女性支援法(読み)じょせいしえんほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「女性支援法」の意味・わかりやすい解説

女性支援法
じょせいしえんほう

困難な問題を抱える女性たちを包括的に支援するための法律。正式名称は「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(令和4年法律第52号)。2022年(令和4)5月25日成立、2024年4月1日施行。女性が日常生活または社会生活を営むにあたり、女性であることによりさまざまな困難な問題に直面することは多い。このことにかんがみ、困難な問題を抱える女性の福祉増進を図るため、支援のための施策推進し、それによって人権尊重され、女性が安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現に寄与することを目的として制定された。「困難な問題を抱える女性」とは、「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む。)」(第2条)とされ、年齢国籍障害有無は問われない。さらに、基本理念として、女性の福祉の増進、人権擁護や意思の尊重、関係機関および民間団体との協働男女平等の実現を明記している。これらの理念を実現するために、国・地方公共団体の責務、国の基本方針・都道府県基本計画の義務づけ(市町村努力義務)、支援調整会議の設置、民間団体への援助などを規定している。実施機関は「女性相談支援センター(旧、婦人相談所)」「女性相談支援員(旧、婦人相談員)」「女性自立支援施設(旧、婦人保護施設)」であるが、行政の支援が届きにくい対象者を適切に支援に結び付けるために民間団体や関係機関との連携・協働の推進も規定されている。とくに、地方公共団体の義務として民間団体との協働による支援を規定したことは、新たな支援枠組み構築として重要である。

[堀千鶴子 2025年2月14日]

法律制定の経緯

本法律は、これまで売春防止法(昭和31年法律第118号。売防法)などを根拠として実施されてきた婦人保護について、新たな理念や枠組みで対応するものとして策定された。制定時の売春防止法は、第二次世界大戦後の集娼(しゅうしょう)対策として成立したものであり、第4章に規定されていた婦人保護事業(実施機関は婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設)は、集娼地区などで売春を行う「要保護女子」(「性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子」)の「保護更生」を目的とするものであった。そのため、多様な困難な問題を抱える女性の人権擁護や福祉の増進、自立支援などの視点は法的に規定されていなかった。しかし、時代を経るにつれ、女性が抱える困難は多様化・複合化し、婦人保護事業の現場にも複合的、かつ困難な問題を抱えた女性が増加してきたことから、売春防止法に根拠を置く婦人保護事業の制度的限界が指摘されるようになった。こうした状況から、婦人保護施設の全国組織である「全国婦人保護施設等連絡協議会」(現、全国女性自立支援施設等連絡協議会)を中心として、売春防止法改正による婦人保護事業の見直しを求めたソーシャルアクションが展開された。こうした運動は、2018年(平成30)7月の厚生労働省子ども家庭局長による「困難な問題を抱える女性への支援の在り方に関する検討会」開催につながり、同検討会の「中間まとめ」(2019年10月)では、売春防止法を制度的根拠とすることの限界や、新たな法的枠組みの構築が提言された。国会においても婦人保護事業の根拠として脱売防法化を目ざす動きが強まり、超党派の国会議員による議員立法によって女性支援法が成立した。これに伴い、婦人相談所などの実施機関は現在の名称に変更、機能強化された。

[堀千鶴子 2025年2月14日]

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