太陽系(読み)たいようけい(英語表記)solar system

精選版 日本国語大辞典 「太陽系」の意味・読み・例文・類語

たいよう‐けい タイヤウ‥【太陽系】

〘名〙 銀河系に属し、太陽を中心に運行する天体集団。水・金・地球・火・木・土・天王海王の八惑星冥王星など五つの準惑星、多数の衛星、非常に多数の小惑星ほか彗星流星微粒子などを含み、大部分は太陽を焦点として、ほぼ同一平面上を公転する。太陽界。
※改正増補物理階梯(1876)〈片山淳吉〉下「此星は〈略〉又我大陽系に連合するものなり」

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デジタル大辞泉 「太陽系」の意味・読み・例文・類語

たいよう‐けい〔タイヤウ‐〕【太陽系】

太陽、およびその引力によって太陽を中心に運行している天体の集団。水星金星地球火星木星土星天王星海王星の8個の惑星とその衛星、さらに準惑星太陽系小天体小惑星彗星すいせい流星物質・ガス状の惑星間物質など)からなる。海王星のさらに外側を回る冥王星は、長く惑星とされていたが、2006年に国際天文学連合により新たに準惑星に分類された。
[類語]水星金星明星明けの明星宵の明星地球火星木星土星天王星海王星

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太陽系」の意味・わかりやすい解説

太陽系
たいようけい
solar system

太陽系の構成天体

私たちの太陽系は太陽を中心とし、その重力場内で運動する惑星、衛星、小惑星、彗星(すいせい)、隕石(いんせき)、さらには固体微粒子などの階層の異なる天体(粒子)集団からなっている。太陽系全質量の99.87%は太陽が担い、残りの0.13%のほとんどは惑星が占めている。次に質量の多いのが彗星で、全体の約30万分の1と推定されている。衛星と小惑星の質量はすべてをあわせても全体の300万分の1以下にすぎない。一方、太陽系の角運動量のほとんどは木星や土星など巨大惑星が担い、太陽の自転角運動量は全体の約0.5%にすぎない。

 太陽系の骨格をなすのは、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8個の惑星である。太陽に近い6個の惑星は明るく、古来より知られていたが、1778年にF・W・ハーシェルによって新惑星が発見され、のちに天王星と名づけられた。また、海王星は1846年J・G・ガレによって発見された。なお、1930年C・W・トンボーによって発見された冥王星(めいおうせい)は、発見以来惑星の仲間として認められていたが、2006年8月に開催された国際天文学連合(IAU)総会において、質量がきわめて小さく(地球の約430分の1程度)、また、海王星軌道以遠に多数の小天体が存在することから、冥王星は惑星とせず、惑星より小さな準惑星に分類されることとなった。

 惑星はその組成や内部構造から二つのグループに分けられている。太陽に近い水星、金星、地球、火星の四つはいずれも質量が地球質量以下で、また、平均密度は約4グラム/立方センチメートルより大きく、地球型惑星とよばれている。これらの惑星では、中心に鉄を主成分とする核があり、その周りを石質(マントル)物質が取り巻いた構造となっている。

 他方、木星、土星、天王星、海王星の四つは木星型惑星とよばれ、質量は地球の318倍~15倍と大きいが、平均密度は約2グラム/立方センチメートル以下である。木星型惑星では、金属、石質物質、氷質物質からなる中心核の周りを大量のガス成分(水素、ヘリウム)が取り巻いている。これが木星型惑星の巨大化と小さな平均密度の原因となっている。木星型惑星は太陽からの距離が遠くなるほどガス成分が少なくなっているが、中心核の大きさはいずれも同程度と推定されている。また、木星、土星の内部は超高圧状態にあるため、深部では水素が金属状態にあると考えられている。

 地球以遠の惑星には衛星が付随している。2006年末現在、正式に認知された衛星は太陽系全体で121個に上る。この他、木星、土星、海王星には、惑星探査機、天体観測で発見され、軌道要素の追認をうけていない微小衛星がかなりあり、これらを含めると総数は160個を超える。衛星の多くは母惑星の自転方向と同じ方向に公転している。これを順行衛星とよぶ。一部の衛星は母惑星の自転方向とは逆に公転しており、逆行衛星とよばれている。衛星の大きさはさまざまで、木星のガリレオ衛星(4大衛星)や海王星のトリトン、地球における月などは最大級の衛星であり、水星の大きさに匹敵している。また、火星の二つの衛星や木星、土星にみられるいくつかの衛星はたいへん小さく、直径数キロメートルにすぎない。逆行衛星の多くはこのような小さな衛星である。月や火星の衛星は石質、金属質の物質からつくられているが、木星以遠の衛星の主成分は水やアンモニア、メタンなどの氷と推測されている。

