特定の地域やコミュニティで、物やサービスの対価として決済に使える擬似的な通貨。「日本円」「アメリカドル」といった法定通貨では実現しにくい、地方経済の活性化、住民福祉の支援、社会問題の解決などのために発行される。住民、商店街、非営利組織、自治体、企業、金融機関などが発行し、たとえば、高齢者の送迎、掃除の手伝い、間伐(かんばつ)材の処理などの対価として地域通貨を賦与し、福祉増進、相互扶助、環境保護などに役だてる目的がある。地域通貨には利子が存在せず、長期保有すると価値が減退するため、決められた域内で一定期間内に消費しようとの誘因が働き、これが地域経済の活性化効果をもたらすとされる。発行形態は商品券のような「紙幣型」、通帳で管理する「口座記帳型」、手形などを発行する「小切手型」などがあり、最近はブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用し、送金・決済コストを削減した電子地域通貨が急速に普及している。法的には商品券やプリペイドカードと同じ位置づけであり、有効期間が半年を過ぎると資金決済法の対象となる。北海道栗山(くりやま)町の「クリン」、千葉県の「ピーナッツ」、東京・早稲田大学周辺を発祥として、全国の加盟店で使える「アトム通貨」など地域や特産品にちなんだ名がつけられる。地域通貨は、(1)信頼を基盤とした域内循環で成立する、(2)半年とか1年といった使用有効期間を定めている場合が多い、(3)原則、法定通貨と交換できない、(4)社会福祉や環境保護など市場原理が働きにくいサービス分野の支援に有効である、などの特徴をもつ。
ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルSilvio Gesell(1862―1930)が提唱した「スタンプ通貨」を基に、1929年の世界恐慌後、通貨不足に陥った欧米で地域通貨が相次いで誕生・流通した。これは一定期間ごとの紙幣へのスタンプ貼付を条件とすることで、貨幣価値を時間とともに減価させ(マイナス利子)、貨幣退蔵の防止と消費刺激をねらっていた。しかし恐慌から脱して経済が復興するとともに地域通貨は廃れた。その後、1980年にアメリカ・ワシントンDCの貧民層を対象にボランティアサービスを蓄積交換するための仕組みとして「タイムダラーTime Doller」や、1983年にカナダ・バンクーバー島コモックス・バレーの炭鉱閉山で疲弊した地域活性化のための「LETS(レッツ)(Local Exchange Trading System、地域交換取引制度)」などが考案され、政府に頼らずに経済活性化を目ざす試みとしてヨーロッパやオセアニアなどにも広がった。2017年時点で世界に5000種以上の地域通貨が存在する。日本では1999年(平成11)以降、900を超える地域通貨が誕生したが、管理コストがかさみ使用・流通範囲が限定されるうえ、偽造問題もあって、その4割は廃止・休眠状況にある。最近では、パソコンやスマートフォンの普及で、偽造がむずかしく利用データを捕捉(ほそく)・活用しやすい電子地域通貨が増えている。
[矢野 武 2018年9月19日]
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