基礎縫い(読み)きそぬい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「基礎縫い」の意味・わかりやすい解説

基礎縫い
きそぬい

衣服を仕立てる際の、基本になる縫製技術をいう。基本的な技術には「縫う」「留める」「絎(く)ける」「しつけ」「糸を結ぶ・継ぐ」などがある。

[太田博子]

和裁

縫い方

2枚の布を縫い合わせたり、縫い代や布端の始末をするためのもの。

[太田博子]

縫い合わせるもの


(1)運針 古くから、ぐし縫いの名称でよばれている、もっとも基本的な縫い合わせの技術で、表裏均一の針目で一直線になるように縫い進めていく。

(2)一針抜き 糸を引き締め、針目が流れぬようにする。何枚かの布を縫い合わせるときに使う。羽織衿(えり)肩回り、袷袖(あわせそで)口など、厚手になる場合に用いる。

(3)さし針 手前向こう直角に針を抜きながら縫う。一針抜きより流れないで正しく刺せる。羽織の衿先、乳(ち)のつくところなどに用いる。

(4)半返し縫い 一針すくって、その針目の2分の1だけ返しながら縫う。ほころびやすいところ、縫い目がはだかりやすいところに使う。袖付けどまり、袖山、衿付けの始めと終わりなど。

(5)重ね縫い 布端をそのままにして重ね、かさばらないように、はぎ合わせる。芯(しん)のはぎなど。

(6)突き合わせ縫い はぎ合わせる布端を突き合わせて交互にかがる。地厚の場合のはぎ合わせなど。

[太田博子]

縫い代や布端の始末をするもの


(1)二度縫い 印どおりに縫ったあと、その縫い目と平行に、布端をもう一度縫う。縫い目をじょうぶにし、縫い込みが開かないようにする。単(ひとえ)の背縫いなど。

(2)袋縫い 布を外表(そとおもて)にあわせて浅く縫い、裏に返して、印どおりに縫って裁ち目を隠す。単の袖下、背や衽(おくみ)付けが裁ち目のときなど。

(3)つまみ縫い 縫い代をつまんで縫い目をたてる。広幅物の背縫い、四つ身の衽付けなど。

(4)端伏せ縫い 裁ち目を折って押さえる。居敷当てや肩当ての下側など。

(5)伏せ縫い 同じ縫い糸で縫い代の端を押さえる。

(6)かがり縫い 布の向こうから手前へ針を出して斜めに糸をかける。裁ち目の、伸び留めやほつれ留めにする。衿肩明きなど。

(7)スカラ縫い 深さ間隔を同じくらいにして、一針ずつ針に糸をかけていく。かがり縫いよりていねいな方法で、厚地毛織物などに用いる。

[太田博子]

留め方

縫い始めや終わりで糸が緩んだり、抜けたりしないようにする方法。

(1)玉留め 玉結び一つで留めるもの。

(2)返し留め 一針返して留める。縫い始め・終わりをじょうぶにする。

(3)すくい留め 縫い終わりで布を斜めに小さくすくい、針に糸を二度巻いて引き締める。返し留めよりしっかり留まる。袖付け、袖口や脇(わき)の縫い留まりなど。

(4)縫い返し留め 縫い始め・終わりを縫い返して留める。縫い目をじょうぶにしたいところにする。斜めに縫い返す方法もある。衽先など。

(5)ひょうたん留め 縫い始めは、一針小さくすくい、2本の糸をそろえて糸端で輪をつくりながら結び、針のついている方で引き締める。縫い終わりは、一針小さくすくって、輪をつくり、その輪に針を通し、輪を締める。次に親指にかけてできた輪に針を通して引き抜く。縫い始め・終わりをもっともしっかり留める方法。袖付け、袖口、肩揚げ、腰揚げなど。

[太田博子]

絎け方

できあがった状態に布の形を整えて、裁ち目や耳を体裁よく始末したり、縫い込みの布端を始末するのに用いる方法。

(1)三つ折り絎け 布の端を三つ折りにして、裏は折り山の間を通し、表に小針を出して絎ける。裁ち目、耳の始末に用いる。単の袖口、衿下、裾(すそ)など。

(2)折り絎け 布の端を折って絎け付ける方法で、おもに単の縫い込みの始末に用いる。上仕立ての脇縫い、衽付け、振りの始末など。

(3)耳絎け 耳のままで絎け付けて始末する。単木綿仕立てのときに多く用いる。折り絎けと同じ箇所、居敷当てなど。

(4)本絎け 2枚の折り山を絎け合わせる方法(紐(ひも))、折り山をずらせて絎ける方法(広衿の裏衿)、縫い目に折り山を絎け付ける方法(狭衿(せまえり)の絎け)の3種がある。

(5)まつり絎け 布の折り山を浅くすくい、すくったところの真向かいの表を小さくすくって、折り山の内側を通り、一針先の折り山に針をかけて抜く。毛織物など、折り絎けでは落ち着かない布に用いる。

