預金者の保護や金融の円滑化を目指し、銀行が健全で適切な業務運営をするためのルールを定めた法律。銀行の公共性の高さを踏まえ、業務内容や資本金額、休日などを幅広く定めている。全ての銀行の商号に「銀行」の文字が含まれているのも、この法律で決められているためだ。銀行に問題があれば国が業務の停止を命じたり、免許を取り消したりすることも明記されている。
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銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする法律。1981年(昭和56)制定。昭和56年法律第59号。本法において「銀行業」とは、預金または定期積金の受入れと資金の貸付または手形の割引とをあわせ行い、または為替(かわせ)取引を行う営業をさし、「銀行」とは内閣総理大臣の免許を受けて「銀行業」を営む者と定義づける。同法は、銀行の業務内容、子会社の範囲、経理、銀行に対する行政の監督、銀行の組織再編、外国銀行、銀行主要株主の管理、銀行持株会社、銀行代理業、電子決済等代行業、金融ADR(裁判外紛争解決手続)等について規定する。
[武田典浩 2020年4月17日]
日本において初めて銀行法と称する法律が制定されたのは、1927年(昭和2)であった(昭和2年法律第21号)。銀行倒産が相次いだ背景のもとで、普通銀行制度を整備し、健全経営の確保と信用秩序の維持を図ることを主眼として制定された。以降、同法は日本の金融制度の根幹を担ってきたが、経済社会構造の変化とともに、金融事情や銀行業務の実情と合致しなくなった。そこで、1981年に全面的な改正が行われた。一般的に、1927年法は旧銀行法、1981年法は現行銀行法とよばれている。
[武田典浩 2020年4月17日]
1981年改正においては、銀行の公共性を宣言するとともに、同法の運用にあたっては銀行の自主的な努力を尊重するよう配慮することを定めて、銀行の公共性と私企業性との調和を図った。また、銀行業務の大衆化・多様化の進展、国債等の公共債の大量発行、金融の国際化といった銀行を取り巻く内外の状勢変化に対応するため、公共債の証券業務を含む業務範囲の明確化、従来の行政指導を法制化する大口信用供与規制(銀行による特定の企業に対する信用供与額を設定する規制。この額は、銀行の自己資本を基準に設定される)、ディスクロージャー(企業内容の開示)に関する規定の整備、銀行の週休2日制実現に向けた制度の整備、1年決算制への移行、外国銀行支店に関する規定の体系的整備などを図った。
[福原紀彦 2020年4月17日]
1992年(平成4)には「金融制度及び証券取引制度の改革のための関係法律の整備等に関する法律」(平成4年法律第87号。いわゆる「金融制度改革関連法」)が成立した。このなかで銀行法が改正され、金融機関が業態別子会社を設立することによって他の業態へ相互参入することが可能となり、これまで行政指導に基づいていた自己資本比率規制を法律に基づく規制とするなどした。
1998年には、いわゆる「日本版金融ビッグバン」と称される金融システムの大改革がなされ、このなかで銀行法が改正された(平成10年法律第107号)。銀行を子会社とする持株会社を設立することが可能となり、銀行のディスクロージャーを罰則つき義務規定とし、1998年4月から導入されていた早期是正措置(銀行の経営が破綻(はたん)する前に経営の改善を求める措置)を整備・強化し、大口信用供与規制を拡大するとともに、アームズ・レングス・ルール(銀行と、子会社・主要株主など銀行の関係者との間で、銀行に不利益を与えるような取引を行うことを禁止する規制)の適用範囲を拡大するなどした。
2001年(平成13)には、異業種事業会社による銀行業への参入(とりわけインターネット専業銀行の出現)という背景を踏まえ、銀行経営の健全化を確保するための改正がなされた(平成13年法律第117号)。銀行の5%を超える株式を所有する大株主には銀行株式所有届出書の提出義務を課し、銀行の議決権の20%以上を保有する主要株主には内閣総理大臣の認可を受ける義務を課し、議決権の50%を超える支配株主には必要と認めるときは内閣総理大臣への改善計画の提出を求められるものとした。また、営業所の設置が許可制から届出制に改正された。
