精選版 日本国語大辞典「大口」の解説
おお‐くち おほ‥【大口】
[1] 〘名〙 (「おおぐち」とも)
[一]
① 大きな口。大きくあいた口。
※宇治拾遺(1221頃)二「この磐(いはほ)を見るに、誠に龍の大口を明きたるに似たり」
② みだらな話。猥談(わいだん)。おおぐちばなし。
※浮世草子・好色一代女(1686)一「ふんどしかきながら女中同前の男、心のうき立程、大口(オホグチ)いふより外はなし」
③ おおげさなことを言うこと。言いたいほうだいに言いちらすこと。
※玉塵抄(1563)一九「王充と云者あり〈略〉東の方は函谷関とぢてふうじかためてをかうと云たぞ、大口なことぞ」
④ 売買や取引などの額や数がまとまって多いこと。⇔小口。
※鱧の皮(1914)〈上司小剣〉一「四十人前といふ前茶屋の大口が焼き上って、二階の客にも十二組までお愛そを済ましたので」
⑤ 茶道具の一種。片口に似て、柄がなく口が広いもの。釜や水指しに水を入れるのに用いる。
[二] (「おおくちばかま(大口袴)」の略) 裾の口が広い袴をいう。大口の袴。
※枕(10C終)一三四「おほぐち、またながさよりは口ひろければ、さもありなん」
② 下袴の一種。指貫(さしぬき)や直垂(ひたたれ)の袴の下にはく。前面を精好、後面を大精好(おおせいごう)で仕立てて、後腰(うしろごし)を張らせて着用する。込大口(こみおおくち)。後張(うしろばり)の大口。風流(ふりゅう)の時は上の袴を省略して用い、能装束の着用にその様式を伝えている。

※高倉院厳島御幸記(1180)「さまざまの花をつけて、大くちを着て、田楽つかうまつる」
③ 童形装束で半尻(はんじり)所用の時にはく袴。前面を大精好、後面を精好で仕立てる。前張(さいばり)の大口。前張。
④ 能装束の一つ。後部を左右に強く張った袴。生絹でつくる。生地の色で、白大口、緋大口、緋以外の色を地とする色大口、模様大口などに分けられ、大臣・僧・武将・女など、それぞれの役柄によって使い分けをする。
※申楽談儀(1430)能の色どり「脇の能、大臣には、先は、上下水干成べし。つれ大臣は大口也」
⑤ 歌舞伎の衣装の一つ。能装束からとった袴。能の形式を模した松羽目物(まつばめもの)に多く用いられる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑥ 股引き、パッチをいう、演劇社会の楽屋言葉。
おおぐち おほぐち【大口】
姓氏の一つ。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報