一家を守護すると信じられてきた神。主として竈神(かまどがみ)、屋敷神、厠(かわや)の神や納戸(なんど)神など。一般的に多いのが竈神で、西日本では荒神(こうじん)ともよぶ。土間の竈には火に対する畏怖(いふ)と慎みから、これを家の神とする観念が発達した。イエ(ヘ)の「ヘ」は、ヘッツイ、ヘヤの「ヘ」と同義とする説もある。竈の上や柱にカマヲトコ(面)や、神符、幣束(へいそく)を置く地方もあるし、嫁入りのとき最初に竈に拝礼する地方(沖縄)、祖霊神として死者が出ると灰を全部取り替える地方などもある。東北地方では「竈をおこす」とは一家をたてるの意で、分家に火と灰を分ける。陰陽師(おんみょうじ)によって土公神(どくじん)ともよばれる。水田耕作の田の神(春秋に山の神と交替)・水の神や歳神(としがみ)も家の神としての荒神に結び付いているし、氏神、産土(うぶすな)神、地神、作神、ミサキなども習合している。火の所在場所としてのいろりも同じで、煙の天窓を通して大歳(おおとし)の神が訪れる考え方があり、自在鉤(じざいかぎ)のことをカギツケサマ、オカンサマといい、家の神がこもるところとする信仰もある。
庭の隅の石祠(いしほこら)や洞穴に置かれた屋敷神も同族や屋敷を守護する神で、春秋の山の神と田の神の交替期に呼応して祀(まつ)る。これが発展して氏神、産土神になる例もある。納戸も、西日本では家の歳神、田の神、作神を祀る。厠の隅に男女一対の土人形を飾ったり(仙台)、オヘヤ神(栃木)としている地方もある。東北地方では接客の出居(でい)を、家の神の間として神棚を祀る。また、屋内にいる妖怪(ようかい)の一種と信じられてきた座敷童子(ざしきわらし)も、家を繁栄させる守護霊として、岩手、秋田地方では河童(かっぱ)と混同されたりしている。春秋交替の山の神が、田に出て水の神となる姿と混同したものと考えられる。いずれにしても、家の神の形態は、種々の伝承が複雑多岐に絡み合いながら変遷してきて、一つの概念には定められない。
[渡邊昭五]
…神無月(かんなづき)(旧暦10月)には,日本中の神々が出雲の出雲大社に集まるという伝えが平安時代からあるが,そのとき留守居をするという神がある。一般には,オカマサマあるいは荒神(こうじん),恵比須,大黒,亥子(いのこ)の神を留守神としているところが多く,これらの神は,家屋に定着した家の神である点で共通する。武蔵の総社である六所明神(大国魂神社)や信濃の諏訪明神(諏訪大社)など,各地の大社には,神の本体が蛇なので出雲に行かないという伝えがある。…
※「家の神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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