日本大百科全書(ニッポニカ) 「パナマ事件」の意味・わかりやすい解説
パナマ事件
ぱなまじけん
Affaire de Panama フランス語
第三共和政初期のフランスに起こった政治的スキャンダル。1880年レセップスが創設したパナマ運河会社は、運河建設工事が設計上の誤りや黄熱病、雨期の氾濫(はんらん)などのため進捗(しんちょく)せず、そのうえ経理が乱脈であったため、数年後に資金が欠乏した。レセップスは富籤(とみくじ)を認める新法律を制定することを政府筋に要望、議会は88年6月にこの法律案を可決した。しかし、会社は翌年2月に破産し、小株主、社債応募者などの多数の被害者が出た。92年右翼新聞によって新法律制定に絡む運河会社と政治家との不正な関係が暴露され、調査の結果、100名以上の議員が連座する収賄事実が判明した。翌年の公判で前土木相と会社重役が有罪判決を受けたが、他の容疑者は政治的配慮から不処分となった。この事件は、議会主義共和制の信用を一時まったく失墜させ、また多くのユダヤ人が関与していたため、反ユダヤ主義的世論を強めた。
[西海太郎]
『大仏次郎著『パナマ事件』(1960・朝日新聞社)』