出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
雌の動物に発情estrusを起こさせるものという意味で,一群の雌(女)性ホルモンをさし,発情ホルモン,卵胞ホルモン,濾胞ホルモンともよばれる。動物体内で分泌されるエストロゲンはすべてステロイドで,A環はフェノールである。分泌期のヒト卵胞中には,エストロンestrone,エストラジオール-17β estradiol-17β,エストリオールestriolが見いだされ,このうちエストラジオール-17βが分泌量,生物活性ともに最も高い。エストロゲンは主として卵巣から分泌され,その分泌はLH(黄体形成ホルモン)によって刺激される。他のステロイドホルモンと同様に,標的細胞の細胞質中に存在する受容体に結合して核に移り,細胞の機能を制御する。作用としては,子宮の発達,子宮内膜・乳腺の発達,その他の二次性徴の促進,脂肪合成の増加,肝機能や骨代謝への影響などがある。男でも,睾丸でわずかながらエストロンが合成され,副腎皮質から分泌されたアンドロステンジオールがわずかにエストロンに変換される。
エストラジオール-17βは,主として卵巣で生成分泌されるが,生体内で酸化されてつくられるエストロンと相互に可逆的に変化し,水酸化によってエストリオールを生成する。エストロゲン中,女性ホルモンとしての活性は最も大きく,妊娠中は胎盤でも大量に生成される。エストロゲンとして共通の作用のほか,思春期や閉経前期の月経周期の支配に大きな役割を果たし,にきびの発現,長管骨の骨端線部への作用,水分と食塩の保留作用もある。製剤としては,閉経期の諸障害,月経困難,機能性子宮出血,卵巣機能障害,骨多孔症や乳汁分泌抑制などの治療に用いられるが,より活性が大きく,体内で非活性化されにくいエチニルエストラジオールやジエチルスチルベスチロールなどの合成エストロゲンが用いられる。エストロンの生成は,FSH(卵胞刺激ホルモン)に支配され,環状AMP(アデノシン-1-リン酸)が関与する。作用はエストラジオール-17βよりも弱く,かつて卵巣発育不全や機能低下に用いられたが,現在では合成エストロゲンが用いられるようになった。1928年ツォンデックB.Zondekが妊婦尿中に大量に排出されることを見つけ,翌年ブテナントA.F.J.ButenandtとドイジーE.A.Doisyらが別個に単離に成功し,48年に全合成された。エストリオールは,エストロゲンとしての作用はエストロンよりも弱いが,妊婦の尿中に大量に排出され,胎盤や胎児の副腎皮質の状態を反映するところから,その排出量が胎児胎盤機能検査に用いられる。
→性ホルモン
執筆者:村上 徹+大森 義仁
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…女性の乳房も子どものときは男性のそれとほとんど変わらないが,後しだいに発育し,ことに思春期に入ると急に膨らみを増す。これは下垂体前葉の性腺刺激ホルモンの分泌が増加し,それによって卵巣が活動しはじめて,エストロゲンestrogen(女性ホルモンの一つ)を盛んに分泌するためである。妊娠すると胎盤から分泌される多量の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の作用で乳腺はさらに発育し乳房が大きくなり,乳輪の色素が増加する。…
…卵胞刺激ホルモンは卵胞を刺激して卵胞を成熟させる。卵胞からは卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されるが,排卵直前にピークとなる。この多量のエストロゲンが間脳・脳下垂体にポジティブフィードバックし,黄体形成ホルモンが急に多量分泌される。…
…女子では,FSHは卵巣に働いて原始卵胞の発育をうながす作用をもつ。LHは,FSHとともに卵胞の発育を促進するだけでなく,女性(雌性)ホルモン(エストロゲン)の産生と分泌を刺激する。FSH,LHによって完成された卵巣の成熟卵胞は,月経中間期におこる脳下垂体前葉からの急激なLHの分泌に反応して排卵をおこし,黄体が形成される。…
…子宮頸管中を満たしている粘液。頸管粘膜の上皮細胞から分泌され,卵巣ホルモンである卵胞(または濾胞)ホルモン(エストロゲン)により増量し,黄体ホルモン(プロゲステロン)により分泌が抑制されるので,月経後しだいに増量して,排卵直前に最高の400mm3くらいに増加し,水分量,果糖,ブドウ糖などもこのときに増加し,精子が子宮頸管を通って子宮内に進入するのを助ける。排卵後黄体期に入ると急減してゼロに近くなり,妊娠中も少ない。…
…女性における性ホルモンで,広く動物をも含めて一般的にいう場合には雌性ホルモンという。女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がある。女性特有のものである精子の受入れ,着床,妊娠の維持や分娩,授乳などを支配しているのは女性ホルモンであるが,また,このホルモンは女性の二次性徴の発達や維持のために重要な役割をはたしている。…
…したがってユニットとしての胎児と胎盤の機能を調べる胎児胎盤機能検査法のほうが臨床的には望ましいこととなる。 胎児胎盤機能検査には血清hPL(ヒト胎盤性プロラクチン)値などいくつかの検査法があるが,現在,臨床医によって最もよく用いられているのは母体の尿中エストロゲンを測定する方法である。母体尿中のエストロゲンを測定するのは次のような理論的根拠による。…
…しかし成熟婦人では,これらの菌やトリコモナス原虫あるいはカンジダなどの真菌が異常に増加して腟炎を起こすことは比較的まれである。この理由の一つは,成熟婦人の腟は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用で上皮が厚くなり,感染に対する抵抗性が強いためである。もう一つの理由は,やはりエストロゲンの作用により腟の上皮中に増加するグリコーゲンをデーデルライン乳酸杆菌が乳酸に変えるため,腟内が酸性に保たれ,その他の菌が増殖しにくいためである。…
…女性の乳房も子どものときは男性のそれとほとんど変わらないが,後しだいに発育し,ことに思春期に入ると急に膨らみを増す。これは下垂体前葉の性腺刺激ホルモンの分泌が増加し,それによって卵巣が活動しはじめて,エストロゲンestrogen(女性ホルモンの一つ)を盛んに分泌するためである。妊娠すると胎盤から分泌される多量の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の作用で乳腺はさらに発育し乳房が大きくなり,乳輪の色素が増加する。…
…また卵管内における初期妊卵の発育には卵管分泌物が重要な役割を演じていることがわかってきている。卵管での輸送や卵管の分泌はエストロゲンやプロゲステロンによって影響される。こうして,受精卵はほぼ3~4日で,64~128細胞からなる初期胚胞または32~64細胞からなる後期桑実胚期に子宮腔に達する。…
…経口避妊薬oral contraceptiveともいう。女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストロゲン),黄体ホルモン(プロゲステロン)と同じ薬理作用を有する2種類の合成ステロイドホルモンを含んだ錠剤。これを飲んで避妊に用いる。…
…すなわち,ステロイドホルモン分泌細胞の形態をとる。この細胞から女性ホルモンであるエストロゲンが分泌されるが,これは子宮内膜を増殖させるほか,二次性徴をもたらす。なお二次卵胞はさらに成熟を続け,グラーフ卵胞(グラーフ濾胞,成熟卵胞)となる。…
※「エストロゲン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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