日本語のなかに入ってきた外国語の単語。中国語から入った漢語も本来は外来語であるが、日本では主としてヨーロッパ語から入ったものをさしていう。
[石綿敏雄]
外国語の単語を取り入れるとき、二つの方法がある。一つは、外国語の語形を日本語のなかに入れたものである。英語のinformationをインフォメーションの形で取り入れるもので、これが外来語である(カタカナで表記するものが多い)。もう一つは、外国語の意味を日本語に訳すもので、訳語とよばれる。informationの訳語は「情報」である。
[石綿敏雄]
おもなものは次の2種である。(1)新しい事物や新しい考え方を取り入れるとき。ハイウェーhighway、キャッシュ・ディスペンサーcash dispenser(銀行の現金自動支払機)などの新しい事物や、プレートテクトニクスplate tectonics(海洋底拡大説)、リサイクリングrecycling(産業廃棄物の資源再利用)のような考え方を取り入れるとき、それに伴って用語を取り入れるものである。この類には、自然科学、社会科学、服飾、スポーツなどの専門分野の用語が多い。(2)物は古くからあるが、新しい感じをもたせようとするとき。若い人をヤングyoung、豪華なことをデラックスdeluxe、家づくりをハウジングhousingというなど。明治初年に「あいびき」といったものを、昭和初年にランデブーrendez-vousと表現し、戦後デートdateに変わった。新しい感じを求めて次から次へと更新されることがある。
[石綿敏雄]
中世の末期にポルトガル語から入ったもの(キリシタンchristão、バテレンpadre、ラシャraxa、タバコtabacoなど)、江戸時代にオランダ語から入ったもの(ズックdoek、ガラスglas、ガスgas、アルコールalcoholなど)もあるが、外来語の大部分は明治以後に入っている。そのうち、ドイツ語は医学(ガーゼGaze、ノイローゼNeurose)、哲学(アウフヘーベンAufheben、ザインSein)などの分野、フランス語は服飾・美容(シュミーズchemise、ルージュrouge)、芸術(デッサンdessin、ジャンルgenre)、イタリア語は音楽(アルトalto、フィナーレfinale)などの分野に偏在する。外来語の大部分は英語からきたもので、英語系の外来語は現代の外来語の80%以上を占め、分野的にも偏りなく広く用いられている。
[石綿敏雄]
外来語が日本語化するとき、原語との間にずれが生ずることが多い。発音は日本語化され、外国語での発音上の区別が失われるものがある。right(右)とlight(照明)はともにライトになる。マスコミmass communication、インフレinflationなど、語形を省略したものもある。バックネット(英語でbackstop)、デコレーションケーキ(英語でfancy cake)、プレイガイド(英語でticket agency)など、外国語にないことばをつくることもある。意味がずれることもある。家具などのカバーは日本語でも英語でも共通だが、英語で本のcoverは表紙を意味するのに対し、日本語のカバーは表紙を覆うもの(英語ではjacket, wrapper)をいう。これらのずれは外国語学習や外国語使用時に妨げとなることがある。
[石綿敏雄]
『楳垣実著『日本外来語の研究』(1963・研究社)』▽『あらかわ・そおべえ著『角川外来語辞典』第2版(1977・角川書店)』▽『吉沢典男・石綿敏雄著『外来語の語源』(1979・角川書店)』
〈外〉の言語から,文化の一部として,自国語の体系内に入り込んだ単語。借用語ともいう。まだ自国語の体系内に入りきらない〈外国語〉と区別される。1984年現在の日本において,〈ラジオ〉は外来語であり,〈レイディオradio〉は外国語である。二つの言語社会が接触すると,一方が関心をもった他方のある分野から,単語が借用される。借用は必ずしも一方的ではなく,相互に行われることもある。明治維新まで続いた中国語から日本語への借用は明治維新後少なくなり,逆に中国語が日本語から借用することが多くなった(〈社会〉〈科学〉〈法律〉など)。英語と日本語の関係は,英語から日本語への一方的な借用関係のように見えるが,16世紀以降,〈bonze(坊主)〉〈shogun(将軍)〉〈mikado(帝)〉〈geisha(芸者)〉〈kamikaze(神風)〉〈nemawashi(根回し)〉など少数ながら日本語が英語の体系内に入っている。明治維新までの中国語からの借用語はふつう〈漢語〉といって外来語とはいわない。朝鮮語からの借用語(〈チョンガー〉),アイヌ語からの借用語(〈ラッコ〉)も外来語とはいわない。外来語とはふつう欧米語からの借用語で,いわば〈舶来語〉のことである。
