家庭医学館 「子どもの急性胃腸炎」の解説
こどものきゅうせいいちょうえん【子どもの急性胃腸炎 Acute Gastroenteritis】
吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、下痢(げり)、腹痛などの消化器症状が急発するさまざまの病気の総称です。
急性胃腸炎は、さまざまな経路で消化管に病原微生物(びょうげんびせいぶつ)が侵入しておこるのですが、食物を介しておこる場合を食中毒(しょくちゅうどく)と呼び、集団発生して、社会問題になることも少なくありません。
[原因]
ウイルスによるものと細菌によるものとに分けられますが、数ではロタウイルスを代表とするウイルス性の急性胃腸炎が圧倒的に多く、全体の90%を占めています。このウイルスは、毎冬多数の乳幼児に急性下痢症をおこすことで知られています。
細菌ではカンピロバクターがもっとも多く、そのほかにサルモネラ、病原大腸菌、エルシニア、腸炎ビブリオなどがあります。海外との交流が盛んになっているので、コレラ、赤痢(せきり)などにも注意が必要です。
なお、まれですが、原虫(げんちゅう)が原因となる胃腸炎もあります。ジアルジア、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバなどによるもので、抵抗力の弱い子どもでは重症化する可能性があります。
O‐157は病原大腸菌の一種で、出血性の下痢をおこすものです。この細菌が生み出すベロ毒素が体内に吸収されると、溶血性尿毒症症候群(ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん)という二次的で重い症状になるため、集団発生すると重大事態になります。欧米ではO‐157で汚染された牛肉でつくられたハンバーグステーキで大規模の集団発生がおこりました。
[症状]
突然の嘔吐、下痢、腹痛が共通の症状です。
細菌性の胃腸炎の場合、発熱をともなうことが多く、便はしばしば粘液(ねんえき)状となり、膿(うみ)がまじったり、血便(けつべん)となります。そして、排便してもすぐにまたトイレに行きたくなる「しぶり腹」もよくみられます。
ウイルス性胃腸炎による下痢は、粘液、膿、血液を含まない水のような便(水様(すいよう)便)が出ます。発熱をともなうこともありますが短期間で、1日で解熱することが少なくありません。
子どもはとくに脱水になりやすいため、急激な体重や尿量の減少、皮膚粘膜(ひふねんまく)の乾燥はもちろん、ぼんやりとして元気がなく、すぐ眠ってしまうといった意識状態の変化に注意が必要です。
[治療]
十分な水分補給と食事療法がおもな治療法です。家庭で治療できることが多いのですが、嘔吐のために水分摂取(せっしゅ)ができなかったり、激しい下痢で脱水(だっすい)(水分の喪失)が激しいときは入院治療の必要があります。
口から飲める場合は、お茶や湯冷ましなどを、少量ずつ十分に与えます。スポーツドリンクなどは塩分が含まれており、塩分摂取量が過剰になる可能性があります。医師の指示に従いましょう。
症状が強く口から飲めない場合、あるいはすでに脱水症状があるときは、水分と電解質(でんかいしつ)を点滴(てんてき)で補充します。
食事療法は、開始する前に絶食して消化管を休ませた後、胃腸に負担を極力かけないように少量の薄めたミルクや重湯(おもゆ)から始めます。多くの場合、下痢止めの薬(止痢薬(しりやく))を使用し、便の性状の改善を確認しながら、消化のよい固形食物を少しずつ加えていきます。
細菌を早く排除しなければならない場合は抗生物質が使用されます。
[予防]
急性胃腸炎の病原微生物は口から入ります。したがって、手をよく洗うことがもっとも重要です。食事前や、外出から帰ったときなどは必ず手を洗う習慣をつけましょう。
また、食中毒がおこりやすい暑い季節には、食物は十分加熱してから食べるように心がけましょう。