2005年には、銀行代理業(預金受入れ・貸付・為替などの、銀行の業務を内容とする契約締結を代行・媒介する営業)を営むことを認める改正がなされた(平成17年法律第106号)。
2007年には、銀行法そのものの改正ではないが、銀行の自己資本比率規制について、2004年にバーゼル銀行監督委員会が公表した、国際的に活動する銀行の自己資本比率の計算方法に関する新たな規制であるバーゼルⅡが導入された。なお、2009年には新たな規制であるバーゼルⅢが示された。
2009年には、金融商品・サービスに関する銀行・利用者間の紛争を裁判外で簡易・迅速に解決する業務を行うものとして、金融ADR制度を導入する旨の改正がなされた(平成21年法律第58号)。
2013年には、国際的な金融危機に対応するための預金者保護の仕組みを整備し、大口信用供与等規制が強化されるなどの改正がなされた。
2016年には、経営の基本方針等の策定、法令遵守体制整備などの、金融グループの経営管理を充実させるための改正がなされた。
[武田典浩 2020年4月17日]
銀行は、預金・貸出・為替というその三大業務をワンセットで提供することにより、高度の金融サービスを提供し続ける業種である。しかし、その三大業務につき、銀行以外の業態でも提供できるようにすることを目的とした法改正が続いている。
2010年には、銀行法そのものの改正ではないが、登録を受けた資金移動業者が少額為替取引を営むことを可能とした、「資金決済に関する法律(資金決済法)」が施行された。
2016年には、これも銀行法そのものの改正ではないが、資金決済法において、仮想通貨(当時。現在は「暗号資産」)に関する法制度が導入された。
2017年には、電子決済等代行業(預金者の委託を受けて、情報通信技術を使用する方法により、銀行預金口座に存在する資金を利用して為替取引を代行する業者)に関する法整備がなされた。
こうした法改正により、とりわけ為替取引の銀行独占の考え方が崩れつつある。
[武田典浩 2020年4月17日]
『西村吉正著『金融システム改革50年の軌跡』(2011・金融財政事情研究会)』▽『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第3版(2013・東洋経済新報社)』▽『川口恭弘著『現代の金融機関と法』第5版(2015・中央経済社)』▽『池田唯一・中島淳一監修『銀行法』(2017・金融財政事情研究会)』▽『小山嘉昭著『銀行法精義』(2018・金融財政事情研究会)』
日本の銀行一般の組織,活動,監督に関する法律には,日本銀行法をはじめとして,長期信用銀行法,外国為替銀行法,相互銀行法等さまざまなものがあった。広義の銀行法には,これらの銀行一般にかかわる法規のすべてが含まれるが,通常は,1981年公布の〈銀行法〉を意味する。これは普通銀行の組織,活動,監督について定める法である。
前身の1927年公布の銀行法は,戦前,戦後を通じ約50年にわたって日本の銀行行政を支えてきた。しかし日本経済の低成長化に伴う銀行の健全経営確保の必要性や消費者ローン等の伸長で銀行業務が大衆化し,公共性,社会性をいっそう確保する必要性が生じたことや国債の大量発行下で公共部門の資金需要に対する銀行の対応が求められたり,国際化への対応が必要となる等の社会経済状況の変化が生じ,81年に新たに銀行法が制定された。従来の行政指導を法令に明記し,行政運営に一定の枠をはめたことと,銀行経営に対する個別行政介入を抑制し,銀行の自主的判断を尊重することとしたことなど,現行銀行法の基礎となった。
