大口融資規制(読み)おおぐちゆうしきせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大口融資規制」の意味・わかりやすい解説

大口融資規制
おおぐちゆうしきせい

自己資本比率規制同様、預金取扱金融機関(以下、「銀行」)における健全性の確保に関する規制であり、銀行の同一人への融資の大口化に対する規制。当初は1974年(昭和49)11月の金融制度調査会の「大口融資規制に関する答申」に基づいて、旧大蔵省が各銀行に対して行った金融行政の一つであった。その後1981年制定の「銀行法」のなか条文として盛り込まれ、さらに1998年(平成10)の銀行法の全面改正に伴い、抜本的な拡充が行われたことにより、現在の「大口信用供与等規制」となっている。すなわち、同法第13条では、「銀行の同一人に対する信用の供与等の額は、政令で定める区分ごとに、当該銀行の自己資本の額に政令で定める率を乗じた額(信用供与等限度額)を超えてはならない」と規定し、国、地方公共団体、政府機関には適用しないとしている。

 この条文における「銀行」は、普通銀行と他の業態の銀行との間に格差が設けられていない(1981年の銀行法では、普通銀行、長期信用銀行信託銀行外国為替(かわせ)銀行の間には20~40%の格差が設けられていた)。また、当該銀行の子会社等からの信用供与等の総額算出にあたっては、各子会社等からの信用供与等の額をそのまま合算することになっていることから、銀行グループにおけるリスク管理の観点より、グループ規制のほうに比重が置かれているといえる。加えて、このようなグループ規制の観点から信用の受信先についても「単体としての同一人」と「受信側合算対象者を含んだグループとしての同一人」に区分されている。そして「信用供与等限度額」の算出における当該銀行の自己資本の額に対する比率は、銀行法施行令第4条により、前者については25%、後者については40%と定められている。ただし、この場合の「自己資本の額」については、自己資本比率規制(同法14条の二第1号)で定めている基準に従い算出される自己資本の額に必要な調整を加えた額とされている。他方「信用供与等」とは、従来貸付金および支払承諾のほか、当該債務者に対する出資、CP(コマーシャルペーパー=短期資金の調達手段)、デリバティブ(金融派生商品)等をも含むこととし、その具体的な範囲は省令により弾力的に定めることができるとしている。

 このように、銀行に対して「同一人」に対する大口融資を規制する措置をとるのは、銀行資産の危険分散を図り、銀行信用の広く適正な分配を進めることを目的としているからである。バーゼル銀行監督委員会においても、1997年に発表した「バーゼル・コア・プリンシプル」(銀行監督のためのコアとなる諸原則)のなかで「信用リスク一般が特定の大口の取引先に集中するような銀行の信用供与を制限する方法を検討することは重要である」と述べられている。

[前田拓生]

『原司郎著『テキストブック金融論』(1980・有斐閣)』『木下信行著『「解説」改正銀行法』(1999・日本経済新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「大口融資規制」の意味・わかりやすい解説

大口融資規制 (おおぐちゆうしきせい)

銀行の健全経営,また銀行による不当な産業支配の防止という観点から,大蔵大臣の諮問機関である金融制度調査会の答申に基づいて1974年12月から実施された施策。銀行法の改正にあたり同一内容が決定され,82年4月から施行された。その内容は,(1)普通銀行,長期信用銀行,信託銀行および外国為替専門銀行(東京銀行)の信用供与を対象とし,(2)一債務者に対する信用供与額の合計額が,普通銀行については自己資本の20%,長期信用銀行および信託銀行については同30%,外国為替専門銀行については同40%に相当する額を超えてはならない,(3)ただし,国,地方公共団体に対する信用供与のほか緊急やむをえない場合等については適用除外を認める,というものである。1975年5月には生命保険会社および損害保険会社に対しても追加実施された。この場合の一債務者に対する信用供与限度額は,総資産の3%以内とされた。本規制の限度額をオーバーしていた信用供与の代表例としては,旧財閥系銀行による同系列の総合商社に対するものがあげられる。
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