国際通貨,国際金融,および国際貿易の基本ルールの設定である。国際経済法という分野は,ほぼこのような三つの分野を中心として,国際経済に関連する重要な法的規制を取り扱うものである。
このような学問分野の性質からして,〈国際経済法〉の範囲は非常に広範であり,また,どの範囲の事項までをこれに含めるかについて,必ずしも定説があるわけではない。このなかには,国際法的規範(国際条約,国際慣習法)が入ることはもちろんであるが,このほか,各国の国内法としての〈対外経済法〉もこれに含めることができよう。以下に,国際経済法の主要分野を概観しよう。
(1)国際経済条約,国際経済機関 関税・貿易に関する一般協定(GATT),国際通貨基金(IMF)協定,経済協力開発機構(OECD)条約など,国際経済関係を規律する重要な条約ないし国際協定が多数存在する。これらについての研究は,国際経済法学のなかでは重要である。また,条約・協定と並行して,国連,IMF,OECD,GATT,WTOなどの重要な国際機関があり,各国間の経済的利害の調整,経済政策の調和,自由貿易の維持などきわめて重要な事項の規制を行っている。(2)国家の国際通商規制 国家の諸活動は,その国の憲法的枠組みのなかで行われる。たとえば,国家が経済条約を締結する場合や,国内法により対外通商関係の規制を行う場合などにおいては,すべてその国家の憲法上の制約の下で行わなければならない。この意味においては,国家の憲法上の枠組みは,国際経済の規制に対しては重要な意味を有しているといえる。(3)管轄権の重複と抵触 現行のように,企業活動が広く国際的に行われている時代においては,国家法による企業規制は必然的に重複し,ときには2国の法が同一行為に対して適用されることがあり,また,この両法の規制が相互に矛盾していることなどがある。これが独禁法等にみられる〈域外適用〉である。これについては,各国によってルールが異なり,いまだに統一的な原則が形成されていない。(4)国際通商法 貿易および投資に関しては,つねに自由主義と保護主義があり,このおのおのを体現する法制がある。前者の例としては,〈関税・貿易に関する一般協定〉や,各国の独禁法制などをあげることができる。後者の例としては,各種の輸入制限,ダンピング規制などをあげることができる。国際通商,すなわち貿易に関する法規制は,輸出規制と輸入規制に大別できる。輸出規制としては,戦略的目的からする輸出規制(たとえば,アメリカの輸出管理法による対ソ輸出規制)及び経済的目的からする輸出規制(日本の対米輸出規制)がありうる。輸入規制はきわめて多岐にわたるが,関税障壁と非関税障壁とに大別することができる。非関税障壁としては,輸入数量制限,輸入カルテル,ダンピング規制,相殺関税,政府調達の規制など多種多様なものがあげられる。最近では,法律による通商制限のみならず,流通機構の閉鎖性など,事実上の制限も非関税障壁と考えられるようになっている。(5)為替管理,投資規制 物(商品)の国際的移動の規制と並んで,資金,役務(サービス)等の国際的移動の規制もまた,現代の国際経済においては重要な役割を果たしている。これらには,外国為替管理,国際投資規制,その他各種のサービス貿易の規制が含まれている。このほか,国際的技術移転の規制の問題もあるが,これも広い意味においては,外国投資規制の一環と考えることができるであろう。(6)国際的競争法 以上と並んで,私企業による競争制限を防止して,自由で公正な競争秩序を国際的に確立することは重要である。これは,各国の独占禁止法の規制を通じて達成される。この目的から,国際カルテルの禁止や代理店契約,直接投資,技術移転等について競争維持を図ることが重要である。この意味において,各国の独占禁止法の渉外面もまた,国際経済法の範囲に含めてよいであろう。
→国際商法
執筆者:松下 満雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報