ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大佛次郎」の意味・わかりやすい解説
大佛次郎
おさらぎじろう
[没]1973.4.30. 東京,中央
小説家。本名,野尻清彦。長兄は随筆家の野尻抱影。第一高等学校を経て 1921年東京帝国大学政治学科卒業。1922年外務省条約局に勤務。学生時代に劇団テアトル・デ・ビジュウを組織したり,バートランド・ラッセルやピョートル・クロポトキンを耽読したりした。卒業後もロマン・ロランや外国の伝記文学の抄訳を続けるうちに,エドガー・アラン・ポーの『ウィリアム・ウィルソン』からヒントを得た『隼(はやぶさ)の源次』(1924)を発表。続いて『鬼面の老女』(1924)をはじめとする剣のスーパーマン「鞍馬天狗」シリーズ(1965年の『地獄太平記』にいたる 47編)を書きだす一方,『照る日くもる日』(1926~27),『赤穂浪士』(1927~28)などの新聞小説で大衆文学にゆるぎない地位を確立した。また現代物でも『白い姉』(1931)以来佳作を書き続け,戦後第一作となる日本芸術院賞受賞作『帰郷』(1948)および『宗方姉妹』(1949)で西欧的知性に基づく健全な保守性と進歩思想の調和を示した。その後,『楊貴妃』(1951),『若き日の信長』(1952)をはじめとする戯曲のほか,『ドレフュス事件』(1930),『ブウランジェ将軍の悲劇』(1935),『パナマ事件』(1959)と合わせて四部作をなす,パリ・コミューンの首尾を追究した『パリ燃ゆ』(1961~64)など歴史の波動を伝えつつ日本の現状を批判する力作を書いた。幕末から明治へかけての動乱を描いたライフワーク『天皇の世紀』(1967~73)は死により未完に終わった。1964年文化勲章受章。1973年に大佛次郎賞が設けられた。横浜市の港の見える丘公園に大佛次郎記念館がある。
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