む‐しん【無心】
〘名〙
[一] ある方面についての心の働きが欠けていること。心のいたらないこと。深く思う心のないこと。⇔
有心。
① (形動)
思慮分別のないこと。気のきかないこと。心のあさはかなこと。また、そのさま。転じて、無神経なさま。
※枕(10C終)一三三「まろなどに、さることいはむ人、かへりてむしんならんかし、などのたまふ」
② (形動)
情趣を解する心のないこと。また、そのさま。無風流なさま。無趣味なさま。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「正頼、子供あまた持て侍れど〈略〉人の遊びせむ所には、草刈笛吹くばかりの心どもにて、いとむしんにて侍り」
③ (形動)(「むじん」とも)
人情のないさま。他に対する思いやりのないさま。無情なさま。
※
源氏(1001‐14頃)
常夏「いとかけり来まほしげに思へるを、
中将のいとしほふの人にて、ゐて来ぬ、むしむなめりかし」
④ (━する) 他人の迷惑をもかえりみないで頼むこと。遠慮なく
金品などをねだること。また、そのような依頼、請求。
※
庭訓往来(1394‐1428頃)「雖為無心所望。
幔幕。同幕串」
※虎明本狂言・二人大名(室町末‐近世初)「
そちにむしんをいひたひ事が有が」
① 仏語。固定的なとらわれがなくなった状態。
凡夫の一切の
妄念がとりはらわれた心。虚心。無念
無想。⇔
有心。
※正法眼蔵(1231‐53)三界唯心「心これ拈華破顔なり。有心あり、無心あり」
② 仏語。一切は空であると観ずる心。
※学道用心集(1234頃)「仏法以二有心一不レ可レ得。以二無心一不レ可レ得」
③ (形動) 心に何のわだかまりもなく素直であること。自然のままに虚心であるさま。
※文華秀麗集(818)下・舞蝶〈
嵯峨天皇〉「本自不因絃管響、無心処処舞春風」
※仮名草子・身の鏡(1659)上「善の心もなく欲の心もなく無心(ムシン)なり」
[三] 無生物や植物、人間以外の動物などが、心をもたないこと。情意がないこと。また、そのさま。非情。
※凌雲集(814)於神泉苑侍宴賦落花篇、応製〈高丘第越〉「無心
草木猶余恋、况復微臣酔
二恩危
一」
[四]
文芸、特に
韻文において、詩想、表現ともに
滑稽、卑俗をねらいとするもの。⇔
有心。
※
井蛙抄(1362‐64頃)六「柿本はよのつねの歌、是を有心と名づく。
栗本は狂歌、これを無心といふ」
② 和歌の
伝統の上に立つ
連歌を
有心連歌と称するのに対して、通俗的なおかしさの強い連歌をいう。
無心連歌。また、無心連歌の人々。
※
八雲御抄(1242頃)一「昔無心が『すにさしてこそ』といふ連歌をしたりしに、有心の中より『あはびがひ』と付たりき」
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デジタル大辞泉
「無心」の意味・読み・例文・類語
む‐しん【無心】
[名・形動]
1 無邪気であること。また、そのさま。「無心の勝利」「無心な子供」
2 意志・感情などの働きがないこと。「無心の草木」
3 仏語。
㋐心の働きが休止していること。
㋑一切の妄念を離れた心。⇔有心。
4 和歌・連歌で、表現などのこっけい・卑俗をねらいとするもの。
5 狂歌のこと。和歌を有心というのに対していう。
6 思慮に欠けること。気が利かないこと。また、そのさま。
「さること言はむ人、かへりて―ならむかし」〈枕・一三三〉
7 情趣を解する心がないこと。また、そのさま。無風流。
「―なる女房などの歌よみかけたる」〈無名抄〉
8 思いやりのないこと。また、そのさま。無情。
「―に心づきなくてやみなむと」〈源・帚木〉
[名](スル) 人に金品をねだること。「親に金を無心する」
[類語](1)無邪気・初・ういういしい・あどけない・いたいけ・天真爛漫・天衣無縫・イノセント・罪が無い/(2)無我・無私・滅私・虚心・虚心坦懐・純粋・無念無想・無欲
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むしん【無心】
平安朝では〈有心(うしん)〉に対する語。〈有心のひと無心のひとえりいでなむ〉(《亭子院有心無心歌合》),〈さる無心の女房〉(《源氏物語》)など,思慮・分別・風流心のない意。中世に〈有心〉が文学表現の深さの美を表すようになるとともに,〈無心〉も,機知・滑稽を主とした文学的性質を表すものになる。すでに古く,〈無心所着。万葉十六巻に在之。たゞすゞろ事也。あしくよめばその姿ともなきものなり〉(《八雲御抄》)など,無意味な歌をさす言葉として用いられていたが,中世には〈後鳥羽院の御時,柿の本・栗の本として置かる。
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無心
むしん
「心のないこと」で,「無心に遊ぶ」という場合には,無邪気なことを意味し,「無心する」という場合には,遠慮せず物品,金銭をねだることを意味する。仏教の術語としては,妄念を離れた「心そのもの」を意味し,そのような精神状態に入る禅定を無心三昧という。また無念無想の仏道修行者を無心道人という。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
むしん【無心】
大阪の日本酒。数量限定の大吟醸酒。醪(もろみ)に圧力を加えずに、自然に垂れてきた酒を集めた「しずく酒」。原料米は山田錦。仕込み水は中硬水の自家井戸水。蔵元の「浪花酒造」は寛政年間(1789~1801)創業。所在地は阪南市尾崎町。
出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報
普及版 字通
「無心」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報