 木星型惑星はいずれも環(わ)をもっている。土星の環は1655年C・ホイヘンスにより発見され、環といえば土星固有のものと考えられていたが、1977年には天王星の環が、また、1979年には惑星探査機ボイジャー1、2号によって木星の環が確認された。さらに、1983年には海王星に環らしきものが地上から観測され、1989年にはボイジャー2号によってその存在が確認された。1998年現在、木星には1環、土星には7環、天王星には11環、海王星には4環が知られている。いずれの環も母惑星の赤道面内にあり、その主要部分はロッシュ限界内にある。環は厚さ2~3キロメートル以下と非常に薄く、構成物質は数センチメートル以下の無数の氷塊と推定されている。

 太陽の周りを公転する直径1000キロメートル以下の小天体群を小惑星という。その多くは火星軌道と木星軌道の間にあり、とくに2.1~3.3天文単位の帯状領域(小惑星帯)に集中している。その数は、軌道要素が確定し、登録番号が与えられているものが約13万個(2006年6月現在)、総数は100万個とも推定されている。大きさは、最大の大きさを誇るケレスでも直径約1000キロメートルにすぎない。小惑星は軌道運動の特徴からいくつかの族に分けられている。最近は、表面反射能の特性によっても4~5のグループに分けられており、反射特性がある種の隕石と類似していることが知られている。小惑星帯から著しく外れたところにも少数ながら小惑星が存在する。これらを特異小惑星とよぶ。隕石の供給源の一つと考えられ、地球にたいへん接近するアポロ群小惑星や、木星と土星の間にある小天体キロンなどはこれに分類されている。

 1992年に冥王星の外を公転する小天体が初めて発見されて以来、2007年4月現在までに約4万1200個の海王星以遠の小天体が知られており、カイパーベルト天体(あるいはエッジワース‐カイパーベルト天体)とよばれている。その多くは、35~60天文単位の軌道長半径をもつが、100天文単位を超える軌道長半径をもつ天体もみつかっている。理論的な解析から、これら小天体の軌道(軌道長半径、離心率、軌道面傾斜角)は海王星の引力に強く影響されていることも知られている。カイパーベルト天体の大きさはさまざまで、半径10キロメートル程度の小天体から、冥王星に匹敵する1000キロメートル規模の天体も知られている。

 華麗な尾を引き、ときおり太陽近辺に現れる彗星の本体は核とよばれ、直径約数キロメートルの、石質や金属質の微粒子の混じった氷塊と考えられている。木星軌道よりも内側に入ると太陽光に熱せられ、核から揮発性成分が蒸発・電離して明るく輝きだすとともに、蒸発物質が太陽風に吹き流されて巨大な尾(「イオンの尾」とよばれる)を形成する。同時に、氷塊に混じっていた微粒子も揮発性成分の蒸発に伴って飛び出し、「微粒子の尾」を形成する。このような彗星の描像は理論的に予測されていたものであったが、1986年ハリー彗星に向けて送られた各国の彗星探査機の詳細な観測によって、この予測が裏づけられた。彗星は一般に大きい離心率と軌道面傾斜角を有し、太陽に対し球状に分布している。このことは、おおむね黄道面に集中した惑星と好対照をなしている。

 隕石は月の石とともにわれわれが手にすることのできる数少ない地球外物質である。隕石はその化学組成や変成の程度によっていくつかのグループに分類されている。そのうち、炭素質コンドライトとよばれる隕石は水などの揮発性成分に富み、水素、ヘリウムや希ガスなど、一部のとくに揮発性の高い元素を除いて、太陽大気の元素組成とよく一致している。それゆえ、太陽大気とともに太陽系内の元素組成推定の基礎にされている。

 黄道面近くにはセンチメートル~マイクロメートルの大きさをもつ小さな粒子が無数に存在している。それらが太陽光を反射し、黄道光として観測される。また、とくに粒子密度の高い領域に地球が入ると、地球大気に飛び込んだ粒子が流星、あるいは流星雨として観測される。そのほか、太陽系空間には、太陽コロナから吹き出した太陽風プラズマおよびそれに引きずられた太陽磁場が存在する。

[中澤 清]

