根回し(読み)ネマワシ

デジタル大辞泉 「根回し」の意味・読み・例文・類語

ね‐まわし〔‐まはし〕【根回し】

[名](スル)
樹木などの移植の1、2年前に、広がった根を根もとを中心に残して切り、細根の発生を促すこと。
交渉や会議などで、事をうまく運ぶために、あらかじめ手を打っておくこと。下工作。「しかるべき部署に根回しする」
[類語]準備下準備下ごしらえ用意前捌き過去以前曽て在りし日往年往時往日旧時昔日昔時昔年往昔往古古昔いにしえ古くそのかみ当時前前かねてかねがね何時か既往これまで従来従前し方先年当年一時一頃その節先に当時古来あらかじめ年来旧来在来その昔太古千古大昔前以て先立ってかつてすでに見越し先刻早め手回し早手回し手を回す地固めなら布石事前先手先手を打つ手当て段取り手筈てはず下見予習備え伏線つとにとうにとっく示し合わせる言い合わせる申し合わせる打ち合わせる口裏を合わせる

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改訂新版 世界大百科事典 「根回し」の意味・わかりやすい解説

根回し (ねまわし)

ふつう,正式の交渉や会議に先立って,これを円滑かつ有利に運ぶため,非公式な場で,通常個別的に,説得妥協を通じて事前に合意形成を図る政治技術をいい,下工作ともいう。元来は園芸上の用語。

 根回しは,(1)争点が公になる以前に行われるもの,(2)対立が明確になってから行われるもの,(3)交渉・会議がいったん決裂に陥ってから行われるもの,の3種類に分けられる。まず争点が浮上する以前の根回しは,予想される反対派が反対を公にするまえにその反応を探って妥協を図ったり,相手方の機先を制して中間派を味方に引き入れたり,反対派が対応を準備するまえに正式の決定に持ち込んだりするために行われる。ここでは,個別的な話合いがもつ内密性・迅速性が,根回しを行うものを決定的に有利にする。こうして,正式の決定の場で,反対を封じ込めたり,反対派を分断したり,多数派を形成することが可能になる。他方,対立が明確になった段階で,根回しは,非公式な場に交渉を持ち込むことによって,たてまえの議論では合意形成の困難な問題についても,本音の議論に基づいて合意形成を図ることを可能にする。また集団的決定に際しても,個別的に交渉することによって,対立点を細分化し,妥協を容易にする。さらに交渉が決裂して正式には会議が開けない場合には,内密に相手方の意思を探り妥協にいたるために根回しが必要となる。このように根回しは,通常リーダー間の非公式な交渉のためのものであり,民主的統制を排除する傾向をもつ。あるいは根回しは,民主的統制に一定の枠をはめることで,大衆動員にともなう理想主義的・非妥協的傾向を排除し,打算的・妥協的合意形成を図る手段といえる。
政治技術
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根回し (ねまわし)

植物を移植する場合,活着しやすいように,数ヵ月から数年前に根の周囲を一定の範囲掘り上げて,そこに露出した根を,細いものは切断し,太いものは環状剝皮を行い,ふたたび覆土して根もと近くに細根を発生させる方法をいう。これを施したものは植え傷みを防ぎ,よく活着する。とくに移植の難しい木,発根力の弱い老木,貴重木などは安全を期するために必要である。実施時期は発根が盛んになる前がよく,春行うことが多い。一般に移植は秋または翌春に行うが,樹勢の弱い木では根回しを毎年部分的に施し,2~3年で根回しを完了させた後に移植することもある。根回しを行った後,その周囲を縄で巻くことを根巻きという。この処理を行ったものは,移植に際して作業しやすい。根回しを施した樹木を根回物といい,最初は樹勢が弱まることが多いが,しだいに回復する。樹勢が強すぎる樹木はこれを応用して生育を抑制することができる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「根回し」の意味・わかりやすい解説

根回し
ねまわし

会議や交渉を円滑,有利に運ぶために,非公式の場で合意の形成をはかること。下工作,下相談ともいう。元は樹木の植え替え後の活着を容易にするため,1~2年前に行なう細根の発生を促す処置をさす園芸用語であったが,事前に工作するという意味合いから転用されるようになった。争点が浮上する前後,会議や交渉の決裂後によく行なわれ,話し合いによる依頼,説得,妥協といった手法を用いるのが通常である。アメリカ合衆国の議員にみられるロビイング (ロビー活動) が,世論の形成や動員までも含めた,政治的決定に強い影響を及ぼす働きかけであるのに対して,根回しは当事者間の利害調整といった打算的色合いが強い。元来,日本の村落では全会一致が原則であり,意見の対立は村落の存立を危うくするものとされてきたことが,こうした慣行を生んだ背景となっている。密室であるがためにかえって本音で議論ができ,最終決定まで迅速に進むという側面もあるが,経過の情報開示がされないことで疑惑や憶測を招きやすく,公式決定の場が儀礼的になるといった問題点もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「根回し」の意味・わかりやすい解説

根回し
ねまわし

樹木を移植するための方法。樹木は種類や樹齢(とくに植え付けてから年数がたちすぎると)によって、植え替えても活着がむずかしいことがある。そこで、植え替え(移植)後の活着を容易にするため、移す1年または2年前に、掘り上げる部分の外側を円形に掘り、太根を一部切断するか環状剥皮(はくひ)(5~10センチメートル内外)を行って、また元のように埋め戻しておき、幹の近いところに細根を多く発生させる。こうした処置で植え替えが容易にできるため、わが国では江戸時代末期ごろからこの技法を用いてきた。利用されるおもな樹種はマツ類、ケヤキ、コブシ、カエデ、モッコク、ヤマモモ、マキ、ツバキ、サザンカ、ハナミズキ、ウメ、カキ、モモ、ナシなど。

[堀 保男]

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世界大百科事典(旧版)内の根回しの言及

【園芸】より

…果樹,野菜,観賞用植物などを資本と労力をかけて集約的に栽培することで,対象とする作物の種類によって,果樹園芸,野菜園芸,花卉(かき)園芸に分類される。また,生産物の販売を目的とする園芸を生産園芸,趣味として行う園芸を趣味園芸,または家庭園芸という。園芸という言葉は英語のhorticultureの訳語で,日本では1873年に出版された英和辞書で用いられたのが初めである。horticultureとはラテン語のhortus(囲うこと,または囲まれた土地の意)とcultura(栽培の意)に由来し,17世紀以降使われるようになった言葉である。…

【多数決】より

…全員一致主義は当事者間の適正な妥協調整を促す働きをするが,その反面,異論を封じ込める大勢順応的な空気が支配するところではかえって少数意見の抑圧につながる。共同体的に編成された地域社会や職場社会など事実上自由に離脱できない社会関係での全員一致主義は,そのようなものとして機能し,〈根回し〉や〈話合い〉も,少数意見のくみあげよりはむしろ少数意見の公然化を事前に抑制する働きをする。それに対し,複数の意見が対立しあっていることが社会のあるべき姿とみる多元主義的世界観のもとでは,多数決による多数・少数関係の公然化はむしろ好ましいと考えられる。…

【日本社会論】より

…その際,組織内で人の〈和〉が非常に重んじられる。 イエモトのような日本的〈原組織〉にあっては,組織自体の意思決定は,いわゆる〈根回し〉に基づく全会一致方式によってなされるのが普通である。そのやり方の制度化された形態が,稟議(りんぎ)である。…

※「根回し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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