日本思想史研究者。教科書検定違憲訴訟の原告。名古屋市生れ。東京帝国大学文学部国史学科卒業。東京教育大学名誉教授。文学博士。1937年東京帝国大学卒業後,同大学史料編纂所の嘱託となり,《大日本史料》の編纂に従事しつつ古代・中世の仏教思想史を研究,40年《日本思想史に於ける否定の論理の発達》を刊行。以後,仏教思想史,倭絵に関する研究を行い,46年《上代倭絵全史》を刊行し,48年に日本学士院恩賜賞を受賞。この間,1941年新潟高等学校教授となり,この頃から日本近代史の研究も始める。43年新潟高校を辞任し帰京,翌年東京高等師範学校教授となる。日本の敗戦を大きな喜びをもって迎えたが,直後の民主化に違和感をもった。46年に戦後の国定日本史教科書《くにのあゆみ》の古代史部分を執筆した。マルクス主義者を中心とした歴史家から多くの批判を受けたが,石器時代から始まる古代史部分の執筆の意義を強調した。49年新制大学の発足に際し,東京教育大学教授となる。戦後はもっぱら日本近代思想史研究に専念し,《日本文化史》(1959),《植木枝盛研究》(1960),《美濃部達吉の思想史的研究》(1964),《津田左右吉の思想史的研究》(1972)などを刊行。1950年頃からの逆コースのなかで破壊活動防止法制定反対運動に参加したことを契機に,歴史教育改悪反対声明,教育二法案反対声明を呼びかけ,東京教育大学文学部教授会の民主的改革に取り組むなど実践活動に参加するようになった。1952年に高等学校日本史教科書《新日本史》を執筆,検定で不合格となる。政権政党の教科書攻撃や教育行政の反動化のなかで強化される教科書検定に対して,65年に教科書検定は違憲違法であるとする教科書検定違憲訴訟を提起。検定行政を違憲違法とする判決〈杉本判決〉を勝ち取った。この過程で,《司法権独立の歴史的考察》(1962)や《太平洋戦争》(1968)などの研究を発表した。また,東京教育大学の筑波移転に伴う大学の非民主的運営を批判し,筑波移転反対闘争の先頭に立った。このように実践活動と研究を一体化させ,抵抗権や憲法思想,文化史,女性史,戦争史などの分野で優れた研究業績を残した。1977年東京教育大学を停年退職し,教科書検定違憲訴訟は97年に終結した。《家永三郎集》全16巻(1997-99),および自伝《一歴史学者の歩み》(2003)がある。
→教科書裁判
執筆者:君島 和彦
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昭和・平成期の歴史学者 東京教育大学名誉教授。
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…歴史学者家永三郎(当時,東京教育大学教授)が,自著の高等学校社会科用歴史教科書《新日本史》(三省堂)に対する文部大臣の検定処分を違憲・違法であるとして国または文部大臣を相手どって起こした三つの訴訟のこと。 家永は1965年,〈現行教科書検定制度は違憲・違法である〉として,国を相手どり国家賠償を求める教科書検定違憲訴訟を東京地方裁判所に提起した(第1次訴訟)。…
…(2)教科書検定(教科書検定制度) 日本の小・中学校および高校は,文部大臣の検定を経た教科書または文部省著作の教科書を使用しなければならないことになっている。家永三郎は,その高校用教科書《新日本史》が不合格(1963),修正意見付合格(1964)となったことを不服として,国家賠償請求訴訟(第1次訴訟),および不合格処分取消訴訟(第2次訴訟)を起こした。1970年東京地裁は第2次訴訟につき,検定制度自体は違憲とはいえないが,本件処分は執筆者の思想内容を事前に審査する検閲にあたると判断した。…
…1977‐78年に改訂された小・中・高校の学習指導要領では,歴史教育を含め社会科の目標は〈公民的資質の育成〉で統一された。また教科書の検定でつねに問題が集中するのも歴史教科書であり,家永三郎は自著の高校日本史教科書に対する検定を違憲・違法として1965年,67年さらに84年と,3次にわたり訴訟を提起した(教科書裁判)。1982年には,文部省による歴史教科書検定が近代のアジア史,とくに日本によるアジア諸国への侵略の歴史を歪曲しているとして,中国,韓国などアジア諸国から批判を受け,日本の歴史教育と歴史教科書検定とは国際的に注目の的となった。…
※「家永三郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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