惑星の運動

すべての惑星は太陽の周りを楕円(だえん)軌道に沿って回っている(ケプラーの第一法則)。1公転に要する時間は軌道長半径の二分の三乗に比例するという、いわゆるケプラーの第三法則が成り立つ。水星は88日で太陽の周りを1公転するが、地球は1年、木星は約12年、海王星は実に165年で太陽の周りを一周する。軌道の離心率と軌道面傾斜角は水星を除いていずれも小さい。すなわち、どの惑星も太陽の周りを円に近い軌道に沿ってほぼ同一平面上を太陽の自転と同じ方向に公転している。惑星が太陽引力によってのみ運動しているものならば、軌道要素は一定不変に保たれる。しかし、惑星は微弱ながら互いに引力を及ぼし合っており、そのため、離心率や軌道面傾斜角は変動する。ただ、変動幅は小さく、このことが「惑星どうしの衝突や大規模散乱(惑星が他の惑星によって跳ね飛ばされること)はない」という、いわゆる太陽系の安定性を保証している(アーノルドの定理)。天王星より内側の惑星では、太陽からの軌道平均距離がティティウス‐ボーデの法則によって近似され、惑星はほぼ等比級数的に並んでいることになる。

 惑星の多くは公転方向と同じ方向に自転しており、自転軸は公転面に対しほぼ垂直である。ただ、金星では自転周期が長く、回転方向は反対(逆行)である。また、天王星では自転軸が約90度傾いており、横倒しの形で自転している。

 なお、惑星運動においてケプラーの法則が成立するのは、太陽引力が太陽からの距離の二乗に反比例するというニュートンの万有引力の法則のためである。歴史的にいえば、ケプラーの法則から万有引力の法則が導かれ、近代科学の基礎が築かれた。また、天王星の観測位置とニュートン力学から計算された位置の差から海王星の存在が予言され、ほぼ予言どおりに発見された。このことによりニュートン力学は揺るぎないものとなったわけで、惑星の運動こそが近代科学をつくりだしたといえる。

[中澤 清]

惑星の科学探査

太陽系内の諸天体の観測は、1960年代までは望遠鏡観測など、もっぱら天文学的な手法で行われていた。1970年代以降は、探査機による「その場観測」が行われるようになり、惑星や衛星に関する知見は飛躍的に増大、精密化した。

 木星型惑星は大量のガス成分をもっているが、その主要な成分は水素とヘリウムである。ヘリウムの質量比(大気1グラム中に含まれるヘリウムの質量)は木星、天王星、海王星ではおおむね0.27で、太陽大気の値とほぼ等しい。ただ、土星ではこの比が0.06と小さい。これは、土星内部の物理環境下では水素とヘリウムの不混和がおこり、原子量の大きなヘリウムが深部に沈殿してしまった結果と考えられている。

 金星と火星の大気主成分は炭酸ガスである。原始地球の大気主成分も炭酸ガスであったと推定されており、地球型惑星の初期大気はいずれも炭酸ガスであったと考えられている。しかし、各惑星の質量や太陽からの距離が違うため、惑星それぞれに独自の大気進化がおこり、現在の大気量およびその主成分は惑星ごとに異なるものとなった、と理解されている。

 木星に強い磁場があることは、1950年代に発見された木星電波の研究からわかっていたが、地球、木星以外の惑星磁場は惑星探査によってはじめて明らかにされた。自転速度がきわめて遅い水星や金星にも微弱ながら磁場がある。また、土星の磁場は木星に次いで強く、天王星、海王星にも地球程度の強さをもつ磁場の存在が確認されている。火星では局所的な磁場はあるものの、大域的な磁場は観測されていない。多くの惑星では、自転軸と磁極軸がおおむね一致しているが、天王星では55度もずれている。惑星磁場の原因は良電導性流体のダイナモ作用と考えられているが、地球型惑星では鉄を主成分とする金属流体核、木星や土星では高圧下の金属水素がダイナモ作用を担っていると推測されている。

 惑星探査によって地球型惑星の表面地形も詳細にわかってきた。大気をもたない水星は、月と同じような大小さまざまなクレーターで覆われており、また、月と同じく表地形と裏地形が大きく異なる「地形の2極性」を示す。金星には火山状の高地や溶岩流を思わせる細い縞(しま)状地形など、火山性の多様な地形がみられるものの、地球のようなプレート境界(表層の大規模な割れ目)は存在しない。火星には火山性の地形のほかに、河川や大洪水の跡など、かつて水が存在したことを示す種々の地形がみつかっている。

[中澤 清]

