月経異常、多囊胞卵巣、内分泌異常の三つの症候または所見を呈する症候群。生殖年齢にある女性の5~15%にみられると報告されている。PCOSと略称される。元来、1935年にアメリカの産婦人科医シュタインIrving F. Stein(1887―1976)とレーベンタールMichael L. Leventhal(1901―1971)が、月経異常、両側卵巣腫大(しゅだい)、多毛、肥満の症例に卵巣楔状(けつじょう)切除(卵巣の一部を楔形(くさびがた)に切除する手術)を施行して月経周期が回復した例を報告したことにより概念が確立し、シュタイン・レーベンタール症候群とよばれていた。
[久具宏司 2024年5月17日]
月経異常は、無月経や月経周期が延長する月経不順のような月経周期の異常と、月経があるのに排卵していない無排卵周期症をさしている。多囊胞卵巣は、両側の卵巣に小卵胞(らんぽう)が多数存在し、少なくとも片側の卵巣に直径2~9ミリメートルの小卵胞が10個以上存在することが超音波検査で確認されることにより診断される。内分泌異常は、男性ホルモン(アンドロゲン)の分泌が過剰であるために多毛やニキビなどの男性化徴候がみられることや、男性ホルモンの血中濃度の高値により診断される。
PCOSには人種による症状の差が指摘されている。日本人女性では男性化徴候の頻度が低いので、日本の診断基準では下垂体の性腺(せいせん)刺激ホルモン2種のうち黄体化ホルモン(LH)が卵胞刺激ホルモン(FSH)に比し高値であることで代替している。PCOSの診断基準は、海外では2003年と2018年に、日本では2007年(平成19)にそれぞれ改定されたものであり、今後も改定が予想されるなど、厳密に定まったものではない。小卵胞から抗ミュラー管ホルモン(AMH)が分泌されることから、AMH血中濃度の高値を超音波検査による多囊胞卵巣所見にかえる動きもあり、日本でも2024年(令和6)から、これら二つの所見を同等とみなすことになった。
[久具宏司 2024年5月17日]
月経異常、男性化徴候のほか、肥満がみられることが多いが、かならず出現するとは限らず、正常体重の症例も多い。諸臓器のインスリンに対する低反応、すなわちインスリン抵抗性がPCOSに関係しているが、それが発症の原因なのか、症候の一つなのかなど、疾患の本態、発症機序(メカニズム)は解明されていない。子宮内膜がん発症との関連も指摘されている。
[久具宏司 2024年5月17日]
生活習慣の改善、とくに肥満例での減量が必須(ひっす)であり、これだけで月経周期が回復することもある。さらに、ホルモン剤服用や、状況によりインスリン抵抗性改善薬併用による月経周期の標準化が行われ、子宮内膜がん発症の予防にもつながる。妊娠希望のある場合は、排卵誘発療法や生殖補助技術が適用される。手術による治療は、近年では卵巣楔状切除にかわり腹腔鏡下卵巣開孔術が行われる。
[久具宏司 2024年5月17日]
PCOS(polycystic ovary syn-drome) と略称されます。①肥満、②月経異常(生理が来ない、間隔が長いなど)、③男性型の多毛(濃いひげやすね毛、へその高さまで広がる陰毛など)を3つの大きな徴候とする疾患群です。
明確な原因はまだ特定されていません。インスリン抵抗性(肥満でよくみられる、血糖が下がりにくい状態)や、卵巣からの男性ホルモン過剰産生など、複数の要素が組み合わされてできた状態であると考えられています。名称のとおり、卵巣には多数の嚢胞が観察されます。
治療には、妊娠可能な状態の回復を優先する時は、排卵誘発剤が用いられます。hCGhMG注射も使用されます。厚くなった卵巣の皮に切れ目を入れる手術を行うこともあります。月経の正常化には、周期的女性ホルモン補充療法(カウフマン療法)が行われます。インスリン抵抗性改善作用をもつ糖尿病薬であるメトホルミン塩酸塩(グリコラン)やピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)などが有効なこともあります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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