塩酸プロカイン
えんさんぷろかいん
局所麻酔剤で劇薬に指定されている。その作用がコカインに類似するところからプロカインの名があり、毒性はコカインの6分の1から10分の1で、刺激も少ない。これは、組織中に含まれる酵素プロカインエステラーゼにより速やかに加水分解されるためである。白色の結晶または結晶性粉末で、無臭。味は苦く、舌を麻痺(まひ)させる。水によく溶け、比較的安定であるため、注射剤として繁用される。粘膜に対して浸透性が弱く、鼻粘膜や目などの表面麻酔には不適である。おもな適用は手術のための麻酔で、脊椎(せきつい)麻酔、硬膜外麻酔、伝達麻酔、浸潤麻酔に用いられる。極量は硬膜外麻酔や伝達麻酔で1回0.6グラム、浸潤麻酔で1回1グラムである。副作用としてショックやアレルギー反応がみられるほか、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、めまい、不安、興奮などの中枢神経刺激症状、血圧下降、徐脈などの心血管症状がある。なお、プロカインには心筋の被刺激性を抑制する抗不整脈効果が認められているが、持続性が短いことや中枢神経への刺激が強いことなどのために使われず、この欠点をなくしたものとして塩酸プロカインアミドが抗不整脈剤に繁用されている。また、血管収縮剤であるエピネフリン(アドレナリン)を加えると作用が持続することから、抜歯のための局所麻酔に使われる歯科用塩酸プロカイン注射液にはエピネフリンが配合されている。
[幸保文治]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
塩酸プロカイン
エンサンプロカイン
procaine hydrochloride
4-aminobenzoic acid 2-(diethylamino)ethyl ester hydrochloride.C13H21ClN2O2(272.77).C13H20N2O2・HCl.プロカイン塩酸塩ともいう.p-ニトロ安息香酸をp-ニトロベンゾイルクロリドとし,これをベンゼン中で2-(ジエチルアミノ)エタノールと反応させてから還元して合成する.白色の板状結晶または結晶性の粉末.無臭で,味は苦く舌を麻ひする.融点51 ℃.水に易溶,エタノールに難溶.毒性はコカインの1/6~1/10.局所麻酔薬に使用される.[CAS 51-05-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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「塩酸プロカイン」の意味・わかりやすい解説
塩酸プロカイン【えんさんプロカイン】
局所麻酔剤。白色の結晶または結晶性粉末で無臭,味は苦く舌を麻痺(まひ)する。毒性がコカインの6分の1から10分の1なので,代りにしばしば用いられるが,過敏な患者では急速な静脈注射によりけいれんを起こして死ぬこともある。溶液を長い間皮膚に接触させると,乾燥,ひび割れが起こる。劇薬。
→関連項目プロカイン
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世界大百科事典(旧版)内の塩酸プロカインの言及
【プロカイン】より
…コカインには血管収縮作用があり,投与したコカインは局所にとどまって作用を表すが,プロカインなどの合成局所麻酔薬は血管収縮作用を欠くため,局所にとどめる目的で血管収縮薬のエピネフリンを併用することが多い。製剤には,塩酸プロカイン注射液または歯科用2%塩酸プロカインがある。体内では血中のエステラーゼにより速やかに分解される。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」