太陽系の年齢

もっとも確からしい太陽系の年齢は隕石の同位体比分析から得られる。ウランやカリウム、ルビジウムなど放射壊変する同位元素は、それらが置かれている物理・化学的環境とは無関係に一定の割合で壊変する。このことを利用して放射性同位元素やその生成同位元素の分析によって、隕石がつくられた時期を割り出すことができる。少数の隕石に若い年齢のものもあるが、多くは約45億6000万年という年齢を示す。これよりも古いものがみつからないことから、隕石はこの時期に形成されたと考えられている。他方、地球や月の岩石の多くはかなり若く、もっとも古いものでも38~40億年である。しかし、月の「土」は隕石と同じ45億6000万年前後の年齢を示す。月や地球の岩石が若い年齢を示すのは火成活動のためであり、太陽系の年齢としては45億6000万年と考えるのが妥当であろう。

 他方、恒星進化の理論的研究から、太陽自身の年齢を45億6000万年とすれば、現在の太陽半径、太陽光度と矛盾しないことが知られており、太陽を含め太陽系のすべての諸天体が45億6000万年前につくられたことになる。

[中澤 清]

太陽系外太陽系

バーナード星に惑星が付随していることは1950年代から知られていたが、近年の天文観測技術の格段の進歩により、1990年代なかばから恒星の周りの高精度の惑星系探査が盛んに行われるようになった。その結果、2006年末までに、約200個の系外惑星が発見されている。これら系外惑星の多くは木星級の大きさ(木星質量の10~1倍)であり、軌道長半径も小さい(0.05~1天文単位)。これは、質量が大きく、公転周期の短い惑星が発見されやすいという観測上の選択効果の反映にほかならない。最近では、少数ながら、地球質量の数倍程度の惑星も発見されている。

 系外惑星の軌道運動はさまざまで、惑星軌道半径が異常に小さな(0.05天文単位)もの、軌道離心率が異常に大きいもの(0.4~0.6)など、われわれの太陽系とはかなり異なった系外太陽系もみつかっている。また、二重星の一方の恒星周りを回る惑星もみつかっており、太陽系の多様な姿が明らかになりつつある。

[中澤 清]

太陽系起源論の歴史

太陽系の起源に関してこれまでに多くの説が唱えられてきた。それらは二つの考え方に大別される。第一は、太陽と他の天体との遭遇あるいは衝突といった偶然的なできごとに成因を求めるもので、微惑星説、潮汐(ちょうせき)説、連星説などがこれに属する。第二は、太陽の誕生と進化の過程において形成されたとするもので、カント‐ラプラスの星雲説や電磁説、乱流説などがある。また、後述する現代的な形成論もこれに属する。

 惑星の形成が初めて書物で取り上げられたのは1745年ビュフォンによる『惑星の起源』であった。その10年後にはI・カントによって星雲説が発表される。カントの星雲説はのちにラプラスにより修正、補強され、今日、カント‐ラプラスの星雲説として有名である。1844年にはフーシェにより「角運動量の困難」が提示された。「太陽系のもつ角運動量の98%は質量がわずか0.13%に満たない惑星によって担われている。この事実を説明することがすなわち惑星形成を説明することである」という議論である。星雲説ではこの問題に明解な解答を与えることができず、1900年ごろより、遭遇説にとってかわられた。

 遭遇説にはいくつかの変形がある。T・C・チェンバリンやF・モールトンの微惑星説では、たまたま太陽の近くを他の恒星がよぎり、その潮汐力によって太陽表面から飛び出した物質が微粒子として固化し集積したものが惑星となったと考える。また、J・ジーンズやH・ジェフェリーズが展開した潮汐説は、同様にして飛び出した物質が紐(ひも)状となりそこから惑星が生まれた、とする考えである。H・N・ラッセルやR・A・リットルトンの連星説では、太陽はもともと連星であったが、他の恒星の通過によって伴星が飛び去り、その際、潮汐説と同じような現象がおこったとする。これらの説は一時有力視されたが、1939年L・スピッツァーにより「高温の太陽表面から引き出された物質は固まることはできず雲散霧消する」との決定的な反論が出され、その後、あまり顧みられなくなった。

 こののち、C・ワイゼッカーによる乱流説や、H・アルベーンの電磁説が提唱される。乱流説では、原始太陽の周りを回る気体の中に乱流渦が生じ、渦と渦の間に固体微粒子が集められ惑星に成長すると考える。また、電磁説では、原始太陽の周りのプラズマと太陽磁場の相互作用が惑星形成に重要な役割を果たしたとする考えである。しかし今日では、これらの説はいずれも歴史的意味しかもっていない。

 現代的な太陽系起源の研究は、原始星の観測や恒星の形成の理論、隕石、月、惑星などの観測を基礎にして、より厳密に物理法則を適用しながら、太陽系のもつ特徴を統一的に説明すべく、1970年代からV・S・サフロノフや林忠四郎らによって始められた。いくつかの問題点を残しているものの、太陽系起源の大筋はしだいにはっきりしてきた。

