小紋、中形、大形というのは、本来、模様の大小を区分した呼称であったが、いつのころからか明確でないが、図柄の大小にかかわらず木綿(もめん)に型染めした浴衣(ゆかた)のことを中形、型染めになる絹着尺のことを総称して小紋とよんでいる。
小紋は、良質の樅(もみ)材になる長さ約6.9メートル、幅0.45~0.48メートル、厚さ2.5~3センチメートルの長い板に生地を貼(は)り、端から順次型紙で防染糊(のり)を置き、糊が乾いてから染料を刷毛(はけ)で引染めしたものだが、今日では合成染料の発達から写し糊がくふうされ、「しごき」といって引染めのかわりに型付けした生地に染料の入った写し糊をしごき塗り、蒸して染料を定着させ、水洗いしてすべての糊を落として仕上げている。小紋は遠目には一色染めの無地物にみえ、近くで見ると驚くほどの細緻(さいち)な図柄が染められている。こうしたことが近代人の洒落(しゃれ)や粋(いき)な心に通じるのか、また普段着、洒落着から茶会などのセミフォーマルな場にも用いられ、その用途の幅の広さが受けるのか、近代人の広く愛用するところとなっている。小紋柄には、鮫(さめ)、通し、行儀(ぎょうぎ)、お召十(めしじゅう)、菊菱(きくびし)、霰(あられ)、胡麻柄(ごまがら)などのいわゆる裃(かみしも)小紋の系統のものと、雪月花、長寿など文字文や伝説、物語、諸道具など耳にするもの目にするものを模様化した、庶民の間に育ったものとされるしゃれた図柄の2系列がうかがえる。そしてそれらの呼称は、その柄ゆきからする鮫小紋、行儀小紋、通し小紋などの名称と、用いられた型紙の彫り技による錐(きり)彫りの錐小紋、道具彫りになる道具彫り小紋などの呼び方がある。
また小紋染めには以上のような基本的な手法のほかに、やや複雑な技法になる朧(おぼろ)型、絵払い、常盤(ときわ)などの手法がある。
(1)朧型 型紙により防染糊を置き、引染めして地を染め、ふたたび型付けして地染めをする。したがって地染めは二度となり、その色は重なったものとなる。今日では型付けにより防染糊を置き、さらに別の型で着色防染糊を置き、地染めをし、蒸し、水洗いして仕上げる。
(2)絵払い 型付けにより模様糊を置き、引染めによるか甕(かめ)に漬けて地を染め、水洗いし、ふたたび型付けして地染めし、水洗いする。今日では、型付けし地染めして蒸し、水洗いし、ふたたび型付け、地染め、蒸して水洗いして仕上げる。伊予染などがその好例である。
(3)常盤 型紙によって文様をカチン墨(ずみ)で刷毛摺(はけず)りして表し、同じ型紙をもって刷毛摺りした文様からすこしずらして防染糊を置き地染めする。今日では、型紙で防染糊を置き、その文様とすこしずらして同じ型紙で写し糊を置き、地染めのしごきをし、蒸して水洗いして仕上げる。
本来、小紋には前述のように裃系のものと庶民系のものがあり、とくに裃系のものは一般には留柄(とめがら)として使用できぬものがあった。しかし明治以降はすべて一般の用に供せられるようになるとともに、合成染料の発達により、好みの色が自由に染められるようになって、ますますその用途の幅を広げている。植物染料や顔料による旧来の刷毛による引染めから、合成染料による写し糊の出現によって染色加工法にはその変遷がうかがえるが、淡泊で粋な味わいは小紋の特質として変わらない。また、小紋の型を彫るにも染めるにも、一見単純にみえ、なんの曲もないようにみえる鮫小紋や通し小紋が、もっとも至難なものとされている。淡泊な柄ゆきの一見無地物にみえるこれらは、彫りむらや染めむらが目につきやすく、小紋の役物とされている。
[杉原信彦]
『杉原信彦著『染の型紙』(1968・京都国立博物館)』
細かい型模様を染めたものの総称。中形(ちゆうがた)に対する小型模様の意。小紋は平安末ころから鎧(よろい)の胴の染韋(そめかわ)に用いられ,小桜韋,菖蒲韋,歯朶(しだ)韋などの小模様を染め出した小紋韋がある。小紋がいつごろから布帛(ふはく)に用いられたかは詳かではないが,室町時代には武家の衣料に用いられ,上杉謙信所用小花小紋帷子(かたびら),徳川家康所用小紋胴服,片倉小十郎所用小紋胴服などの遺品がある。江戸時代には武家の公服に用いる裃(かみしも)に応用され,将軍や大名が各自専用の模様を定め,それを留柄,定め紋と称した。たとえば将軍徳川綱吉の松葉小紋,前田家の菊菱,島津家の鮫(さめ)小紋,浅野家の霰(あられ)小紋など,家を象徴するものとなった。小紋は小さな単位文様のくり返しで単純であるが,むらのない染上りの美しさが粋好みにかない,元禄(1688-1704)ころから町家の男女のしゃれ着にも用いられて流行した。明治以後は女性の絹や麻の着尺に用いられている。近年,細かい柄の友禅染を広く小紋と呼ぶようになったので,伝統的技法を伝承する小紋染を江戸小紋といい,技術保持者の指定にその名称を用いたところから固有名詞化した。型紙は伊勢型(白子型)紙が紀州侯の庇護のもとに全国各地で売り出され,流行とともに鮫,霰,菊菱,小桜,青海波(せいがいは),立涌(たてわく),麻葉,鱗,子持縞,通しなど柄の種類が多くなった。型紙は裃小紋用は彫り幅が曲尺約1尺5寸(約45cm),着尺用は1尺3寸内外,送り(彫りの長さ)は約4寸(約12cm)を単位として模様により決める。染法は生地を長板に張り,型紙をあてて片面に防染糊を引き,染料に浸染するものと,引染のものがある。近年では型付(かたつけ)をしたのち地に色糊を置いて蒸す扱染(しごきぞめ)の方法を用いる。糊は糯米(もちごめ)の粉を湯で練った生糊(きのり)にぬかを入れて調合する。
執筆者:伊藤 敏子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…友禅染がそれを代表する。また型染の技術による小紋,中形(ちゆうがた)の意匠が発達した。小紋,中形は染の量産化の情況に即したものだが,型紙を何十枚も使って,見えないぜいたくをこらしたものもなかにはある。…
…さらに,当代の意匠・技術は今日の染織界にも受け継がれ,新しい染織の創造の母体ともなっている。江戸時代の染色で第1に挙げなければならないのは友禅染に代表される文様染であり,第2には小紋や中形(ちゆうがた)によって代表される型染の著しい発達である。それらの技術的発展の背後にある要因として,前述のように小袖が広く社会の主要な服装となったことが挙げられる。…
※「小紋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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