小紋(読み)コモン

デジタル大辞泉 「小紋」の意味・読み・例文・類語

こ‐もん【小紋】

一面に細かい文様を散らしたもの。また、それを型染めにしたもの。江戸時代にはかみしもに使われたが、のち町家でも羽織着物などに染められた。

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精選版 日本国語大辞典 「小紋」の意味・読み・例文・類語

こ‐もん【小紋】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 錦、綾などで細かい模様を織り出したもの。一説に染め模様であるともいう。
    1. [初出の実例]「今宮、こもんの白き綾の御衣一かさね奉りて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
  3. 布帛の地に星、霰(あられ)、小花など種々の細かい模様を一面に染め出したもの。江戸時代の裃(かみしも)などに行なわれ、現在も婦人の衣服地に用いる。小紋染
    1. [初出の実例]「三十郎にこもんのかたひら一」(出典:三藐院記‐文祿三年(1594)四月二七日)
    2. 「雛形に色をうつし浮世小紋(こモン)の模様」(出典:浮世草子日本永代蔵(1688)一)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小紋」の意味・わかりやすい解説

小紋
こもん

小紋、中形、大形というのは、本来、模様の大小を区分した呼称であったが、いつのころからか明確でないが、図柄の大小にかかわらず木綿(もめん)に型染めした浴衣(ゆかた)のことを中形、型染めになる絹着尺のことを総称して小紋とよんでいる。

 小紋は、良質の樅(もみ)材になる長さ約6.9メートル、幅0.45~0.48メートル、厚さ2.5~3センチメートルの長い板に生地を貼(は)り、端から順次型紙で防染糊(のり)を置き、糊が乾いてから染料を刷毛(はけ)で引染めしたものだが、今日では合成染料の発達から写し糊がくふうされ、「しごき」といって引染めのかわりに型付けした生地に染料の入った写し糊をしごき塗り、蒸して染料を定着させ、水洗いしてすべての糊を落として仕上げている。小紋は遠目には一色染めの無地物にみえ、近くで見ると驚くほどの細緻(さいち)な図柄が染められている。こうしたことが近代人の洒落(しゃれ)や粋(いき)な心に通じるのか、また普段着、洒落着から茶会などのセミフォーマルな場にも用いられ、その用途の幅の広さが受けるのか、近代人の広く愛用するところとなっている。小紋柄には、鮫(さめ)、通し、行儀(ぎょうぎ)、お召十(めしじゅう)、菊菱(きくびし)、霰(あられ)、胡麻柄(ごまがら)などのいわゆる裃(かみしも)小紋の系統のものと、雪月花、長寿など文字文や伝説、物語、諸道具など耳にするもの目にするものを模様化した、庶民の間に育ったものとされるしゃれた図柄の2系列がうかがえる。そしてそれらの呼称は、その柄ゆきからする鮫小紋、行儀小紋、通し小紋などの名称と、用いられた型紙の彫り技による錐(きり)彫りの錐小紋、道具彫りになる道具彫り小紋などの呼び方がある。

 また小紋染めには以上のような基本的な手法のほかに、やや複雑な技法になる朧(おぼろ)型、絵払い、常盤(ときわ)などの手法がある。

(1)朧型 型紙により防染糊を置き、引染めして地を染め、ふたたび型付けして地染めをする。したがって地染めは二度となり、その色は重なったものとなる。今日では型付けにより防染糊を置き、さらに別の型で着色防染糊を置き、地染めをし、蒸し、水洗いして仕上げる。

(2)絵払い 型付けにより模様糊を置き、引染めによるか甕(かめ)に漬けて地を染め、水洗いし、ふたたび型付けして地染めし、水洗いする。今日では、型付けし地染めして蒸し、水洗いし、ふたたび型付け、地染め、蒸して水洗いして仕上げる。伊予染などがその好例である。

(3)常盤 型紙によって文様をカチン墨(ずみ)で刷毛摺(はけず)りして表し、同じ型紙をもって刷毛摺りした文様からすこしずらして防染糊を置き地染めする。今日では、型紙で防染糊を置き、その文様とすこしずらして同じ型紙で写し糊を置き、地染めのしごきをし、蒸して水洗いして仕上げる。

 本来、小紋には前述のように裃系のものと庶民系のものがあり、とくに裃系のものは一般には留柄(とめがら)として使用できぬものがあった。しかし明治以降はすべて一般の用に供せられるようになるとともに、合成染料の発達により、好みの色が自由に染められるようになって、ますますその用途の幅を広げている。植物染料や顔料による旧来の刷毛による引染めから、合成染料による写し糊の出現によって染色加工法にはその変遷がうかがえるが、淡泊で粋な味わいは小紋の特質として変わらない。また、小紋の型を彫るにも染めるにも、一見単純にみえ、なんの曲もないようにみえる鮫小紋や通し小紋が、もっとも至難なものとされている。淡泊な柄ゆきの一見無地物にみえるこれらは、彫りむらや染めむらが目につきやすく、小紋の役物とされている。

[杉原信彦]