[中澤 清]

惑星系の形成

太陽および太陽系内天体のもととなるのは、銀河系に漂っていた星間雲である。「雲」とはいってもたいへん希薄低温で、典型的な温度は20K、密度は1立方センチメートルについて10-19グラム程度である。その主成分は水素とヘリウムガスで、のちに惑星や衛星となる固体成分は固体微粒子(星間塵(じん))として星間雲内に浮かんでいる。

 この星間雲が自らの引力によって収縮を開始する。収縮を始めてから約100万年たったころ、中心には原始太陽がつくられ、その周りには希薄な円盤状の太陽系星雲が形成される。安定な状態に落ち着いたときの太陽系星雲の温度、密度は300~100K、10-9~10-11グラム/立方センチメートル程度であり、温度、密度ともに太陽から離れるほど低くなっている。また、太陽系星雲の質量は太陽質量の数%程度と考えられている。固体成分は太陽系星雲内に固体微粒子として含まれているが、重要なことは太陽系星雲の温度と微粒子の組成との関係である。小惑星領域より内側では星雲の温度が150Kよりも高く、外側では低い。太陽系星雲程度の圧力の下では、150Kよりも低温では水やアンモニアは固体の状態であり、それより高温ではガスの状態である。すなわち、木星領域以遠では惑星材料物質が金属、石質物質および氷質物質からなり、星雲ガスのうち約1.7%(重量比)が固体微粒子の形で存在している。他方、地球など太陽に近い領域では金属、石質物質のみが惑星材料物質であり、星雲ガスのうち、わずか0.34%(重量比)にすぎない。のちに知るように、このことが木星型惑星と地球型惑星の差を生み出し、また、小惑星形成とも深く関係しているのである。

 太陽系星雲内に浮かんだ固体微粒子は星雲ガスとともに太陽の周りを回っているが、しだいに星雲赤道面に沈降し始める。そして、1000~1万年でほとんどの固体微粒子は星雲赤道面近くのきわめて薄い層に集中してしまう。この層のことを固体層とよんでいる。固体層は比重の大きい微粒子が集まっており、それだけ密度も高い。そして、固体粒子群のつくりだす引力が太陽の引力を上回るようになり、重力的に不安定となる。その結果、1枚の薄い円盤であった固体層がばらばらに分裂してしまうのである。分裂破片の大きさは直径約10キロメートルで、火星の衛星や彗星の大きさに匹敵している。この分裂破片はもはやれっきとした天体であり、微惑星とよんでいる。組成は、固体微粒子の組成を反映し、小惑星軌道以内ではミリメートル~センチメートルサイズの岩石質、金属質の固体粒子からなり、また、低温の遠方領域では、氷質の粒子が大部分を占める。

 太陽系全体でつくられる微惑星は10兆個にも及ぶ。これらは太陽系星雲ガス中にあって、太陽の周りを回りながら互いに衝突を繰り返す。微惑星は星雲ガスからつねにガス抵抗力を受け、そのため、衝突速度は小さく抑えられている。微惑星どうしの衝突がおこったとき、高速度であれば微惑星は破砕されてしまうだろう。しかし、低速度衝突の場合、衝突すれば互いに合体し、大きな微惑星へと成長していく。月程度の大きさにまで成長した天体を原始惑星とよんでいる。原始惑星はさらに微惑星を集積して成長を続ける。地球の場合、現在の大きさにまでなるのに数百万年から1000万年かかると推定されている。また、木星領域では、木星の中心核(地球質量の10~15倍)にまで成長するのに1000万~2000万年とされている。惑星の成長時間は一般に太陽からの距離が遠いほど長い時間を要することが知られている。おおむね太陽に近い惑星から成長が完了していったのである。

 原始太陽は形成されてから約2000万年までTタウリ段階とよばれる進化段階にある。このころの太陽は表面活動がたいへん激しく、強い紫外線や太陽風を吹き出している。Tタウリ型星の観測によれば、紫外線の強度は現在の太陽の1万~10万倍も強いことが知られている。この強い紫外線や太陽風によって太陽系星雲はしだいに散逸し、惑星間空間は今日みられるような希薄な状態となったと考えられている。

