屋敷神(読み)ヤシキガミ

デジタル大辞泉 「屋敷神」の意味・読み・例文・類語

やしき‐がみ【屋敷神】

屋敷内の一隅に祭る神。稲荷・熊野明神などが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「屋敷神」の意味・読み・例文・類語

やしき‐がみ【屋敷神】

  1. 〘 名詞 〙 屋敷内の一隅にまつった神。稲荷(いなり)・八幡・熊野・神明・秋葉などを勧請(かんじょう)したものや祭神不明のものもある。
    1. [初出の実例]「村々の氏神の社、又めいめいの屋敷神」(出典:氏神と氏子(1947)〈柳田国男〉一九)

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改訂新版 世界大百科事典 「屋敷神」の意味・わかりやすい解説

屋敷神 (やしきがみ)

屋敷すなわち宅地内の一隅やこれに接続した小区画に,小祠を構えあるいは古木や石などを依代(よりしろ)にするなどしてまつられている神をいう。

屋敷神という呼称は学術用語で,実際には地方ごとにウジガミ,ウチガミ,チジン(地神),荒神こうじん),イワイジン(祝神)などの呼称があり,さらにまたまつられている神に即して稲荷,熊野など雑多な神名で呼ばれている。屋敷神呼称の雑多性は,勧請神進出の事実を示すとともに,修験や巫女(みこ)など信仰伝達者の活躍を物語るものと推定される。

 屋敷神を祭祀者の範囲という観点から類型化すると,集落内で(1)ほとんど各戸ごとにまつられているタイプ(各戸屋敷神),(2)特定の旧家,本家筋の家に限ってまつられているタイプ(本家屋敷神),(3)本家に属する屋敷神を同族が一団となってまつるというタイプ(一門屋敷神)に分けられる。この三つの類型がはじめから併存していたとは考え難い。本家を中心とする一門屋敷神が最も古い形態であり,それが同族結合崩壊,分家群の脱落によって本家屋敷神へ移行するとともに,分家の実力が台頭して家意識が高まり,同族結合の枠が崩れることによって各戸屋敷神へ分化する傾向をとった。なお,各戸屋敷神の成立には,屋敷神を家,屋敷とくに屋敷地の守護神とみる考え方の普及,民間宗教家の関与といった事情が指摘できる。他方,一門屋敷神ないし本家屋敷神が,その祭祀組織に非血縁者を包括して信仰圏を拡大し,地域神に昇格する傾向もあった。

 屋敷神の祭日は,全国を通じて春は旧2月,秋は旧9月または旧11月の年2回,あるいは春秋のいずれか1回という形が多い。年2回の祭りのうち春の祭りの方は農耕の準備にとりかかるたいせつな折り目であり,秋の祭りの方は収穫祭の意味を帯びている。これは全国を通じてみられる田の神と山の神の交替の時期に対応している。各地の屋敷神のなかには,開発先祖あるいは遠祖をまつったとする伝承をもつものがある。さらにその家の死者が三十三年忌あるいは五十年忌の弔い上げをすますと屋敷神になる,と伝える土地もある。このように屋敷神に祖霊(それい)的性格が認められる点は注意を要する。屋敷神信仰が本質的に祖霊信仰と深い関連があるとするならば,屋敷神は当然作神としての性格をそなえていたと考えられる。屋敷神を作神とみる信仰は広い分布を示している。屋敷神に稲荷がまつられていることの多い事実も,祖霊が元来具有していた作神的性格を,いっそう拡充するためであったと考えられよう。
氏神
執筆者:

朝鮮語では屋敷(垈地。〈チプト〉という)の守護神は一般にトジュ(基主)やオプと呼ばれ,キムチや調味料などの甕を安置するチャンドクテという壇や裏庭の隅に小さな甕に穀類を納めてまつり,上を藁づとでおおった型式が多い。特定の祭日は定めずに,10月の吉日を選んで行う家庭内の平安を祈願する安宅・告祀の際には供物を捧げる。オプは家庭の財運をつかさどる蛇体の神霊と考えられている。このほか青竜や七星に対する供物を裏庭に捧げる地方もある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「屋敷神」の意味・わかりやすい解説