『杉原信彦著『染の型紙』(1968・京都国立博物館)』

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改訂新版 世界大百科事典 「小紋」の意味・わかりやすい解説

小紋 (こもん)

細かい型模様を染めたものの総称。中形(ちゆうがた)に対する小型模様の意。小紋は平安末ころから鎧(よろい)の胴の染韋(そめかわ)に用いられ,小桜韋,菖蒲韋,歯朶(しだ)韋などの小模様を染め出した小紋韋がある。小紋がいつごろから布帛(ふはく)に用いられたかは詳かではないが,室町時代には武家の衣料に用いられ,上杉謙信所用小花小紋帷子(かたびら),徳川家康所用小紋胴服,片倉小十郎所用小紋胴服などの遺品がある。江戸時代には武家の公服に用いる(かみしも)に応用され,将軍や大名が各自専用の模様を定め,それを留柄,定め紋と称した。たとえば将軍徳川綱吉の松葉小紋,前田家の菊菱,島津家の鮫(さめ)小紋,浅野家の霰(あられ)小紋など,家を象徴するものとなった。小紋は小さな単位文様のくり返しで単純であるが,むらのない染上りの美しさが粋好みにかない,元禄(1688-1704)ころから町家の男女のしゃれ着にも用いられて流行した。明治以後は女性の絹や麻の着尺に用いられている。近年,細かい柄の友禅染を広く小紋と呼ぶようになったので,伝統的技法を伝承する小紋染を江戸小紋といい,技術保持者の指定にその名称を用いたところから固有名詞化した。型紙は伊勢型(白子型)紙が紀州侯の庇護のもとに全国各地で売り出され,流行とともに鮫,霰,菊菱,小桜,青海波(せいがいは),立涌(たてわく),麻葉,鱗,子持縞,通しなど柄の種類が多くなった。型紙は裃小紋用は彫り幅が曲尺約1尺5寸(約45cm),着尺用は1尺3寸内外,送り(彫りの長さ)は約4寸(約12cm)を単位として模様により決める。染法は生地を長板に張り,型紙をあてて片面に防染糊を引き,染料に浸染するものと,引染のものがある。近年では型付(かたつけ)をしたのち地に色糊を置いて蒸す扱染(しごきぞめ)の方法を用いる。糊は糯米(もちごめ)の粉を湯で練った生糊(きのり)にぬかを入れて調合する。
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百科事典マイペディア 「小紋」の意味・わかりやすい解説

小紋【こもん】

型紙捺染(なっせん)による和服の模様染の一種。細かい模様を切り抜いた型紙を当て,もち米粉とぬかの糊(のり)で防染したのち,染料をひく。模様の部分は地色が残り,単色の片面染となる。江戸時代,裃(かみしも),小袖(こそで),長襦袢(じゅばん)などの模様として流行した。近年は多色染,両面染など自由に行われている。模様は鮫(さめ),霰(あられ),角(かく)通し,万筋(まんすじ)など多種。模様のいちばん細かいものは極文(ごくもん)といわれ,極鮫などでは1寸(3.03cm)四方に600〜700以上の穴があけられる。現在では江戸小紋として好まれている。
→関連項目型染染物中形糊染

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小紋」の意味・わかりやすい解説

小紋
こもん

型染の一種,また,その文様をいう。美濃紙を数枚重ねた上から錐を用いて小さな穴をあけた模様紙 (型紙) をつくり,防染糊を置き,それを布の上に順次に送って地染をする。小紋は精緻なものほど高価で貴重視され,1寸 (3.03cm) 四方に 900から 1000の小穴をあけるのを最高技術とする。小紋は 16世紀末から文献にみえるが,17世紀,武士の裃には鮫 (さめ) 小紋や霰 (あられ) 小紋が多く,羽織にも用いられた。江戸時代中期 (18世紀後半) には最盛期に達し,その渋みが町人男女に愛好された。模様の種類により七宝,霰,千鳥,菊など 40種以上の名称がある。 (→江戸小紋 , 糊染 )  

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日本文化いろは事典 「小紋」の解説

小紋

[女性用] 繰り返しの小さな模様を型染めしたもの、または手書きで描かれた着物を小紋(の着物)と言います。小紋の着物は訪問着や付下げと違い、不規則な模様が描かれているため、反物の状態では上下の区別がつきません。

出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の小紋の言及

【江戸時代美術】より

友禅染がそれを代表する。また型染の技術による小紋,中形(ちゆうがた)の意匠が発達した。小紋,中形は染の量産化の情況に即したものだが,型紙を何十枚も使って,見えないぜいたくをこらしたものもなかにはある。…

【染色】より

…さらに,当代の意匠・技術は今日の染織界にも受け継がれ,新しい染織の創造の母体ともなっている。江戸時代の染色で第1に挙げなければならないのは友禅染に代表される文様染であり,第2には小紋中形(ちゆうがた)によって代表される型染の著しい発達である。それらの技術的発展の背後にある要因として,前述のように小袖が広く社会の主要な服装となったことが挙げられる。…

※「小紋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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