学生支援(読み)がくせいしえん

大学事典 「学生支援」の解説

学生支援
がくせいしえん

学生支援とは,各大学が取り組んでいる修学支援,学生相談,就職支援,健康支援,メンタルヘルス支援,経済的支援,課外活動支援,留学支援,学生生活の支援,障害のある学生への支援などのことであり,さまざまな環境におかれた学生たちがよりよい学生生活を送り,卒業して社会にでていくための支援をおこなうことである。各大学には,「学生支援課」ないしは「学生支援センター」が設けられており,こうした支援事業に取り組んでいる。近年では,大学はとりわけ就職支援に力をいれる傾向にあり,「キャリアセンター」という名称をとっていることが多い。大学がおこなう就職支援としては,企業の求人情報の紹介や,その企業に就職したOBの紹介,それに加えてキャリア・アドバイザーなどの相談員が常駐し,学生の進路相談にのったりもしている。

 インターンシップについても,就職支援の一環としておこなわれており,学生支援センター,キャリアセンターが窓口となって,ホームページで企業を紹介し,職員が相談にのるという形式をとっている。ほかにも,企業を選定して学内企業説明会を主催したり,就職講座を開いたり,あるいは学内で開催される就職むけのイベントを紹介するなどしている。近年,大学は企業とのパートナーシップを深め,就職講座の数を増やす傾向にあり,また企業の側もそうした講座に積極的に協力し,インターンシップをひきうけることで,人材発掘育成,選定につとめているが,そうした両者の媒介役をつとめているのが,学生支援センター,キャリアセンターである。ちなみに,大学は企業との関係を深めるばかりでなく,行政機関との提携もおこなっており,公務員採用にむけた講座やガイダンスなども開いている。

 こうした大学の支援事業に加えて,「学生支援」という言葉で,学生に最もなじみ深いのが日本学生支援機構である。同機構は奨学金貸与を通じて学生の経済生活をサポートすることを一義としているが,そればかりでなく,学生生活の実態調査,就職支援活動,留学生の生活支援,障害者の修学支援などもおこなっている。しかし,同機構もやはり全国の大学の潮流にもれず,就職支援を中心に支援事業をおこなうようになっている。就職のためのガイダンスやワークショップを増やしているということばかりではない。同機構の奨学金事業そのものが,就職支援の一環になりつつあると指摘することができる。たとえば,近年,同機構が最も力をいれているのが,奨学金返済滞納者への借金取立てである。卒業後,経済的困難のために,3ヵ月以上返済が滞っている卒業生の数は,2014年度において30万人を超えているが,これをうけて同機構は財産差押えの裁判訴訟を起こしている。その件数は,2014年度で6193件である。2002年度の訴訟件数は58件であったから,12年間で100倍以上の件数になっている。

 なぜ,このような措置をとっているのだろうか。それは日本学生支援機構の赤字を減らすとか,そういうたぐいのものではない。なぜなら,財産を差し押さえたところで,経済的困難者は返済できるだけの財産をもっていないからだ。結局,裁判費用だけがかかってしまう。では,なぜやるのかというと,それが就職支援になると考えているからだ。奨学金といえども,滞納すれば財産を差し押さえられる。そのプレッシャーがあれば,誰もが必死になって返済しようとするだろう。返済のためには,就職しなければならない。ほんとうのところ,就職できないから返済できないので,話があべこべなのであるが,同機構は借金の取立て強化が就職支援になると考えているのである。

 2009年度,日本学生支援機構は,奨学金の返済が3ヵ月以上滞った者に対して,全国3000の金融機関に個人情報を通知するとの発表をした。いわゆる「ブラックリスト化」である。このとき,それはやりすぎなのではないかとの批判の声もあがっていたが,同機構は「教育的配慮」をもって,こうした措置をとっているのだと反論した。この「教育的配慮」が就職のための配慮であり,就職にむけて学生に精神的プレッシャーをかけることであるというのはあきらかだろう。いったい大学教育とはなんなのか,学生支援とはなんなのか,あるいは学生にとって望ましい就職支援とはなんなのか,いまあらためて問いなおす時期にきているのではないかと考えられる。
著者: 栗原康

参考文献: 「奨学金返還訴訟8年で100倍」産経WEST 2013年11月18日:http://sankei. jp. msn. com/west/west_affairs/news/131118/waf13111812090014-n1. htm

参考文献: 日本学生支援機構ウェブサイト「奨学金制度の変更」:http://www. jasso. go. jp/shogakukin/seido/seidohenko/index. html

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報