変形性腰椎症(読み)へんけいせいようついしょう(英語表記)Lumbar spondylosis

六訂版 家庭医学大全科 「変形性腰椎症」の解説

変形性腰椎症
へんけいせいようついしょう
Lumbar spondylosis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 変形腰椎症は、腰椎の加齢変化により腰痛が起こる疾患です。通常は椎間板(ついかんばん)の加齢変化を基盤として、椎間関節や靭帯(じんたい)組織などにも、変性と呼ばれる変化を来し、その結果、筋肉組織を含め腰部疼痛やだるさなどの局所症状をもたらします。

原因は何か

 加齢が主な原因です。変性を増悪させる因子としては、重労働や遺伝的素因などがあげられます。

症状の現れ方

 主な症状は腰痛です。通常は、朝起床時などの動作開始時に強く、動いているうちに軽減します。長時間の同一姿勢でも腰痛は増強します。腰痛の部位は腰部全体に漠然と感じる場合や、棘突起(きょくとっき)と呼ばれる正中の骨組織の周囲であったり、傍脊柱筋(ほうせきちゅうきん)であったりとさまざまです。また、臀部(でんぶ)や大腿後面まで痛みを感じることもあります。とくに臀部の痛みは高頻度に見られます。

 変形が高度になると、外見上も体が側方に曲がったり(側弯(そくわん))、後ろに曲がったり(後弯(こうわん))し、腰痛のため長時間の立位が困難になってきます。

検査と診断

 腰痛が主体で下肢症状があっても軽微な場合では、X線検査で骨組織の加齢的変化を確認し、さらにその他の疾患を除外することで本症の診断がつきます。

 X線検査で加齢変化がみられても、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などでは下肢の症状が主体になることが多く、本症とは区別されます。腰痛を起こす脊椎以外の疾患、すなわち腎臓や膵臓(すいぞう)などの内臓疾患や婦人科疾患、さらに解離性大動脈瘤(かいりせいだいどうみゃくりゅう)なども除外診断としてあげられます。

治療の方法

 痛みに対する保存療法が基本です。薬物療法では消炎鎮痛薬や筋緊張弛緩薬などを投与します。筋肉部分に痛みがある場合は、局所麻酔によるトリガーポイント注射と呼ばれる注射が効果的です。

 また、腰部に対する温熱療法牽引療法などの理学療法も疼痛緩和に有効な場合が多く、ほかの治療法と組み合わせて行われます。症状が軽い時は、腰痛体操や軽い運動などで体幹の筋力をつけることも腰痛の予防や軽減に役立ちます。

病気に気づいたらどうする

 本症の診断を受けた場合、まずは心配のいらない病名ですが、腰痛はさまざまな疾患で現れる症状ですので、症状に変化があれば整形外科を受診して再検査を受けたほうがよいでしょう

久保 紳一郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「変形性腰椎症」の解説

へんけいせいようついしょうようぶへんけいせいせきついしょう【変形性腰椎症(腰部変形性脊椎症) Lumbar Spondylosis】

[どんな病気か]
 背骨(せぼね)(脊椎(せきつい))の椎体(ついたい)(背骨の一個一個)と椎体との間にはさまっていて、クッションの役目をしている椎間板(ついかんばん)が薄くなったり、椎体の端がささくれてきたりする変化を、変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう)といいます。
 骨と椎間板の老化によっておこるもので、変形性関節症(「変形性関節症とは」)と同類の病気です。脊椎のうち、腰の部分におきた変形性脊椎症を、腰部変形性脊椎症または変形性腰椎症といい、変形性脊椎症の多くは、ここにおこります。
 ついで頻度の高いのは、首の脊椎におこる頸部変形性脊椎症(けいぶへんけいせいせきついしょう)(変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)(「変形性頸椎症(頸部変形性脊椎症)」))で、これ以外の部分におこる変形性脊椎症は、まれです。
[症状]
 だるい、重い、鈍く痛むなどの腰の症状が中心ですが、下肢(かし)(脚(あし))にしびれや冷感をおぼえることもあります。
 痛みは、腰から臀部(でんぶ)(おしり)にかけての広い範囲に感じ、手のひらをあてて痛む範囲を示せても、指で示すことはできないのが特徴です。
 この病気が進んで、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)(「腰部脊柱管狭窄症」)がおこると、休み休みでなければ歩けなくなります。
 腰部変形性脊椎症がおこっても、まったく症状がなく、なにかの機会に腰のX線写真をとって、偶然見つかることも、かなりあります。
[治療]
 症状がなければ、治療の必要はなく、これまでどおりの生活を送ってかまいません。
 症状があっても、できるだけからだを動かし、ふつうに生活することがたいせつです。安静にしすぎると、筋肉が衰えて、かえって症状がでやすくなります。お年寄りでは、寝たままでいたりすると、立つことも歩くこともできなくなる危険があります。
 腰が冷えると症状を強く感じがちです。冷やさないようにしましょう。
●温熱療法
 腰を温めると症状がやわらぎます。家庭でおふろに入るのも、立派な温熱療法です。ぬるめのお湯にゆっくり入るようにしましょう。
 おふろあがりなどに、腰痛体操(ようつうたいそう)(図「腰痛体操(1)」図「腰痛体操(2)」図「腰痛体操(3)」図「腰痛体操(4)」)を行ない、腰の周囲の筋肉をきたえると、さらに効果的です。
 ホットパックや超短波を用いて、腰を温める療法もあります。
●薬物療法
 炎症と痛みをやわらげる消炎鎮痛薬、筋肉のこわばりをとる筋弛緩薬(きんしかんやく)、血液の流れをよくする末梢循環改善薬(まっしょうじゅんかんかいぜんやく)、神経のはたらきを改善する向神経(こうしんけい)ビタミン剤(ビタミンB12など)が用いられることもあります。
 しかし、薬だけにたよって症状を抑えようとするのは禁物です。薬を飲み続けると副作用がおこりやすくなり、薬をやめると症状がぶりかえすといったことになりがちです。
●コルセット
 痛みが強いときには、コルセットの使用を勧められることがあります。コルセットをつけると、痛みがやわらぎ楽になりますが、つけっぱなしにしていると、筋肉が弱ってしまいます。痛みが強いときにだけ使うようにしましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「変形性腰椎症」の意味・わかりやすい解説

変形性腰椎症
へんけいせいようついしょう
lumbago deformans

椎 (つい) 間板は変性しやすい組織で,30歳代で初期変性の発生がみられ,50歳代ともなればだれにも,程度の差はあれ,変性が認められるという。人間が直立するためには大きな機能が要請されること,椎間板は高分子の組織で再生能力が小さいことなどがその理由と考えられる。誘因なく徐々に発症することが多いが,時には腰痛や坐骨神経痛が急激に生じることもある。この腰痛は,起床時,動作開始時に強く,少し動いているうちに楽になり,同一姿勢や中腰を長くとったり,午後や夕方になって疲労がたまってくると,痛みが増すことが多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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