無心(読み)ムシン

デジタル大辞泉 「無心」の意味・読み・例文・類語

む‐しん【無心】

[名・形動]
無邪気であること。また、そのさま。「無心の勝利」「無心な子供」
意志・感情などの働きがないこと。「無心の草木」
仏語。
㋐心の働きが休止していること。
㋑一切の妄念を離れた心。⇔有心うしん
和歌・連歌で、表現などのこっけい・卑俗をねらいとするもの。
狂歌のこと。和歌を有心うしんというのに対していう。
思慮に欠けること。気が利かないこと。また、そのさま。
「さること言はむ人、かへりて―ならむかし」〈・一三三〉
情趣を解する心がないこと。また、そのさま。無風流。
「―なる女房などの歌よみかけたる」〈無名抄
思いやりのないこと。また、そのさま。無情。
「―に心づきなくてやみなむと」〈・帚木〉
[名](スル) 人に金品をねだること。「親に金を無心する」
[類語](1無邪気うぶういういしいあどけないいたいけ天真爛漫天衣無縫イノセント罪が無い/(2無我無私滅私虚心虚心坦懐純粋無念無想無欲

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精選版 日本国語大辞典 「無心」の意味・読み・例文・類語

む‐しん【無心】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] ある方面についての心の働きが欠けていること。心のいたらないこと。深く思う心のないこと。⇔有心
    1. ( 形動 ) 思慮分別のないこと。気のきかないこと。心のあさはかなこと。また、そのさま。転じて、無神経なさま。
      1. [初出の実例]「まろなどに、さることいはむ人、かへりてむしんならんかし、などのたまふ」(出典:枕草子(10C終)一三三)
    2. ( 形動 ) 情趣を解する心のないこと。また、そのさま。無風流なさま。無趣味なさま。
      1. [初出の実例]「正頼、子供あまた持て侍れど〈略〉人の遊びせむ所には、草刈笛吹くばかりの心どもにて、いとむしんにて侍り」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲上)
    3. ( 形動 )( 「むじん」とも ) 人情のないさま。他に対する思いやりのないさま。無情なさま。
      1. [初出の実例]「いとかけり来まほしげに思へるを、中将のいとしほふの人にて、ゐて来ぬ、むしむなめりかし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)常夏)
    4. ( ━する ) 他人の迷惑をもかえりみないで頼むこと。遠慮なく金品などをねだること。また、そのような依頼、請求。
      1. [初出の実例]「雖為無心所望。幔幕。同幕串」(出典:庭訓往来(1394‐1428頃))
      2. 「そちにむしんをいひたひ事が有が」(出典:虎明本狂言・二人大名(室町末‐近世初))
  3. [ 二 ] 心中に何もとらわれた心がないこと。
    1. 仏語。固定的なとらわれがなくなった状態。凡夫の一切の妄念がとりはらわれた心。虚心。無念無想。⇔有心
      1. [初出の実例]「心これ拈華破顔なり。有心あり、無心あり」(出典:正法眼蔵(1231‐53)三界唯心)
    2. 仏語。一切は空であると観ずる心。
      1. [初出の実例]「仏法以有心得。以無心得」(出典:学道用心集(1234頃))
    3. ( 形動 ) 心に何のわだかまりもなく素直であること。自然のままに虚心であるさま。
      1. [初出の実例]「本自不因絃管響、無心処処舞春風」(出典:文華秀麗集(818)下・舞蝶〈嵯峨天皇〉)
      2. 「善の心もなく欲の心もなく無心(ムシン)なり」(出典:仮名草子・身の鏡(1659)上)
  4. [ 三 ] 無生物や植物、人間以外の動物などが、心をもたないこと。情意がないこと。また、そのさま。非情。
    1. [初出の実例]「無心草木猶余恋、况復微臣酔恩危」(出典:凌雲集(814)於神泉苑侍宴賦落花篇、応製〈高丘第越〉)
  5. [ 四 ] 文芸、特に韻文において、詩想、表現ともに滑稽、卑俗をねらいとするもの。⇔有心
    1. 優雅を旨とする普通の和歌に対して狂歌をいう。栗の本。
      1. [初出の実例]「柿本はよのつねの歌、是を有心と名づく。栗本は狂歌、これを無心といふ」(出典:井蛙抄(1362‐64頃)六)
    2. 和歌の伝統の上に立つ連歌を有心連歌と称するのに対して、通俗的なおかしさの強い連歌をいう。無心連歌。また、無心連歌の人々。
      1. [初出の実例]「昔無心が『すにさしてこそ』といふ連歌をしたりしに、有心の中より『あはびがひ』と付たりき」(出典:八雲御抄(1242頃)一)

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改訂新版 世界大百科事典 「無心」の意味・わかりやすい解説

無心 (むしん)

平安朝では〈有心(うしん)〉に対する語。〈有心のひと無心のひとえりいでなむ〉(《亭子院有心無心歌合》),〈さる無心の女房〉(《源氏物語》)など,思慮・分別・風流心のない意。中世に〈有心〉が文学表現の深さの美を表すようになるとともに,〈無心〉も,機知・滑稽を主とした文学的性質を表すものになる。すでに古く,〈無心所着。万葉十六巻に在之。たゞすゞろ事也。あしくよめばその姿ともなきものなり〉(《八雲御抄》)など,無意味な歌をさす言葉として用いられていたが,中世には〈後鳥羽院の御時,柿の本・栗の本として置かる。柿の本は世の常の歌,これを有心と名づく。栗の本は狂歌,これを無心といふ〉(《井蛙抄》)など,洒落を主とした狂歌や連歌の称としても用いられるようになった。ところで,仏語の〈無心〉があり,〈無相〉などと同じく,実体も形相もなく空無そのものというべき真理の顕現した,大乗仏教最高の境地の意とされ,禅宗の花紅柳緑的な悟りの境とも通じる。〈無心無風の位に至る見風,妙所に近き所にてやあるべき〉(《花鏡》)などの用法がそれに当たる。これは〈有心〉と対立する〈無心〉ではなく,その対立を超えた,一種の宗教的ともいえる高次元の平淡無味な美であり,中世における美的理念の一つ達成とみなしうる。芭蕉の〈風雅の誠〉や良寛の〈任運〉,さらに漱石の〈則天去私〉など,後世への系譜もたどることができる。
有心
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無心」の意味・わかりやすい解説

無心
むしん

「心のないこと」で,「無心に遊ぶ」という場合には,無邪気なことを意味し,「無心する」という場合には,遠慮せず物品,金銭をねだることを意味する。仏教の術語としては,妄念を離れた「心そのもの」を意味し,そのような精神状態に入る禅定を無心三昧という。また無念無想の仏道修行者を無心道人という。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「無心」の解説

むしん【無心】

大阪日本酒。数量限定の大吟醸酒。醪(もろみ)に圧力を加えずに、自然に垂れてきた酒を集めた「しずく酒」。原料米は山田錦。仕込み水は中硬水の自家井戸水。蔵元の「浪花酒造」は寛政年間(1789~1801)創業。所在地は阪南市尾崎町。

出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報

普及版 字通 「無心」の読み・字形・画数・意味

【無心】むしん

自然のまま。

字通「無」の項目を見る

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