人は、日常生活のうえでかかわりをもつ事物や他人に対して、多少とも好き・嫌いの感情を抱き、とくにそれが強い形でもたれる場合には、それらの対象や相手への態度、行動が、それによって大きく影響される。好きな事物や相手に対しては、それに接近したり、いつもいっしょにいようとしたり、たいせつにして自分のものにしようとしたりする。反対に嫌いなものに対しては、これを避けたり、無視したり、場合によっては破壊してしまおうとしたりさえする。子供では、このような好き・嫌いに基づく行動が端的に示されるが、大人になると、社会的な規制や利害関係による制約が絡み、好き・嫌いが単純明快には表明されない。
特定の事物や人間が好きになる要因としては、(1)空間的接近―いつも身近にあるということ(たとえば、家が近い者や教室の座席が近い者同士が仲よしになる)、(2)熟知性―頻繁に接触する機会があること(たとえば、テレビで繰り返し特定商品のコマーシャルを見せられると、それへの関心、好意が生じる)、(3)類似性―なにかの点で自分と類似していること、(4)相補性―要求に関して対照的または相互補足的な関係にあること(たとえば、夫婦関係において、(3)は「似た者夫婦」、(4)は「亭主関白に貞淑な妻」の場合)、などがあげられる。しかし、どの要因にしても適正な水準があるのであって、接近にしても接触度や類似性、相補性にしても、度を超えると逆効果をもたらし、互いに反発しあう場合も生じる。
[辻 正三]
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