型染め(読み)かたぞめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「型染め」の意味・わかりやすい解説

型染め
かたぞめ

型を用いて文様を染め表すこと、またその技法による染物。用いられる型には素材・形式ともに種々のものがあるが、一般的には板面に文様を凹凸彫りにした「版型」と、文様を透し彫りした「透し型」とに大別される。またこの型を用いる染色技法には、型に染料顔料をつけ、直接に布帛(ふはく)に文様を印捺(いんなつ)する直接的な文様染め、いわゆる「プリント」と、型を用いて蝋(ろう)や糊(のり)の防染剤を置き、文様を染め抜く「防染文様染め」とがある。

 型染めの発達過程においては、まず「版型」によって直接に文様を印捺する、いわゆるわが国上代摺絵(すりえ)や、またその系統をくむ鎌倉時代の蛮絵にあたる技法のものが、もっとも初歩的なものと考えられる。しかし中国ではすでに紀元前にこの技法によって相当高度なものが考案されており、たとえば前漢墓長沙(ちょうさ)馬王堆(まおうたい)出土の「印花紗(いんかしゃ)」は、文様の各部の色分けに従って用意された5枚の摺型で印捺されたと推定されるものである。

 これに対して版型による防染文様染めは、わが国上代の﨟纈(ろうけち)やインド更紗(さらさ)、ジャワ更紗、ヨーロッパの文様染めなどのなかで用いられている。型の素材は、古くは陶製のものなども使われたようであるが、木製がもっとも多い。またジャワ更紗のチャップとよばれる金属製のものや、ヨーロッパでつくられた木型に細い鋲(びょう)を打ち込んだ特殊なものもある。なおインド更紗の染法には、型を使って布に蝋を置くだけでなく、型によって媒染剤を置く方法もとられる。いわゆる媒染文様染めと称される染法で、あとから染料につけて媒染剤の置かれたところのみ発色させるという方法である。こうした版型では、原則として型の大きさは、手で握って押捺できることを限度とするので、あまり大きな文様単位のものはないが、数個の型をあわせて用いることによって、大文様を構成したものもみられる。「透し型」による直接的な文様染めには、絵革染め、摺箔(すりはく)、摺匹田(すりひった)、明治以降に発達した型友禅などがある。これに対し、防染剤(主として糊)を施す防染文様染めには、小紋、中形、沖縄の紅型(びんがた)、工業化されたスクリーン捺染などがある。これらの型の素材は紙がそのほとんどを占め、まれに皮、近代以降には金属板などが用いられている。大きさは通常、布幅いっぱいの幅と、型送りに適当な長さをもったもので、文様はこの一型を単位として反復されるのを原則とする。しかし紅型や一部の中型染めにみられるように、数枚もしくは数十枚の送り型を用いて絵画的な文様を染め表すこともあるし、型友禅のように、1色ごとに異なる型紙を用いて多色の文様を染め出すものもある。また型紙を斉一に反復させるのではなく、散らし文様風に、種々の型をさまざまの方向に置き、一見パッチワークのようなおもしろい効果をねらったものもある。

 なお型染めには、以上の範疇(はんちゅう)には入らない、つまりプリントも防染剤も施さないが、文様を刻した板の間に布帛(ふはく)を挟んで締め、その圧力によって防染して文様を染める方法がある。上代のきょう纈(きょうけち)や、中世以降大正ごろまで行われた板締め染めがこれにあたる。型染めは昔からその量産的な性格上、手描(が)きの染めや絞りに対し、多分に大衆的、庶民的な染色としての特徴をもってきているが、他面、型による崩れのない斉一な文様の清潔さ、厳しさが、中形や小紋の大きな魅力の一因でもある。

[小笠原小枝]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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