(6)より絎け 布端をこよりをよるようによって、まつり絎けにする。薄物の袖口など。

(7)千鳥絎け 布を二つ折り、または三つ折りにして、左から上下で糸を交差させて押さえていく。裁ち目のほつれ留め、折り山の固定に用いる。羽織の衿肩回り、肩すべりの下部の押さえなど。

[太田博子]

しつけ方

縫い目を落ち着かせるとか、仕立てたものに狂いを生じさせないためなど、補助的に布を望むとおりに落ち着かせる方法であるが、装飾を兼ねるものもある。

(1)一目落とし 表に大針一つ、裏に小針一目を出す。裾のきせ山などを一時的に押さえるときや、羽織の衿付けのように厚いところにかける。

(2)二目落とし 表に大針一つ、裏に小針二目出してかける。木綿物に用いる。

(3)三目落とし 表に大針一つ、裏に小針三目出す。絹物にする。

(4)縫いしつけ 表はごく細かく、裏はそれよりやや大きな針目で縫っていく要領でかける。縮緬(ちりめん)などきせのくずれやすいものにする。掛け衿の衿付け側、袷の裾、無双袖長襦袢(じゅばん)の袖口、振りなど。

(5)隠しじつけ 表と同じ縫糸で裏から縫い代を押さえて縫う。きせのくずれを防ぐもので、着るときもとらない。胴はぎ、衿裏のはぎ、羽織の前下がりなど。

(6)両面じつけ 針目を両面同じように出す。一目落とし、二目落とし、三目落としがある。帯や紐など表裏のないものなど。

(7)斜めじつけ 針目は右から左に1センチメートルほどすくって、下から上に進んでいく。布のずれを防ぐためにかける。羽織裾の折り返り、帯皮の仮じつけ、ウールコートの衿山など。

[太田博子]

糸結びと糸継ぎ

途中で糸が足りなくなったときに、新しい糸を足す方法。

(1)結び継ぎ 機(はた)結びにして継ぐ。耳絎け、しつけなどに用いる。

(2)重ね継ぎ 縫い目の途中で糸が終わったところより、4センチメートル手前からもとの縫い糸を割って縫い目の中央に針を出して、縫い重ねていく。じょうぶな方法である。薄地のものは斜め縫いにして継ぐ。

(3)重ね絎け 絎けの途中で糸が終わったとき、4センチメートルくらい手前から、もとの針目の中間に針を出して絎け重ねていく。三つ折り絎け、本絎けなどのときに用いる。

[太田博子]

洋裁

洋裁の場合には、手縫いとミシン縫いとを併用して衣服を構成することから、基礎縫いも手縫いとミシン縫いによるものがある。基本的技法として「縫う」「絎(く)ける」「まつる」「かがる」などがあり、さらにこれらの反復、複合という二次的なくふうがなされて名づけられた袋縫い、折り伏せ縫いなどの技法をも含んで基礎縫いとよんでいる。一般的に洋裁の基礎縫いといわれるものは次のとおりである。

(1)印つけ へら、チャコ、ルレットなどで印つけのできない布には印をつけるために切りじつけを用いる。切りじつけは2枚の布を重ね、型紙どおりに置きじつけをし、布の間の糸を切って糸で印をつける方法である。また合印には糸印をつける。

(2)縫い 主として2枚以上の布を縫い合わせるのに用い、手縫いでもミシンでも印どおりに縫うのであるが、手縫いでは並縫い、本返し縫い、半返し縫いなどがある。しつけ縫い、本縫いのいずれにも用い、直線、曲線縫いも可能である。

(3)縫い代始末 縫い代は布地の材質、デザイン、裏がつくか否かなどによって始末の仕方が異なる。手縫いでは裁ち目かがり、ミシンでは端ミシン、袋縫い、折り伏せ縫い、パイピングなどがある。また端ミシンとかがりとを併用して用いることもある。

(4)裾(すそ)の始末 材質、デザインによって方法は異なるが、スカートの裾のような一重の裾の始末にはまつり、千鳥かがり、三つ折り縫い、より絎けなどを用い、ジャケットの裾のように表地と裏地とをあわせて始末する場合には、縦まつり、奥まつりなどを用いる。

(5)ボタン、ボタンホール ボタンには表穴、裏穴があり、表穴の場合は穴の数によって付け方が異なる。ボタンホールには玉縁穴とボタンホールステッチで縁どりしたものとがある。現在では後者が主流である。

(6)留め、留め具付け かんぬき留めはポケットの両脇の補強、松葉留めはスカートのひだの縫い留まりなどの補強と装飾を兼ねて用いる。星留めは見返し、ファスナー付けの押さえなどに用いる。鉤ホック、スナップなどの留め具はボタンホールステッチで縫い付ける。このほかループ、糸ループも用いる。

(7)その他 テーラード・カラーの芯(しん)をすえるハ刺し、突き合わせを留める渡しまつりなどがある。

[岡田浩海]

『橋本貴美子著『洋裁』(1974・建帛社)』


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