 微惑星から原始惑星への成長は太陽系星雲のガスの中で進行する。それゆえ、原始惑星は円運動している星雲ガスからつねに抵抗を受け、太陽赤道面内の円軌道からあまりずれることはできなかった。惑星がほぼ同一面内を円に近い軌道に沿って運動しているのはこのようなガス抵抗作用の結果と理解される。太陽系星雲ガスの影響はこれにとどまらない。月のサイズよりも大きく成長した原始惑星では自らの引力も強くなる。この引力によって周りの星雲ガスを原始惑星重力圏内に引き付け、濃い大気を形成する。この大気は水素とヘリウムが主成分であり、現在の大気と区別して原始大気とよんでいる。原始惑星の質量が大きくなればなるほど引き付けられる大気量は増える。地球サイズにまで成長した原始惑星では、大気総質量が1026グラムにもなる。原始大気は地球型惑星の形成にも、また木星型惑星の形成にもたいへん重要な役割を果たすことになる。

 木星領域では星雲ガスが散逸する前にすでに木星の中心核は地球質量の5~10倍に成長している。その周りには膨大な量の原始大気が引き付けられ、大気質量は原始惑星の質量に匹敵するほどである。このような状況になると大気は力学的安定さを失ってしまう。それまで原始惑星の重力圏に広がっていた原始大気は原始惑星表面に集中し、大気の主成分である水素やヘリウムが惑星に取り込まれてしまうのである。希薄になった惑星重力圏にはさらに星雲ガスが流れ込み、このガスもまた惑星に取り込まれてしまう。このようにして、木星は大量のガスを取り込んだ結果、巨大な、しかし平均密度の小さな惑星になったのである。

 土星以遠の惑星でも同じ過程が介在したはずである。しかし、太陽から離れるほど原始惑星の成長に長時間を要し、十分成長する前に星雲ガスが散逸してしまう。そのため、取り込める星雲ガスの量は少なかったのである。これが遠方の木星型惑星ほどガス成分の量が少ない理由である。

 原始大気の存在は地球型惑星の形成、進化にも重大な影響をもつ。地球型惑星の場合、成長が完了するまで星雲ガスは存在している。すなわち、原始惑星はつねに原始大気をまとって成長してきたのである。現在の地球大気と同様に原始大気も保温効果をもつ。原始大気では大気量が多いためその効果はたいへん強い。原始惑星が現地球質量の6分の1以上の大きさになると、保温効果のため原始惑星の表面温度は融点を超える。地球の大きさにまでなったときには、実に1800Kを超える高温となる。このように、地球型惑星は灼熱(しゃくねつ)の状態で成長したのである。

 原始地球表面の温度が惑星物質の融点を超えると、集積してきた微惑星は短時間のうちに溶け、金属と岩石物質が分離する。そして重い金属は沈殿し、原始地球は三重構造になる。すなわち、中心に低温で金属、石質物質の混じった原始中心核があり、その周りに金属層、最上部に溶融した石質層が取り巻いている。比重の大きい金属層が中間に挟まった構造は不安定で、そのうち原始中心核と中間金属層が逆転し、今日みる金属中心核・マントル構造に至ったと考えられている。

[中澤 清]

太陽系内小天体の起源

小惑星、衛星、彗星、隕石など太陽系内小天体の起源については多くの説が提唱されているが、いまだ確定的なものはない。しかしこれら小天体の起源も以下のように惑星形成過程の自然な延長として理解できる。

 太陽系の形成が始まって約1000万年のころ、小惑星領域では惑星成長がまだ十分進んでおらず、月サイズ以下の原始惑星、微惑星が多数存在していた。同じころ、地球や火星はほぼ現在の大きさにまで成長している。太陽に近いほど成長が速いからである。他方、木星領域でも原始木星はほぼ成長を完了している。この領域では氷成分が惑星材料物質に加わっており、小惑星領域より遠方にあるにもかかわらず材料物質が多いため惑星成長が速いのである。形成開始後1000万~2000万年のころ、太陽系星雲ガスはしだいに散逸し、惑星間空間は希薄になる。ちょうどこのころ成長を終え巨大な惑星となった木星は小惑星領域まで摂動(せつどう)を及ぼす。木星に振り回されたうえに、衝突速度を抑制していた星雲ガスがなくなったわけで、小惑星領域の原始惑星や微惑星の速度はしだいに増大する。そして相互の衝突は激しいものとなって、成長とは逆に小砕片に砕かれてしまう。これが火星と木星の間に多数の小天体が存在する結果を招いたのである。