外来語の流入に伴って新しい音素や音節をふやすことがある。日本語の拗音(ようおん),促音,撥音(はつおん),二重母音は中国語からの借用語の影響で生じた。現代日本語では,英語の影響でti,di,tu,du;fa,fi;va,vi;siなどの音節が徐々に定着しようとしている。また,語彙の面では,類義語(〈線〉に対する〈ライン〉,〈お客様〉に対する〈ゲスト〉)や同音語(〈景気〉に対する〈ケーキcake〉)や類似表記(〈ビルヂング〉に対する〈ビルデイング〉〈ビルディング〉)を生み出す。これは,一方で,語彙を豊かにすることであり,一方で混乱させることでもある。明治維新後に,在来の漢語をまねて大量の〈和製漢語〉をつくり出したように,いまさかんに〈和製英語〉(または〈和製洋語〉)がつくられつつある(〈テーブル・スピーチ〉〈ベッドタウン〉〈バックミラー〉〈ナイター〉など)。外来語は自国語の単語と同様の扱いを受けるので,在来語との複合も外来語どうしの複合も行われる(〈テーブル掛け〉〈二段ベッド〉〈バックシャン〉など)。
外来語は文化の一部として取り入れるので,時代と分野によって,どこの外来語が入ってくるか,どの分野の外来語が入ってくるかが左右される。16~17世紀のポルトガルとの通商によってポルトガル語が外来語として入って来て,衣食関係の語彙で今日まで定着したものが多い(〈襦袢gibão〉〈タバコtabaco〉〈パンpão〉〈かるたcarta〉など)。また17~19世紀のオランダとの貿易によって近代科学関係の語彙が入って来た(〈メスmes〉〈コンパスkompas〉〈ポンプpomp〉など)。明治維新後は,英語を主としてフランス語,ドイツ語などから入って来た。英語はあらゆる分野から流入したが,フランス語からは,軍隊関係(〈ゲートルguêtres〉),芸術関係(〈アトリエatelier〉),料理関係(〈グラタンgratin〉),服飾関係(〈ブラジャーbrassière〉)の語彙が,ドイツ語からは医療関係(〈ガーゼGaze〉),学術関係(〈アルバイトArbeit〉),登山関係(〈ピッケルPickel〉)の語彙が入って来た。戦後は,アメリカとの政治的・経済的・文化的関係から,もっぱらアメリカ英語からの借用がおびただしい。
執筆者:柴田 武
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…aの字が[æ](例,cat),[ei](例,cake),[ɑː](例,father),[ɔ](例,want),[ɔː](例,water),[e](例,many),[ə](例,about),[i](例,orange)のように8種の母音に対応する。正書法が問題になるのは,対応関係を正す必要が,印刷,教育,マスコミ,公用文などの分野で起こるときや,外来語のつづり字の混乱を収めようというときである。言語は絶えず音声変化をしており,また外来語の流入をくいとめることはできないのだから,正書法の問題は絶えず起こるはずのものである。…
…〈大きい〉と〈でっかい〉,〈非常に〉と〈とても〉などがそれだが,その関係は〈あした〉と〈明日〉,〈戦い〉と〈戦争〉のような対にも見いだされる。〈ピンポン〉と〈卓球〉,〈ラーメン〉と〈中華そば〉などでは,これらの外来語と日本語はほとんど差別がない。英語のように多くの借用語(外来語)を過去に受け入れた言語でも,同じような現象がみられる。…
※「外来語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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