屋敷神
やしきがみ

宅地内の一隅や宅地続きの小区画に祀(まつ)られている神をいう。屋敷神というのは学術語であって、実際には地方ごとにさまざまな呼称が行われている。祭神としては、全国的にみて稲荷(いなり)が優勢であるが、そのほか神明(しんめい)、祇園(ぎおん)、熊野(くまの)、天王、白山、八幡(はちまん)、山の神などさまざまである。このような祭神の雑多性は、勧請神進出の事実を示すとともに、修験(しゅげん)、巫女(みこ)、念仏など信仰伝達者の活躍を物語るものと考えられる。

 次に祭祀(さいし)者の範囲という観点からみると、屋敷神には次の三つの類型が指摘できる。(1)村落内のほとんど各戸で屋敷神を祀る型で、これを「各戸屋敷神」とよぶ。(2)村落でも特定の旧家・本家筋に限って祀る型で、これを「本家屋敷神」とよぶ。(3)本家の屋敷神を同族が参加して祀る型で、これを「一門屋敷神」とよぶ。この三つの類型は、いずれも全国的な規模で分布している。この三者の関係については、一門屋敷神の祭祀組織がもっとも古い形で、それが同族結合の崩壊、分家群の脱落によって、本家屋敷神へ移行するとともに、分家の実力が台頭し、家意識が高まり、同族結合の枠が崩れることによって、各戸屋敷神へ分化する傾向をたどったものと考えられる。屋敷神の神格については、一般神、自然神を祀るとする土地も多いが、また祖先神を祀るとする土地も広い分布を示している。ことに家代々の死者が屋敷神になるとの伝承があったり、屋敷神と墓との密接な関係を示す資料も少なくない。そこで屋敷神の祖霊的性格ということが、大きな問題になってくる。

[直江広治]

『直江広治著『屋敷神の研究』(1966・吉川弘文館)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「屋敷神」の意味・わかりやすい解説

屋敷神
やしきがみ

屋敷の一角または屋敷の付属地域に祀られている神。一般に屋敷と土地を守護する神とされる。現在最も多くみられるのは,各家に祀られる屋敷神であるが,原初的な型は,本家にある屋敷神をその一族が守護神として祀るものであった。一族の結合がゆるんで,本家を中心とする旧家だけで祀る形となり,分家が独立して次第に各戸で祀るようになった。屋敷神の祭りは,春は旧暦2月,秋は旧暦 10月または 11月に行われるのが通例で,田の神山の神交代の時期と一致する。また祭神を家の開拓先祖とか祖霊とする場合もあり,祖霊信仰との関連を示している。

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百科事典マイペディア 「屋敷神」の意味・わかりやすい解説

屋敷神【やしきがみ】

屋敷内や付属地にまつられた家の守護神。地方により内神,地神,氏神荒神とも。祖霊信仰に由来すると考えられるが,稲荷,神明,秋葉,祇園,八幡などの神が勧請され,それらが祭神とされるに至った。
→関連項目地主神

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世界大百科事典(旧版)内の屋敷神の言及

【土地神】より

…作物季節の導入者である雨竜が目覚める日と,土地神の誕生日が同時に考えられていることは,きわめて興味深い。【直江 広治】
[日本]
 土地の神は日本では,ジガミ(地神),ジジン,ジノカミ(地の神),ジヌシサマ(地主様)などと呼ばれ,屋敷神のほか畑の隅や村の辻などに石塔や石碑をたててまつられる。屋敷神としての地神は今日では主に土地や屋敷の守護神とされているが,一方で開発先祖や祖霊をまつったものという所や,人が死んで33年あるいは50年たつと地主様になるという伝承もある。…

※「屋敷神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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