 当初、小惑星帯には、現在知られている小惑星の数の約1000倍ほどの天体が存在したと推測されている。それらは木星から長年月にわたる摂動を受け、軌道がしだいにずれ、大部分は木星に、一部は火星や地球に衝突して、今日ではそのほとんどが失われてしまった、と考えられている。現在でも、小惑星帯やアポロ・アモール型小惑星群から小さな破片が飛来し、地球表面に落下する。これが隕石である。隕石には高速衝突の痕跡(こんせき)が残っており、他方、小惑星の反射特性と隕石の反射特性の類似性も知られている。小惑星が隕石の母天体であったとするのは自然な考え方であろう。

 惑星の成長がほぼ完了し太陽系星雲が散逸したあとも、惑星に取り込まれなかった微惑星や原始惑星などの小天体が残っている。とくに惑星成長の遅い木星型惑星の領域ではかなりの数の小天体が存在したはずである。取り残された小天体が星雲散逸時あるいはその後惑星に遭遇し、ときおり惑星重力圏に入ることもおこっただろう。このような小天体に待ち受けている運命は次の三つのうちのいずれかである。一つは惑星と衝突することである。この場合、惑星の成長に寄与するだけで特別なことはおこらない。第二の可能性は、惑星から大きな摂動を受け、跳ね飛ばされてしまうことである。惑星重力圏からふたたび脱出し、これまでとはまったく違った離心率や軌道面傾斜角の大きい軌道に入る。何度も惑星と接近するうちに、太陽赤道面内に集中していた微惑星もしだいにいろいろな軌道面傾斜角をもち、太陽の周りに球状に分布するようになる。また、離心率も極端に大きくなり、長楕円(ちょうだえん)軌道を描くようになる。これらが彗星にほかならない。上述のような軌道運動の特性に加えて、木星型惑星領域の微惑星が直径10キロメートルほどの、砂や金属粒子を含んだ氷塊であることも彗星の特徴に符合している。

 第三の可能性は、惑星重力圏に入った小天体が潮汐力の作用などで、重力圏内に捕獲され、惑星の周りを回り続けることである。これが衛星である。木星型惑星の領域では多くの小天体が惑星に取り込まれず残っていた。そのためそれらが惑星重力圏に突入する確率も増える。こんなわけで木星型惑星には多くの衛星が付随しているのだろう。重力圏に多くの小天体が入ると、小天体どうしが衝突することもおこる。そして多数の小さな破片に砕かれ、そのうちの一部分は衛星としてとどまる。たいへん小さな衛星はこのようにしてつくられたと推測されている。

 衛星には惑星から潮汐力が働いている。この力のために、たとえば、月はしだいに地球から遠ざかっている。順行衛星の場合、潮汐力は衛星の軌道半径を大きくする方向に働くが、逆行衛星の場合には逆に軌道半径を小さくするよう作用する。その結果、逆行衛星はしだいに軌道半径が小さくなり、ついには母惑星のロッシュ限界内まで突入する。ロッシュ限界内では衛星が安定には存在できず、粉々に砕かれてしまう。このような砕片が惑星の周りに同心円状に広がり、惑星の環を形成したと考えられている。

 海王星以遠では、惑星の成長はきわめて遅く、いまだに惑星の成長が続いている、ともいえる。理論的な見積りによると、この領域では、太陽系の年齢(45億6000万年)をかけてやっと50~100キロメートルサイズの天体になる。この領域に100キロメートルサイズの多くの小天体(カイパーベルト天体)が観測されているが、これらは成長途上の原始惑星とも考えられる。

[中澤 清]

『中澤清編『太陽系の構造と起源』(1979・恒星社厚生閣)』『松井孝典他著『岩波講座 地球惑星科学1 地球惑星科学入門』(1996・岩波書店)』『松井孝典他著『岩波講座 地球惑星科学12 比較惑星学』(1997・岩波書店)』


