水田土壌(読み)すいでんどじょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水田土壌」の意味・わかりやすい解説

水田土壌
すいでんどじょう

日本の農耕地でもっとも重要な水稲栽培土壌で、その面積は1970年(昭和45)以降減少し、251万ヘクタール(2009)である。水稲湛水(たんすい)(水を張った)状態のもとで栽培されるため、水田は多量の水が得られる河川湖沼に近い平坦(へいたん)な沖積地に多く分布し、その治水効果は大きいが、台地や丘陵地、山腹斜面などにある水田も少なくない。水田土壌は湛水の影響を強く受けるので、畑土壌とは多くの点で異なった特徴がみられる。第一は、作土の還元である。年間かなりの期間水を張った状態にあるため、土壌はごく表層を除いて酸素不足の状態となり、鉄、マンガン、窒素なども還元された形態へと変化する。したがって、落水期にその断面を観察すると暗緑色ないし灰色を呈し、鉄の沈積物を含んでいる。またその下には、鉄に富む層とマンガンに富む層がある。還元状態では有害な糸状菌の生息が困難なので、水田では畑で問題となるような連作障害がおこらない。第二は、作土のすぐ下に数センチメートル程度の厚さの硬い鋤床(すきどこ)層が存在することで、この層の働きにより漏水が防止され、湛水が容易になる。第三は、湛水により雑草が防除され、また、田面水中に生える藻類の働きなどで地力が維持されることなどである。しかし、土壌の還元状態に適応できる作物しか栽培できないのが欠点である。

[小山雄生]

『川瀬金次郎・横山栄造・松井慎著『日本の水田土壌』(1972・講談社)』『川口桂三郎編『水田土壌学』(1978・講談社)』『山根一郎編、飯村康二他著『水田土壌学』(1982・農山漁村文化協会)』『日本土壌肥料学会編『水田土壌とリン酸――供給力と施肥』(1984・博友社)』『久馬一剛編『最新土壌学』(1997・朝倉書店)』『長谷川和久著『土壌と生産環境』(2002・養賢堂)』『日本土壌肥料学会編『ケイ酸と作物生産』(2002・博友社)』『日本土壌肥料学会編『水田土壌の窒素無機化と施肥』POD版(2003・博友社)』『日本土壌微生物学会編『新・土の微生物10 研究の歩みと展望』(2003・博友社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「水田土壌」の意味・わかりやすい解説

水田土壌 (すいでんどじょう)
paddy soil

水稲栽培のために人工的に種々の特別な施工,管理を行った土壌をいう。日本,東南アジア諸国をはじめ,世界に広く分布する。水田土壌は年間のかなりの期間が水で飽和された状態におかれるために,土壌の形態や特性は一般の畑土壌や森林土壌に比べ顕著に異なる。水田土壌はおもにその断面形態の特徴から,泥炭土,黒泥土,グライ土,灰色土,灰褐色土,黄褐色土,黒色土および礫質(れきしつ)土に大別される。透水性のよい水田土壌では作土層(耕耘(こううん)される層)の直下(すき床層)あるいはすき床層より下層(心土)には鉄やマンガンが多く集積し,鉄集積層やマンガン集積層とよばれる層が形成される。通常,鉄集積層のほうがマンガン集積層よりも土層の浅い部分に形成される。水田土壌では稲作期間に10a当り約100万lの灌漑水が供給されているが,そのさい持ち込まれる無機成分量も無視できない。また,田面水には藻類が生育し,空気中の窒素を固定して土壌に窒素の供給をもたらす。水田で無肥料栽培を継続しても,畑の場合よりも長く高い収量を維持できるのは,このような天然養分の供給によるところが大きい。作土層が湛水(たんすい)状態におかれると好気性細菌の活動により酸素が消費され,還元過程が進行し,水稲が利用できない形態の窒素とリン酸が吸収利用できる形態に変化する。これを窒素またはリン酸の有効化という。しかし,土壌の還元化は反面種々の障害をもたらす。鉄の作土からの溶脱が進行し,鉄含量が著しく少なくなった老朽化水田では硫化水素が発生し,水稲の根の養分吸収を阻害して,秋落ちとよばれる障害の一原因となる。また,硝酸塩が脱窒菌の作用で還元され,窒素ガスとなって大気中に失われる脱窒現象があらわれ,水田における窒素の損失の主要なものとなっている。
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百科事典マイペディア 「水田土壌」の意味・わかりやすい解説

水田土壌【すいでんどじょう】

水田に形成される土壌。自然土壌に各種の水田造成過程(平たん化,整地,畦(あぜ)立て,灌(かん)排水施設,床締め客土等)や水稲栽培過程(耕起,湛水(たんすい),代掻き,多量の施肥,中耕除草,中干し,落水,収穫,冬作導入等)の多くの人為作業が加わったため,森林,草地や畑の土壌の場合とは異質か,または同質でもはるかに強度の土壌生成過程(表層からの物質の還元溶脱と酸化集積,粘土の機械的移動,地下水位の変動によるグライ化や斑紋形成,泥炭・黒泥の分解,土層の圧密化等)が,自然環境下での作用に重複して進行し,特有の水田土壌断面を形成する。地下水位の高いものはグライ土に近いが,地下水位の低いものは,作土,すき床とグライ層の中間に,表層から還元溶脱した鉄分が酸化集積してできた褐色の斑紋や,焦茶色の酸化マンガンの斑紋が発達した特有の層位が発達する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水田土壌」の意味・わかりやすい解説

水田土壌
すいでんどじょう
paddy soil

天然または人工的に灌漑され夏季数ヵ月は少くも地表面付近は水で飽和状態になっていて,水の影響を強く受けている土壌。主として水稲が栽培される。灌漑水からの養分の供給を受けているので畑土壌よりも肥沃である。また飽和した水面下にあって還元状態になるため,酸性になりにくい。反面酸化還元によって形態変化が行われ,還元状態のほうが水に可溶な鉄,マンガンなどは下行する灌漑水とともに流亡しやすい。日本の水田土壌は施肥改善事業によってはじめて本格的に調査され,(1) 泥炭土壌,(2) 泥炭質土壌,(3) 黒泥土壌,(4) 強グライ土壌,(5) グライ土壌,(6) 灰色土壌,(7) 灰褐色土壌,(8) 黄褐色土壌,(9) 黒色土壌,(10) 礫層土壌,(11) 礫質土壌,の 11群に分類された。そのおのおのはさらに主として作土下部の土性によって区分され,全体として 11群 51型に分けられた。これら上記土壌群名は一部は統合されたがほぼ土壌群に相当し,51型のほうはさらにくわしく定義されて現在の農耕地の 308の土壌統の原型となった。

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