人工衛星,宇宙船などが宇宙空間を運動するに際してはいくつかの特徴的な速度がある。これを総称して宇宙速度という。第一宇宙速度,第二宇宙速度,第三宇宙速度の3種があるが,これは旧ソ連系の用語でふつうは以下に述べるように円軌道速度,脱出速度と呼ばれる。
(1)円軌道速度circular velocity いわゆる第一宇宙速度。物体にある高度である速度を水平に与えると,地球の重力と遠心力とがつり合って物体は地球のまわりを円を描いて周回する,すなわち人工衛星になる。この速度が円軌道速度で,高度をh,地球の半径をre,地球の質量をM(約6×1027g),万有引力定数をG(6.67×10⁻8cm3/g・s2)とするとVc=\(\sqrt{GM/(re+h)}\)で与えられる。reは厳密には位置によって異なるが,赤道上では6378kmであり,たとえば高度200kmでの円軌道速度は約7.8km/sとなる。この式に見られるように円軌道速度は高度が高くなるとしだいに減少し,ある高度でちょうど地球の自転速度と等しくなる。これが静止高度で,とくに軌道面が赤道面と一致する場合にはこの軌道上の衛星は,実際には地球のまわりを周回しているが,地上からは静止しているように見える。静止高度は約3万5800kmである。なお,ここでは便宜上中心天体を地球としたが,火星,金星などの太陽系の諸惑星あるいは太陽自身をとっても同様の円軌道速度が定義できる。たとえば地球は太陽のまわりの円軌道上にあり,円軌道の半径は約1億4960万km,円軌道速度は約29.78km/sである。
(2)脱出速度escape velocity いわゆる第二宇宙速度。円軌道速度を超えて速度を増していくと軌道は楕円になり,しだいに長軸が長くなってついには地球の重力圏を脱出するようになる。これが脱出速度で,Ve=\(\sqrt{2}\)Vcで与えられる。これ以下の速度であれば衛星は地球のまわりを周回するが,これを超えると再び地球には戻ってこない。円軌道を描くためには速度を水平に与えねばならないが,脱出するには速度の向きは関係なく高度のみでその値が定まる。例えば高度250kmの円軌道上での円軌道速度はVc=7.76km/s,ここから脱出を図るためにはあらためてVe-Vc=(\(\sqrt{2}\)-1)Vc=3.12km/sに相当する加速をしなければならない。脱出速度にまで加速された宇宙船は,地球から無限に離れ,そこでの対地球速度は0になるが,これを太陽系の規模で見れば地球と同一の位置を地球と同一の軌道を描いてとぶにすぎない。脱出速度を超えて加速すればある対地球速度をもって宇宙船は地球を離脱し,この対地球速度と地球の公転速度を加え合わせたものが対太陽速度となって宇宙船は太陽を周回する。地球離脱速度を適当に選べば金星,火星,木星などへの飛行が実現するわけである。先に述べた高度250kmでの脱出速度が10.97km/sであるのに対し,金星,火星,木星へいくにはこの高度でそれぞれ11.25km/s,11.36km/s,14.06km/sにまで加速する必要がある(この値は理想化されたものであり,実際には種々の条件から若干大きな値が用いられる)。さらに加速すると脱出後の対太陽速度が,太陽系を考えたとき地球の位置での太陽からの脱出速度に達するようになる。これが第三宇宙速度で,これも高度によって異なるが,高度250kmでの値は16.51km/sである。
なお,地球に限らず,万有引力の働いている場所で,万有引力に抗して無限に遠くまで到達させるために,物体に与える最小速度を脱出速度という。例えば,月面では2.37km/s,火星面では5.09km/s,太陽面では618km/sとなる。
執筆者:松尾 弘毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
宇宙飛行を特徴づける、ある基準を示した速度で、次の3種類がある。
(1)第一宇宙速度は、飛行体を人工衛星にするための最小速度であって、空気はないものとし、地面すれすれに周回飛行する人工衛星の速さに等しい。秒速7.9キロメートル。
(2)第二宇宙速度は、地球の引力を脱してしまうのに必要な最小の速度であって、地表では秒速11.2キロメートル。高度が増せば当然これより減ってくる。第二宇宙速度で飛び出すと、飛行経路は放物線となるので、これを放物線速度とも、あるいは地球脱出速度ともいう。飛行体を人工惑星とするには、その物体にこれ以上の速さを与えなければならない。太陽系の惑星の表面での脱出速度(秒速)を例示すると、月では2.4キロメートル、火星では5.1キロメートル、金星では10.7キロメートル、木星では61.5キロメートル、太陽では618キロメートルなどである。太陽からの脱出速度は地球の公転軌道上では秒速42.2キロメートルまで落ちる。なお地球から月まで行くには、脱出速度にきわめて近い秒速約11.0キロメートルが必要である。第二宇宙速度より大きな速さで地表を飛び出した物体の地球に対する経路は双曲線になる。
(3)第三宇宙速度は、太陽の引力を振り切って太陽系の外へ脱出するのに必要な最小の速度であって、秒速16.7キロメートル。ただし、この速度の方向には条件があり、地球引力を脱出したときに、その速度の向きがちょうど地球公転の向きと一致するようになっていなければならない。そうすると、地球公転の速さとうまく合成されて、太陽系からの前述の脱出速度になる。
[新羅一郎・久保園晃]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新