子宮内胎児発育遅延(読み)しきゅうないたいじはついくちえん(英語表記)Intrauterine Growth Retardation

六訂版 家庭医学大全科 「子宮内胎児発育遅延」の解説

子宮内胎児発育遅延
しきゅうないたいじはついくちえん
Intrauterine growth retardation (IUGR)
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 在胎週数に応じた胎児発育が認められず、発育が遅延していると考えられる状態です。通常は早産および満期産の新生児体重から作成した児体重の増加曲線からみて体重(推定)が10パーセンタイル以下の場合をいいます。近年は胎児発育不全と呼ばれることもあります。

*10パーセンタイル:集団全体のなかで小さいほうから10%の集団が含まれるための境界の値

原因は何か

 原因は低栄養と胎児側要因の2つに大別されます。低栄養は母体から胎盤臍帯(さいたい)を介して供給される酸素や栄養が不足していることが原因で、母体異常(妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)高血圧、心疾患、腎疾患、自己免疫疾患、糖尿病)の合併や胎盤・臍帯の異常によります。胎児側の要因としては染色体異常や奇形の存在、風疹(ふうしん)などの子宮内感染、家系的な体質によるもの(母体も小さいなど特別な異常を合併しないもの)、などがあげられます。

 低栄養によるものでは妊娠中期以降、躯幹(くかん)の発育に比べ頭囲が大きいという、やせ型の体型となり、胎児自身によるものはバランスの取れた体型を示すことが多いようです。

検査と診断

 診断は超音波断層法が用いられます。胎児の各部分(頭部躯幹部、四肢)を計測し、それから胎児の体重を推定する方法が一般的です。この方法により体重が正常分布のどこに位置しているかを評価するとともに、頭部と腹部の発育を比較することで体型の評価が可能となります。同時に、胎児、胎盤、臍帯に異常がないかどうかの検索も行われます。

管理の方法

 診断がついたあとの管理法としては、胎児の発育度や健康状態を定期的にモニターします。

 発育停止や子宮内環境の悪化が考えられる場合には、成熟度を評価したうえで、胎児の娩出を考慮します。

 母体に合併症がある場合には、母体の健康のみならず胎児の発育を考慮に入れた最適の管理が行われているかどうかに注意を払う必要があります。

上妻 志郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「子宮内胎児発育遅延」の解説

しきゅうないたいじはついくちえん【子宮内胎児発育遅延 Intrauterine Growth Retardation】

[どんな病気か]
 子宮内での発育がかんばしくなく、胎児発育曲線上で、10%以下の出生体重赤ちゃんを子宮内胎児発育遅延と定義されます。これがおこる頻度は全出生の5%前後で、胎児仮死(たいじかし)(「胎児仮死」)になりやすく、周産期死亡率が高い病気です。胎児死亡全体の約3割を占めます。
 妊娠20週以前に発育遅延がおこると、胎児の身長と体重の発育がさまたげられ、胎児の体型から対称型発育遅延(たいしょうがたはついくちえん)といわれます。妊娠28週以後におこった場合は、頭部の発育は保たれますが、四肢(しし)(手足)や体幹(たいかん)(胴体(どうたい))の発育がさまたげられ、非対称型発育遅延(ひたいしょうがたはついくちえん)と呼ばれます。実際には、その中間型のものもかなりあります。
 原因としては低重量胎盤(ていじゅうりょうたいばん)、臍帯異常(さいたいいじょう)、先天性感染、多胎妊娠(たたいにんしん)(「多胎妊娠とは」)、重症の妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)(「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)」)、重症の糖尿病(「糖尿病」)、麻薬などの薬物常習などがあげられますが、原因が不明なものも少なくありません。超音波断層法で胎児のからだを計測し、基準値と比較するのがもっとも正確な検査法です。
[治療]
 お母さんは左側を下にして横になり安静を保ちます。また、病院に入院して、胎児の栄養を補うためのブドウ糖の点滴をしたり、それに子宮収縮抑制剤を併用したりします。
 この治療は、非対称型発育遅延には効果がありますが、対称型発育遅延には大きな効果はあまり期待できないとされています。
●日常生活の注意と予防
 子宮内胎児発育遅延に対する予防法はとくにありません。日常生活の注意では、過度の運動などを避けます。
 この病気は、胎児が小さいだけという認識が一般的で、問題の重要性(病的意味)が理解されにくい傾向が強いので、医師からの説明を十分に受け、なるべく入院して詳しく検査し、治療するよう努力しましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

妊娠・子育て用語辞典 「子宮内胎児発育遅延」の解説

しきゅうないたいじはついくちえん(ふぜん)【子宮内胎児発育遅延(不全)】

おなかの赤ちゃんの体重が、妊娠週数に比べて少ないことをいいます。こうした子のことを子宮内発育遅延(不全)児と呼びます。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

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