日本大百科全書(ニッポニカ) 「家具産業」の意味・わかりやすい解説
家具産業
かぐさんぎょう
家具を製造する産業。家具類の内容は多様で、たとえば、使用材質により木製家具、金属製家具、ラタン(籐(とう))家具、そして、ベッドに組み込まれるマットレス・スプリングマットレスなどに区分けされる。また、その形態により、木製家具は、(1)ソファ、ダイニングチェア、テーブルなどの脚物家具類、(2)洋服だんす(ワードローブ)、和服だんす、整理だんすなどの箱物家具類、(3)食器棚(カップボード)、リビングボード、AVボード、書棚、サイドボードなどの棚物家具類、(4)スリッパラック、マガジンラック、サイドテーブルなどのオケージョナルファニチャー(小物家具類)、(5)ベッド、二段ベッド、ベビーベッドなどのベッド類、(6)その他、などに分類される。一方、金属製家具は机類、椅子(いす)類、キャビネット類、金庫・保管庫類、間仕切り類、その他、に大別される。
さらに利用空間により、(1)一般の住居で使われる家庭用家具類、(2)ホテル、レストラン、喫茶店などのサービス・営業用空間やオフィス、さらには図書館、公民館などの公共用空間などに使われるコントラクト用家具類、に区分される。このほか、建築空間の内部に使われるものは室内用家具、外部に使われるものは屋外用家具(ガーデンファニチャー)といった分類方法もある。
[木内正夫]
木製家具
木製家具の生産はもともと地場産業として生成発展してきたが、その立地的形態により、(1)東京、大阪、愛知などの各都府県は生産地イコール消費地の、いわば生産と消費が同一地域内で行われる自己完結型、(2)北海道、新潟、山形、静岡、広島、福岡などの各道県は消費地に向けた移出型、に大別される。
さらに技術(技能)立地型と原材料立地型といった区分けの仕方もある。技術立地型は、(1)その昔、城や寺社などの大建造物建築に際し、全国各地から参集した優秀な職人が建造物完成後も、そのまま現地およびその周辺に定住、家具生産に従事することで家具産地の生成に繋がった(静岡市、広島市、埼玉県春日部(かすかべ)市など)、(2)船大工の技術が家具生産に転用されて、家具産地としての形成が始まった(福岡県大川市、徳島市、新潟市など)、などの歴史的背景をもつ。
一方、原材料立地型は、(1)木材集散地で、その有効利用を図るため(北海道旭川市、東京、大阪、名古屋など)、(2)木材の産地として、その付加価値利用を図るため(大分県日田市、広島県府中市、岐阜県高山市など)、などの要因で家具生産が活発化し、産地を形成した場合をさす。
木製家具生産が本格的に近代化の道を歩み始めたのは、さまざまな中小企業業種の近代化を目的に制定された中小企業近代化促進法の業種指定に基づき、1966年(昭和41)に木製家具製造業近代化基本策定計画が策定・実施されて以降のことである。同計画の推進により、業界総体の経営意識改革が進むとともに、量産化に適した木工機械や合板などの周辺技術の開発進展とそれらの積極的な導入が、家具の生産形態を職人的・家業的生産から、工業的・企業的生産形態へ移行させた。とはいえ、木製家具生産業界は今日なお、中小企業業種の範疇(はんちゅう)にある。
[木内正夫]
金属製家具
金属製家具は、木製家具が家庭用からコントラクト用まで幅広い市場をもっているのに対し、どちらかといえば、その市場性はコントラクト分野中心である。かつては家庭用の学習机市場を独占していた金属製も、現在はすっかり木製にその市場を奪われた。その他の品目を含めても、金属製家具の家庭用としての市場シェアはいたって低い。反面、オフィス空間などでは金属製が圧倒的な市場浸透力をもち、事務机、事務用椅子、ロッカー、間仕切り、金庫・保管庫など、そのほとんどの市場シェアを占める。金属製家具生産業界は木製家具業界と比べて、以下のような特徴をもっている。木製家具業界は1万社強の企業が全国各地の産地に集合し、しかも1社当り平均出荷額が1億4260万円(総出荷額1兆5038億円)と零細性の強いのに対し、金属製家具生産業界は産地形成がなく、企業数約1300社強、1社当り平均出荷額4億4760万円(総出荷額5952億円)と中堅企業構成の業界性格にある。また、業界の中核をなす大手企業、たとえば株式を市場公開する企業が、木製の1社に対し10数社と企業の社会性がより高い。さらに、製品の供給は、主として百貨店や総合スーパーマーケット、家具専門店などの小売業の店頭販売ルートを中心とする木製とは異なり、代理店制に基づく独自の流通ルートを構築している、などである。
[木内正夫]
1990年代の家具生産業界
家具生産業界は木製、金属製を問わず、1991年(平成3)のバブル景気崩壊以降、厳しい市場環境に直面している。とりわけ、97年4月消費税の3%から5%への改定以降、厳しさが一段と深刻化、企業の整理淘汰(とうた)が一気に進行し始めた。主として家庭用の木製家具は、(1)社会・経済不安の増大による消費者の消費マインドの冷え込み、(2)家具需要の顕在化に大きな波及効果をもたらす住宅建設の不振、(3)同じく波及効果の大きなブライダル需要がさま変わりし、業界にとっては単価、付加価値ともに高く、もうけ頭であった婚礼収納セットの市場規模が縮小の一途にある、などがその背景にある。一方、金属製家具はOA(オフィス・オートメーション)の進展により、OA対応の家具類は着実に需要拡大の方向にあるものの、全体としては、オフィスビルをはじめとするコントラクト空間の建築不振、家具設備機器などに対する民間設備投資マインドの低迷、など、根本的なマイナス要因を抱えている。
そうした、国内需要の低迷の一方で、国内生産者にとっては、家具輸入の増大による海外製品との市場競合激化というやっかいな問題も抱えることになった。国内家具の総出荷額は、第二次世界大戦後最高を記録した1991年の3兆0803億円から、98年には2兆1422億円まで落ち込んだが、逆に家具輸入額は、1991年の1885億円から98年には2949億円へ大幅に増大している。低価格帯製品はASEAN(アセアン、東南アジア諸国連合)、中国、中・高価格帯製品は欧米からの輸入が増え、木製、金属製を問わず、家具産業はこれら輸入製品との国内市場における競合という厳しい状況に置かれることになった。
[木内正夫]