しかし,80年代後半から90年代を通じて,日本の経済社会全体におよんだ規制緩和の動きによって,81年法の下でも依然として強い規制の下に置かれていた銀行行政は,継続的にいっそうの緩和の実現を余儀なくされることとなった。金融部門におけるさまざまな自由化の動きに対応して,88年には,自由金利や外貨建て資産・負債等の金利変動,為替変動に伴うリスクを回避するために,金融先物取引所を設ける金融先物取引法が制定され,それとの関係で銀行法が部分改正された。92年には,銀行と証券会社との間に設けられていた相互の領域への高い参入障壁を低め,大蔵省の認可を前提に,銀行と証券が子会社を通じて他業態への参入ができるようにすることを中心にした金融制度改革関連法が制定され,それとの関係で銀行法も部分改正を受けた。さらに96年には,規制緩和やバブルの崩壊に伴ってもたらされた金融機関の経営の不安定化に対応するために,金融機関等の経営の健全性の確保のために部分改正が加えられている。
以上のような,主として金融自由化に伴う法律の制定や改正とは別に,90年代中葉のバブル経済の崩壊に伴って発生した住専問題や証券不祥事等が,大蔵省の金融行政の在り方に対する強い社会的批判を生み出した。その結果,97年に,銀行業に対する監督行政を中心に,金融業に対する監督権限を大蔵省から切り離し,預金者,保険契約者,有価証券の投資者等の保護と,金融および有価証券の流通の円滑を図ることを目的として,銀行業,保険業,証券業その他の金融業を営む民間事業者等の業務の適切な運営,経済の健全性の確保のために,これらの民間事業者等について検査その他の監督をし,証券取引等の公正の確保のための監視をすることを主たる任務とする,金融監督庁が総理府の外局として設立された(金融監督庁設置法,1997年法律101号)。
経済の情報化,国際化の動きは金融分野でとくに著しく,今日の金融市場での競争は国境の枠を超えて行われている。そのような動きの中で,日本の従来の金融業に対する規制の強さは諸外国の金融機関の嫌うところとなり,東京市場が世界の金融市場の中心の一つたる地位を占められなくなる恐れが深刻化した。近時の銀行法をめぐる規制緩和の動きはそのような事態に対する政策的な対応を現すものであるが,なおいっそうの規制緩和を目ざす,いわゆる金融ビッグバンの動きが具体化しつつあり,銀行法は今後ともそのような流れと無縁ではありえない。
→銀行
執筆者:来生 新
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普通銀行を規制する法律。1927年(昭和2)3月公布,28年1月施行。1893年(明治26)施行の銀行条例は,中小銀行の乱立と経営悪化・倒産をもたらす原因ともなったので,1926年政府は弊害是正を目的に金融制度調査会を設置し,その答申にもとづき銀行法を制定。おもな内容は普通銀行の業務の定義,企業形態を株式会社に限定,5年間の猶予を認めて原則的に資本金100万円以上,常務役員の兼職制限,設立の免許制,店舗設置や合併の認可制などで,大蔵省の監督権限を強化した。無資格化した銀行には合併が指導され,銀行合同進展の契機となった。81年銀行の公共性と経営の自主性尊重を明示して全面改正され,翌年施行。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…だが,そうした見方は通常はまれである。
【普通銀行と銀行法】
各種の銀行はそれぞれ法律によってその設立,業務分野が規定されている。なかでも中枢を占めるのは普通銀行(普通銀行・特殊銀行)であって,銀行法(1927公布,28施行)がその立法措置である。…
…設置当時急務とされていた準備預金制度の答申に始まり,現在までに多くの重要な答申が行われてきた。75年5月に銀行に関する法令や制度およびこれらに関連する事項について大蔵大臣より諮問が行われ,79年6月に〈普通銀行のあり方と銀行制度の改正について〉,80年11月に〈中小企業金融専門機関等のあり方と制度の改正について〉の答申がまとめられ,これらの答申に基づき現行の新銀行法が制定された。その後は経済・金融環境の変化を踏まえ,国民経済的にみて望ましい今後の金融のあり方を検討しており,83年4月には金融の自由化,7月には金融機関の技術革新,84年6月には金融の国際化に関する諸問題について報告書が提出された。…
※「銀行法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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