推理作家。東京都生まれ。本名矢部みゆき。墨田川高校卒業後、速記者となる。1987年(昭和62)『我らが隣人の犯罪』でオール読物推理小説新人賞を受賞してデビュー。89年(平成1)『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞して作家としての地位を確立した。超常能力をもつ青年2人が登場するSF風を加味した『龍は眠る』(1991)は日本推理作家協会賞に輝いた。また『火車(かしゃ)』(1992)は山本周五郎賞の受賞作で、カード・ローンによる自己破産という、いかにも現代的な状況のなかであがく犯人像を凄惨(せいさん)なまでに描いた力作。『蒲生邸(がもうてい)事件』(1996)で日本SF大賞を受賞。マンションで起きた一家4人惨殺事件をテーマにした『理由』(1998)で直木賞を受賞。日常的な、きわめてありふれた状況のなかに不可解な謎(なぞ)を設定するのはこの作家の得意とするところで、語り口のうまさには定評がある。吉川英治文学新人賞の受賞作『本所深川(ほんじょふかがわ)ふしぎ草紙』(1991)などの時代小説もある。実力もさることながら、めぼしい文学賞をのきなみ受賞するという、その意味ではユニークな作家。
[厚木 淳]
『『火車』(新潮文庫)』▽『『理由』(1998・朝日新聞社)』
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報