大学事典 「学生相談」の解説
学生相談
がくせいそうだん
university(college)counseling
[歴史と変遷]
日本における学生相談は,厚生補導(student personnel services)の概念が第2次世界大戦後アメリカ合衆国から伝えられたことによって始まった。この概念は学生を支え育てていくこと,すなわち学生の学園生活上の諸問題について援助・助言・指導を行うことが教育機関としての使命であり,それはすべての教職員が担うものであると捉えたものである。この概念の導入が進む中,1953年(昭和28)に国立大学初の学生相談所(日本)が東京大学と山口大学に設置され,1955年には日本学生相談学会の前身である学生相談研究会(日本)が発足した。その後,学園紛争の影響から学生に対する対策や管理の視点が強くなり,また国立大学を中心として保健管理センターが学生相談を内包する形で設置されたことなどから,当時定着しつつあった「すべての教職員が担う厚生補導・学生相談」という理念はしばらく停滞することとなった。
大学がユニバーサル化し入学してくる学生の多様化が指摘される中,2000年(平成12)に「大学における学生生活の充実方策について―学生の立場に立った大学づくりを目指して(報告)」,通称「廣中レポート」が文部省から公表されたことを契機に,厚生補導および学生相談の重要性が再認識されることとなった。以降大学を取り巻く環境が大きく変化する中,学生相談・学生支援の取組みは,それぞれの大学の実情に合わせて展開されてきている。現在は「厚生補導」に代わって「学生相談・学生支援」という言葉が一般的となった。
[学生相談の範囲]
多様化する学生また関係者からのニーズに対応するため,「学生相談・学生支援」に求められる範囲は近年拡大しつつある。個別相談のおもな内容は性格,友人・異性・家族等対人関係,メンタルヘルス(睡眠・不安・抑うつなどの精神的健康),修学相談,進路・就職相談,経済問題,留学生の適応,セクシャリティに関する悩みなどが挙げられる。また目的を同一にする学生を募集して実施するグループ・カウンセリングも広く行われている。専門的なカウンセリング以外にも,学生・教職員・家族対象の啓発,療学援助,障がい学生支援,危機管理(自殺対策,薬物対策,カルト対策,ハラスメント対策等)も学生相談の範囲といえ,さらに学生本人を対象とするだけでなく,教職員へのコンサルテーションや,家族からの学生に関する相談に応じることも大きな役割となっている。
学生支援が十分に機能するためには,関係者・関係部署が密に連絡を取り合い,大学コミュニティの持つ学生支援力をフルに発揮できるような連携体制の構築が不可欠である。学生が障がいを抱えていたり,困難が広範囲に及ぶような場合は,学生の身体的・心理的特徴を踏まえた上で学内外のリソースを動員する必要があり,総合的な学生支援の要となる専門的な学生相談が重要な役割を果たすことになる。部署間の連携がスムーズにできることは重要であるが,一方では利用者のプライバシー保護に十分な配慮がなされなければならない。学生相談・学生支援に関わる者は守秘義務を負うことを自覚の上,業務に従事する必要がある。しかし,利用学生およびその他の人の安全が脅かされる危険性があると判断される場合は守秘義務に例外が生じ,利用者に十分な説明がなされた上で来談者の利益に沿った連携と守秘のバランスを模索する必要がある。
[特徴と可能性]
学生相談の特徴としては,在籍中の学生を対象とした大学コミュニティ内での教育的相談活動であることが挙げられる。在籍期間という限られた時間の中で,心理発達的課題に取り組む学生を支援するという点を意識する必要がある。また学生相談機関は大学コミュニティ内の組織であるため,学生の現状やニーズ,大学が取り組むべき改善点を把握しやすい立場にあり,日々の活動から得られる知見を大学行政部や関連部署に提言することができる。調査や研究などを通して知見を蓄積し,より良い大学コミュニティの構築を提案することは,広い意味での学生支援につながることも銘記されるべきであろう。
著者: 寺島吉彦
参考文献: 文部省高等教育局・大学における学生生活の充実に関する調査研究会「大学における学生生活の充実方策について―学生の立場に立った大学づくりを目指して(報告)」,2000.
参考文献: 日本学生支援機構「大学における学生相談体制の充実方策について―総合的な学生支援と専門的な学生相談の連携・恊働」,2007.
参考文献: 日本学生相談学会50周年記念誌編集委員会編『学生相談ハンドブック』学苑社,2010.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報