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知恵蔵 「太陽系」の解説

太陽系

太陽とその重力の支配下にある惑星や小天体などが作る系。約100億kmの範囲に惑星が分布し、その外側にはエッジワース=カイパーベルト天体(EKBO:Edgeworth‐Kuiper belt object)と呼ばれる小天体が多数存在する。さらにオールトの雲(Oort Cloud)と呼ばれる彗星の巣が広がり、その端は20万天文単位(約3光年)に及ぶ。太陽系の質量の大部分(99.9%)を太陽が占め、これが系全体に安定性をもたらす。惑星などの主な天体は、地球軌道面(黄道面)近くに分布し、ケプラーの法則に従い楕円軌道に沿って運動する。約50億年前、ガス雲が重力で収縮して太陽系の形成が始まった。中心部に集まったガスから太陽が形成され、その周囲に回転するガスと塵(ちり)の円盤(原始太陽系円盤)が形成された。その中で塵が衝突・合体を繰り返して成長し、直径10km程の微惑星が無数に作られた。微惑星はさらに衝突・合体を繰り返し、その中の大きな物が軌道付近の微惑星や物質を独占的に捕獲して惑星となった。この間、太陽が核融合反応で輝き始め、強い太陽風が吹き始めると、太陽近くではガスが吹き払われ岩石を主体とする地球型惑星となった。太陽から離れた所では周囲のガスを集めてガス主体の大きな木星型惑星ができた。その外側では、惑星にならずに取り残された物質がエッジワース=カイパーベルト天体(EKBO)や彗星などの小天体(太陽系外縁天体)となって残り、近年多数発見されている。2002年に発見されたクワーオワー(Quaoar)は直径約1300kmで冥王星の約半分の大きさ。03年には、さらに遠方(太陽からの距離約90天文単位)に直径約1700km(冥王星の約4分の3)の天体が発見され、セドナ(Sedna)と名付けられた。また、同年に米国で撮影され、05年に確認された天体エリス(2003UB313)は、冥王星より大きく、第10惑星とするか議論になっていたが、06年の国際天文学連合(IAU)総会で採択された惑星・準惑星の定義により、冥王星と共に惑星ではなく、準惑星に分類された。

(土佐誠 東北大学教授 / 2008年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太陽系」の意味・わかりやすい解説

太陽系
たいようけい
solar system

恒星である太陽と,その太陽のまわりを楕円軌道を描いて運動している多数の小天体を合わせたもの。中心に太陽,まわりに小天体という構造は,太陽系の形成過程に強く関連している。約 46億年前にガスとちりの塊が収縮を始め,原始太陽が中心部に誕生し,そのまわりにガスとちりからなる円盤が形成された。円盤は 10km程度の大きさの破片(微惑星)に分裂し,それらの微惑星が衝突合体することで,惑星準惑星が生まれ,小惑星彗星などの小天体を含めた今日の太陽系となった。太陽系に属する天体のうち,太陽と衛星を除いた天体を惑星,準惑星,太陽系小天体の 3種類に分類する。太陽系の場合,惑星は 8個,準惑星は数個,惑星のまわりの衛星は 150個以上,主として火星木星の間にある小惑星は数十万個ある。太陽から最も遠い惑星である海王星までの距離は約 30天文単位で,その外側にも 1000個以上の小天体があり,太陽系外縁天体(エッジワース・カイパーベルト天体)と呼ばれているが,これも太陽系を構成する天体である。なお,太陽系の質量の約 99.9%は太陽の質量である。

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百科事典マイペディア 「太陽系」の意味・わかりやすい解説

太陽系【たいようけい】

太陽およびその引力に支配される天体の集団。8個の惑星,準惑星,多くの衛星,無数の小惑星,すい星,流星物質等を含み,最外惑星の海王星までの距離は,最大45億4490万kmであるが,すい星の遠日点からみると範囲は10万天文単位(約2光年)に及ぶと考えられる。その特徴は,1.惑星の公転方向はすべて同じ,2.軌道面はほぼ同一平面上にある,3.軌道は円に近い楕円,4.軌道半長径に関しボーデの法則が成り立つ,5.太陽自転方向は惑星公転方向と一致,6.惑星の総質量は全太陽系の746分の1にすぎないが,角運動量は全太陽系の角運動量の98%を占める,7.惑星の内側の地球型惑星と外側の木星型惑星の2群に分かれる,など。 太陽を中心とする多数の小天体の集団という太陽系の概念が芽生えるのは17世紀以降のことで,太陽系を意味する英語のsolar systemが文献に登場するのは18世紀初頭である。成因についても早くも18世紀半ばにカントやラプラスが提唱しており,以降もさまざまな説が出されたが,原始太陽と恒星との遭遇から生じたとする遭遇説(微惑星説,潮汐(ちょうせき)説,連星説など)は捨てられ,外的原因なしに自ら発展・生成したとする考え方(星雲説が先駆)が大勢を占める。
→関連項目地球

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世界大百科事典 第2版 「太陽系」の意味・わかりやすい解説

たいようけい【太陽系 solar system】

一つの恒星,太陽を中心とする多数の小天体の集団を太陽系という。太陽系を構成する小天体は,大きさと運動の違いによって惑星,衛星,小惑星,すい星などの種類に分けられる。太陽系の諸天体は万有引力によって相互に結びつき,整然とした力学系を構成している。 太陽系の主要な構成員は(太陽以外では)惑星と呼ばれる天体で,太陽に近いほうから水星,金星,地球,火星,木星,土星,天王星,海王星,冥王星の9個があって太陽を公転している(図1)。

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