日本大百科全書(ニッポニカ) 「家畜審査」の意味・わかりやすい解説
家畜審査
かちくしんさ
家畜を経済動物として評価するために行う審査で、家畜の外貌(がいぼう)、能力、血統の3方面から検討される。普通はこのうち外貌審査のみが行われるが、肉用価値を判定する肉畜審査ではさらに能力審査を加味する場合もあり、また繁殖用として良形質をもつ家畜を選ぶための種畜審査ではこの三つとも必要である。種畜は「よい能力をもち、これを発揮するに必要な体型、体格をもち、しかもそれらの形質を確実に子孫に伝える」ものでなければならないからである。
[西田恂子]
外貌審査
家畜の生産能力はその生理作用の発現であり、生理作用は体の構造と深い関係をもつ。すなわち家畜の各種の能力はその外貌上の特徴と関係がある。どの家畜にも共通する外貌審査の要点は、(1)用途別の機能を現す特殊体型、(2)品種および性による特徴、(3)資質、(4)健康と持久性(強健性)を観察することである。(1)は、家畜の外貌には用途による特徴が明らかに出ていることを必要とする。ウシ、ヤギなどの乳用家畜は体が比較的長く、前躯(ぜんく)に比べて後躯がよく発達し、くさび形で、乳器の発達がよい。産卵鶏も同様に体の後部の発育のよいのが優れている。これに対して、ウシ、ブタ、ヒツジなどの肉用家畜は体がずんぐりしており、前躯と後躯が均等に発達し、長方形で肉づきのよい体型をしている。(2)は、同じ用途をもつ家畜でも品種の特徴を示す毛色、体型、顔つきなどがはっきり出ていて、さらに性差を示す特徴も明瞭(めいりょう)でなければならない。(3)の資質は改良の程度を示すもので、(4)の健康状態の判定は毛の光沢、起居挙動などの観察によって行う。
これらの評価の基準として家畜の品種別に体型審査標準が定められている。これは、各品種集団の体各部の測定値を統計的に処理して求められた平均値を基礎として理想体型を想定して文字に表現したものである。審査に際しては、体各部について重要度に応じて配点され、合計100点となるようにしてあり、各個体がその理想に対して何点であるかによって優劣を決める。
[西田恂子]
能力審査
家畜の生産能力を調べることを能力検定という。泌乳、産卵、産毛、肥育などの形質について生産性だけを調べる絶対能力検定が普通であるが、家畜は経済動物であるから最終的には純収益が問題であり、飼料の利用性を考慮した相対能力検定が行われるようになった。これは単位生産量に要する飼料の量、または単位飼料当りの生産量で評価する。
[西田恂子]
血統審査
家畜の血統は子をとる種畜の場合に問題とされ、その価値は遺伝的によい形質をもっているかどうかが重要である。外貌上も能力上も欠点がなくても血統の不明なものからよい子孫を期待することはできない。したがって血統審査は普通、公共機関で行われている血統登録によって祖先からその個体までの繁殖記録を調べ、体型上や能力上の特徴について遺伝形質の有無を調べて良否を判定する。
審査の種類には、1頭ずつの家畜について行う個体審査が多く、これを基礎として数頭の家畜を比べて順位をつける比較審査や、同一家系のものについて長所・短所の類似性の程度について付点する系統審査がある。登録のための個体審査ではとくに精査する。一方、共進会場などでは短時間で迅速な判定を必要とするため、精細な付点をせず、重要部位のみ観察し、等級分けされた数個体の比較審査によって順位を決定する。
[西田恂子]
『内藤元男著『家畜育種学』(1970・養賢堂)』