建築,土木工事の開始に先立ち,土地の霊を鎮め,工事の安全を祈る祭事。現在の一般的な方式は,工事場の一部を掃き清めて祭場を設け,四隅に青竹を立てて注連縄(しめなわ)を張り,野菜などの神饌(しんせん)を供え,神官が祝詞(のりと)を奏上し,土地の中央および四方を祓い,ついで建築主や技術者,職人が玉串を捧げて祈る。このような祭事は建築儀礼の一つとして日本では古代から行われたが,その名称や方式は神道と仏教による相違や時代による相違など,いろいろな変化があった。地鎮祭の最も古い記録は《日本書紀》持統天皇5年(691)条の藤原京造営に先立つ〈新益京(しんやくのみやこ)を鎮め祭らしむ〉という記事であるが,具体的にどのような内容であったかは明らかでない。古代の伊勢神宮では鎮地祭,鎮祭,鎮謝,地祭などの名称が用いられ,鎮物(しずめもの)として鉄製人形,刀子,鏡などが埋められ,神饌には酒,米,鶏卵等が使われた。古代の大寺院造営でも地鎮祭に類似する祭事が行われたことは,東大寺金堂,興福寺金堂等から鎮壇具が出土していることから推定されるが,名称や内容を記す記録は見当たらない。中世の仏教による地鎮祭は地鎮法と呼ばれ,鎮物には五穀,五色玉などが用いられた。しかし中世の建築工事の記録を見ると,一般に手斧始(ちようなはじめ)(釿(ちような))に先立つ建築儀礼としては,礎(いしずえ)(礎石を据え付けるときの祭事)や地引(じびき)または鋤始(すきはじめ)(整地開始の祭事)を行うものが多く,地鎮祭(土公祭(どこうまつり)とも呼ばれた)を行っている例は少ない。江戸時代の大工技術書を調べてみても,地鎮祭が建築儀礼のなかで重要な位置を占め,それに応じて儀式の形式などが整えられるのは,江戸時代後半以降と考えられる。この時期は神道の民間普及が進むとともに,民家の質の向上に伴い方位による吉凶の思想が設計に影響を及ぼすようになった時期でもある。現在の地鎮祭の習俗はこのころに確立した。
執筆者:大河 直躬
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建築・土木の工事に着手する前、土地の神を祝ってその工事の無事に済むことを祈る祭りをいう。地(じ)祭りともいって、家主、大工、親戚(しんせき)などが集まり、神職に祈ってもらう。岡山県では新たに屋敷をつくったり、新築をするときは神官、法印、民間の祈祷師(きとうし)を招いて地鎮祭を行ってお祓(はら)いをする。ここでは出雲(いずも)大社で祈念し、大社屋敷の砂をもらってきて敷地に撒(ま)いておくと障(さわ)りがないといわれている。福井県三方(みかた)郡常神(つねかみ)では地祭りといって、新築にとりかかるとき土地を塩で清め、東西南北と書いた幣(へい)を立て、方丈(ほうじょう)さんに拝んでもらうという。これを土(つち)祭りともいっている。火災にあった家では土を掘り取って清い山の土と入れ替えることも行われた。新潟県佐渡島では地祭りといって、敷地の四隅(よすみ)と中央にカワラケと神主の書いた呪文(じゅもん)を入れた竹筒を埋め、中央に祭壇を設け、山の物、海の物、神酒、塩を供えて祈祷し、金神除(こんじんよ)けとして幣束(へいそく)を立ててお祓いをする。
[大藤時彦]
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