心臓から全身に血液を送る大循環(体循環)の本幹をなす動脈で、直径2、3センチメートルという人体でもっとも太い動脈血管である。すなわち、左心室から出て胸腔(きょうくう)内を上行する上行大動脈、胸腔内で左気管支を乗り越えるようにして身体背側後方へ向きを変える大動脈弓、脊椎(せきつい)に沿って身体下方へ向かう下行大動脈の順に連なり、腰部で左右の総腸骨動脈に分かれるまでの太い動脈をさす。横隔膜から上を胸部大動脈、下を腹部大動脈とよぶ。
大動脈壁は内膜、中膜、外膜の三層より構成されるが、中膜に弾力線維層をもち、心臓の収縮期に心臓から送られてきた血液を大動脈壁が伸展していったん内腔に蓄え、心臓の拡張期には収縮して身体の隅々まで血液が絶えず送られるように働いている。
[木村和文]
胸部大動脈の主要な分枝は、まず上行大動脈からは心筋に血液を供給する冠動脈、大動脈弓からは心臓に近い順に腕頭動脈(すぐに右総頸(けい)動脈、右鎖骨下動脈に分枝する)、左総頸動脈、左鎖骨下動脈である。総頸動脈は脳を含む頭部と頸部(頸部から上の身体各部)に血液を供給し、鎖骨下動脈はおもに上肢に、一部は脳にも血液を供給する。腹部大動脈の主要な分枝は上から順に、腹腔動脈(胃、肝臓、脾(ひ)臓、膵(すい)臓に血液を供給する)、上腸間膜動脈(小腸、大腸の一部に血液を供給する)、腎(じん)動脈、下腸間膜動脈(大腸の一部と直腸に血液を供給する)である。
[木村和文]
先天的異常には大動脈縮窄(しゅくさく)症、動脈管(ボタロー管)開存症、大動脈騎乗などがあり、後天的なものには大動脈炎症候群、大動脈瘤(りゅう)、解離性大動脈瘤、アテローム性硬化症などがあげられる。これらの疾患の多くは、大動脈や主要な分枝動脈の形態や血管内腔の狭窄、ときには内壁の損傷をきたす。これらのスクリーニング検査として、造影剤を併用する造影CT法、核磁気共鳴を原理とするMRI・MRA法、超音波法などの侵襲の少ない方法が用いられる。診断を確実にするためには大動脈造影法が行われる。これは大腿(だいたい)動脈から血流と逆行性にカテーテル(ポリエチレンのチューブ)を目的とする病変部位へ進めていき、そこで造影剤を注入して連続的にX線写真を撮影し、大動脈内の血液の流れ方や大動脈の形状を診断する方法である。
大動脈の疾患は、先天異常のように生後早期に症状の現れるものから、後天的に徐々に進行するものまでいろいろあって、発見が遅れることも少なくない。症状も疾患によって多様であるが、先天異常の場合は呼吸困難やチアノーゼ、後天的な疾患では胸痛や四肢の血管拍動の異常などがみられるので、疑わしい症状があれば早期に検査を行い、治療を開始する必要がある。
[木村和文]
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