〘他ワ五(ハ四)〙
[一] 持っていたものをなくす。なくなす。
① 所有しているものや、自分に関係のある物事、状態などをなくす。あるものに備わっている能力、立場、根拠などをなくす。喪失する。
※万葉(8C後)一五・三七五一「白たへのあが下衣宇思奈波(ウシナハ)ず持てれわが背子直(ただ)に会ふまでに」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「
としごろの頼みうしなひて」
② 肉親や親しい友をなくす。死に別れることにいう。
※伊勢物語(10C前)一〇九「友だちの人をうしなへるがもとに」
③ 精神がふつうの状態、適当な状態でないようにする。
※
太平記(14C後)一七「大嶽の敵ども前後に心を迷はして、進退定て度を失つと覚へ候」
※天草本伊曾保(1593)獅子と馬の事「マナコガ クラウデ ココロ キヲ vxinai(ウシナイ)」
④ ある資格をなくす。「失わない・失わず」の形で用いられ、「十分にそういう資格をもっている。そういってもさしつかえない」の意を表わす。
※富岡先生(1902)〈
国木田独歩〉一「斯ういふ人物に限って変物である、頑固である、〈略〉富岡先生も其一人たるを失なはない」
[二] 積極的になくなるようにする。
① (罪を)消滅させる。
※源氏(1001‐14頃)朝顔「としごろ沈みつる罪うしなふばかり」
② こわしてなくす。ほろぼす。
※源氏(1001‐14頃)宿木「しん殿をうしなひてことさまにも造り
かへんの心にて」
③ 殺す。
※源氏(1001‐14頃)手習「よき女のあまた住み給ひし所にすみつきて、かたへはうしなひてしに」
④ 追い払う。
※
浄瑠璃・融大臣(1692頃)二「融のおとど高官を汚し、かく放埒の振舞叡聞に達し、失ひ申せとの御使に向ふたり」
[三] 手に入れようとして、とり逃がす。また、道や方法などをさがしてもみつからない、わからなくなる。
※平家(13C前)七「怨敵巷にみちて、予参(よさん)道をうしなふ」
[補注]「うす(失)」を基に、その行為をする意を添える
接尾語「なふ」を付けて
他動詞として成立した語。