月のうち特定の日に開かれた日切り市。11世紀の半ば,石清水八幡宮の宿院河原(現,京都府八幡市)には午の日,のち子の日に市が開かれたが,これは干支にちなんだ日に開かれた市で,定期市のもっとも早い事例である。鎌倉時代には月3回,特定の日に開かれる定期市が全国的に普及していった。今日地名化した二日市,四日市,八日市などは,市開催日が地名として残った例である。これら定期市は港津・河川の合流点,荘園内の空地,街道の宿場,社寺門前,地頭の館や荘官の政所の前などに開かれた。中世の後期,市の数がふえてくると,各地域では中心的な市である親市の開催日を基準にして,他の市の開催日が決定されるようになった。また地方の中心的な市のなかには2・4・12・14・22・24といった月に6日も開かれるいわゆる六斎市(ろくさいいち)も出現した。奈良や山口のような都市でも,市は特定の日に開かれていた。中世末期以降,都市・店舗商業の発達がいちじるしい畿内では定期市はすたれていったが,地方では近世に入っても存続したものや新たに開かれたものも多い。
執筆者:佐々木 銀弥
中近世においては,原則として週1回開かれる週市と年1~2回開かれる年市があった。週市は日曜日のミサのあとや祭日に開かれることが多かった。市を意味するメッセMesse(ドイツ語),フェリアferia(英語,スペイン語),フォアールfoire(フランス語)はみな礼拝の意味であり,礼拝に集まってくる人々を対象として開かれたために市も同じ名で呼ばれたのである。市場設立の特許状がまず教会と修道院に与えられたのも,巡礼地の教会の前庭がしばしば市場となっていたことと関連がある。12世紀末まで,ドイツで市場設立のために交付された特許状の9割は聖職者に与えられたものであった。市の開催と同時に市場十字架Marktkreuzあるいは市場旗Marktfahneが立てられ,市の平和を保障していた。これは国王が市と教会に与えた保護のシンボルであった。市の開催期間中だけでなく,市への往復の間も訪問者は市場の平和を享受することができた。所によっては開市と閉市の際に鐘が鳴らされ,市が閉ざされたのちもその鐘が鳴っている間は平和が保障されていたといわれる。週市では生活必需品とくに食料品が扱われ,地方的な市場であり,訪問者は都市と近郊農村の住人であった。中世中期に都市が成立すると,そこでは週市は毎日開かれる形態をとることになった。マーケットmarketやマルクトMarktは週市に由来する名であった。
年市は年に1~2回開かれ,本来遠隔地商人たちのための,週市より大規模な市をいう。開催期間も週市より長く,フランス北東部シャンパーニュ地方の大市の場合は,1月のラニー・シュル・マルヌ,四旬節中日の前の火曜日にバールの大市,5月にはサン・キリアスの大市(プロバン),6月にはトロアの夏市,9月にはサン・タユールの大市が開かれ,ほとんど一年中相次いで開かれていた。これらの大市はそれぞれが6週間つづいた。年市には一般の完成品を扱うものと指定商品に限定されたものとがあり,のちに見本市や博覧会などに変わってゆき,現在ではメッセというともっぱら見本市を指すようになっている。
→市
執筆者:阿部 謹也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一定の日に売り手と買い手が一定の場所に集まって売買取引を行う市場。日切り市、日市(ひいち)ともいう。市場商業の一形態である。一定の場所としては、交通の便のよい消費者の多数存在する所が多く、一定の日としては、週、月、年などを周期とするのが普通である。周期の短いものは、生活必需品とくに食料品を中心とし、周期の長いものは、開催期間も数日に及ぶなど長く、売買される商品も広範多岐にわたるのが普通である。
西洋の場合、定期市は古代からあったが、本格的に普及したのは中世であった。それはキリスト教の祭日に開かれるもので、祭市(さいいち)fair、大市(おおいち)などと訳されるものである。これらは、年を周期とする年市(ねんいち)である。シャンパーニュの大市、ジュネーブの大市、リヨンの大市、フランクフルト・アム・マインの大市などはよく知られる。日本では5~6世紀に始まり、戦国時代に各地に大いに普及した。五日市、十日市などの地名は、その名残(なごり)である。西洋・日本とも、近世になって都市化とともに定住店舗商業が発達し、定期市は衰退した。性格はかなり異なるが、一部の見本市は形を変えた定期市といえる。
[森本三男]
日市・日切市とも。毎月決められた日に定期的に開かれる市。虹のでた場所にたてられる虹市のような不定期的なものや,年に1~2度しか開かれない大市(年市)や祭礼市などは,ふつう含まない。古代には辰の日や酉の日などに開かれる干支市があったが,中世初頭には毎月3度開かれる三斎市が成立し,中世後期になると毎月6度開かれる六斎市が一般化した。定期市は市日にのみ商人が来集して商売を行うもので,中世には取引や価格形成の場として流通経済に大きな役割をはたした。近世中期以降は常設店舗の発達におされて衰退し,一部が大市や祭礼市として残った。
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…この語はペルシア語で,日本では慣用でバザールといい,アラビア語のスークsūqに相当する。 バーザールやスークは,定期市,常設店舗の連なる市場の双方を指すが,歴史的には定期市のほうが早く知られている。イスラム勃興以前のアラビア半島では,多神教崇拝の偶像が祀られている聖域の近くで定期市が開催された。…
※「定期市」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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