( 1 )古くは、貴族の邸宅にあって、ものを多く納めておくのを大納戸、朝夕に用いる程度のものを納めておくのを小納戸と称したが室町時代には、そこに客人を通すような場合もあった。
( 2 )納戸と帳台(寝台)が混同されて同義に使われた。民家で、物置のことではなく、寝室を納戸と呼ぶのもその名残であろう。
住宅において日常使うことの少ない物や季節によって使わなくなる物などを収納しておく部屋。江戸時代以来の農家では、寝室を納戸とよんでいる所が多い。歴史的にみると、寝殿造において夜御殿(よんのおとど)あるいは塗籠(ぬりごめ)とよばれていた寝所が、いつごろからか納戸とよばれるようになったのがもとと考えられる。そのように呼び名がかわる時期は中世のことのようである。寝殿造では、母屋(おもや)の端に二間(ふたま)ほどを区画して寝所としているが、寝所は周囲を壁で塗り込めたり厚い板壁として堅固につくった。中世の絵巻物に描かれた寝所の入口は、堅固な厚い板壁に小さくあけられていて、太い桟のある厚い板でできた戸があった。また出入口の敷居を床の高さより少しあげることが多かった。出入口を小さくすることは、守りやすくするため、あるいは寒気を防ぐためと思われる。このような造りであったところから、たいせつな物を収めておくのにも都合がよかったのであろう。中世の絵巻物に描かれた納戸の中には、護身用と思われる刀が描かれているものがある。また、中世の内裏(だいり)において、天皇は住居としていた清涼殿の中の夜御殿の中に剣璽(けんじ)を収める棚を設けていた。この形式は天皇の住まいが常御殿(つねのごてん)に移ったのちも、上段の間(ま)の背後に設けられた帳台構(ちょうだいがまえ)(納戸構)の中を剣璽の間とするところに受け継がれている。
二条城の大広間にみられるように、江戸時代の武家住宅では上段の間の隣に調台の間あるいは納戸とよばれる部屋を設け、上段の間との間に帳台構あるいは納戸構とよばれる特殊な形式の襖(ふすま)を立てている。この武家住宅における納戸は、武家が対面のために上段に出る前後の控えの間であった。江戸時代の農家では、いろりのある勝手などとよばれる部屋の隣に壁で囲まれ開口部の少ない寝室を設けるものが多く、この寝室を「ナンド」「チョウダ」などとよんでいる。
近代の住宅では、あまり使わない物を収納しておくための部屋を納戸とよび、通常三畳程度の部屋の壁面に棚をつくるのが普通である。
[平井 聖]
住宅において,衣服や家財道具,貴重品などを収納する部屋。また寝室の意味にも用いられる。古く,宮中や貴族邸などで貴重品を収納した場所を納殿(おさめどの)といった。鎌倉時代に描かれた《春日権現験記》をみると,京都の大火の折,焼け残った家の北側中央に,部屋の片側を竪格子で固め,片側に引手と施錠装置を持った壁で囲まれた部屋があり,これが納戸に当たるものと思われる。同絵巻の蛇をいじめて病んだ子の家にも,同じ形式の納戸が出てくるが,寝室に使われた場面はないので,収納のための場所であったと考えられる。一方,南北朝時代に描かれた《慕帰絵詞》には,納戸と思われる一室に枕と刀が置かれた場面がある。また,室町中期から末期にかけて,納戸が寝室として使われた記述が多くみられる。これらのことから,戦乱など世情不安の多くなる室町後期にかけて,室内にがんじょうに作られていた収納空間の納戸が,寝室に利用されたのではないかと考えられる。江戸時代の民家では三方を壁で囲み,入口を片引戸にした部屋が居間の隣に設けられ,納戸とか〈ねま〉と呼ばれている。納戸と呼ばれている場合は,寝室として使われた例(東北地方など)と物置として使われた例とがあり,二つの用途があったと思われる。江戸中期以降になると,一般の民家でも土蔵や納屋を建てる家が多くなり,道具類は蔵に収められるようになる。また,室内にも押入れがとられ,収納に当てられるようになる。このような変化に応じて,納戸の収納空間としての意味は薄らぎ,一般的な部屋として就寝中心に使われるようになったとも考えられる。
→納戸神 →寝間
執筆者:鈴木 充
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 不動産売買サイト【住友不動産販売】不動産用語辞典について 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…これらの変化は14世紀から15世紀にかけて進んでいったが,やがて,それが武家住宅にも採り入れられるようになる。 14世紀は,南北朝の争乱で世情が不穏になった時期であるが,このころを境に一時物置になっていた塗籠や納戸が,再び主人の寝室として使われるようになったようである。室町時代の将軍邸は身分が公卿であることもあって,寝殿造を基調にしていた。…
…そのほか平安時代には,塗籠(ぬりごめ)が寝場所として使われるという叙述もあり,塗籠が寝室にあてられたという見方もある。しかし,塗籠の具体的な形は不明であり,それが納戸的なものであれば,寝室として使ったのは副次的な用法であったと考えられる。 室町時代の後期になると納戸が寝室として使用されたという記載が多くみられる。…
…納戸にまつられる神。納戸はヘヤ,オク,ネマなどと呼ばれ,夫婦の寝室,産室,衣類や米びつなどの収納所として使われ,家屋の中で最も閉鎖的で暗く,他人の侵犯できない私的な空間である。…
…当時の〈ねま〉がこのような形状になった理由ははっきりしない。飛驒の白川郷や八丈島に〈ちょうだ〉の語が残っているのをみると,平安時代の伝統を受け継いでいるようにみえるが,平安時代の帳台(ちようだい)は周囲に帳を垂れた部屋であり,民家の寝間は《春日権現験記》に描かれた納戸の形式に類似している。納戸は本来は貴重品を収めておく所であるが,納戸が寝室として使われた事例が室町時代後期から散見するようになるので,おそらく戦国時代の不穏な世相が納戸を寝間にする習慣を作りだしたものと考えられ,寝間という機能の一致から〈ちょうだ〉という言葉が当てられたと考えられる。…
※「納戸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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