家畜の遺伝的改良に用いるための繁殖用個体。繁殖に用いられる個体でも,直接生産に従事する実用畜の生産のみを目的として飼育されるものは一般に種畜とは呼ばない。これらのものは最近では繁殖力に対して現れるヘテローシス(雑種強勢)を利用するために一代雑種が用いられる場合が多く,育種を目的に繫養(けいよう)されるものではないからである。
種畜は遺伝的に優れた素質をもつものでなければならない。高い生産能力を有し,その能力を十分に発揮しうる優れた体型をそなえ,さらにこれらの美点を確実に後代に伝えることが種畜の条件である。そのため種畜としての評価は,能力・外貌・血統の3点から吟味される。経済動物である家畜は能力の高いことがまず要求されることは当然である。そのため乳牛の泌乳能力,ニワトリの産卵能力,ブタの産肉能力など,それぞれの生産能力は能力検定によって調べられる。片方の性にしか現れない能力,または殺さないと測定できない能力については,直系の子の成績をしらべる後代検定が行われ,これによって遺伝的素質の良否が判定される。高い生産能力は優れた体型と相関関係がある。また長命性とか柔順性とか能力検定成績には現れない資質も,体型や動作の観察によって評価できるので,外貌審査も種畜の選定に重要な意味をもっている。家畜の品種ごとに審査標準が設定されており,これに従って客観的な評価がくだされる。これらの形質の優劣が遺伝的なものに起因しているかどうかの判断は,血縁関係の個体の成績を,他の個体の成績と比べて決められる。人間の社会の系図にあたる種畜の血縁関係を正確に記録する血統登録は,育種を進めるうえで重要な基本的作業である。最近では人工授精の普及などもあって親子関係(ことに父子関係)を誤認する危険も増えてきた。登録の正確性を保つために種畜の血液型の判定も実用化されている。種畜である両親個体が自分の子畜に及ぼす遺伝的寄与は雌雄ともほとんど同等であるが,繁殖集団全体について考えると,1頭当りの子の数の多い種雄畜のほうが雌よりも次の世代に対しての影響が大きい。したがって雄についての選抜はとくに慎重でなければならない。種畜を選抜し育種していく事業は,ひじょうに多額の経費と高度な経験・知識を必要とする。したがって種畜は国の種畜牧場や,熟練したブリーダー,あるいは資本の大きい企業などにより育成され繫養される場合が多い。また家畜改良増殖法の規定によって人工授精用の種雄畜(ウシ,ウマは自然交配用のものも)はすべて毎年行われる種畜検査に合格し,種畜検査証明書を持っていなければならない。検査内容は伝染性疾患,遺伝性疾患および繁殖機能障害の有無,血統,体型,能力の審査で,その成績によって1級,2級,3級の格付けがされる。
執筆者:正田 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
品種の改良および増殖を目的にして飼養されている繁殖用の家畜をさす。種畜の条件として、優れた能力、品種の特徴をはっきり示す体型、これらの能力と体型を遺伝するよい血統などが求められる。現在、人工授精法、とくに凍結精液の普及によって、1頭の種雄畜の影響が相対的に大きくなっているので、種畜の選抜には慎重さを要し、能力検定済みの種雄畜の作出事業が進められている。これとは別に、ウシ、ウマの雄および人工授精に供用する雄ブタは、種畜検査を受け種畜証明書の交付を受ける必要がある。種畜として繁殖に用いられる年齢は、ウシ1.5~15歳、ウマ3~23歳、ブタ1~13歳、ヒツジ、ヤギ1~8歳ぐらいである。
優良な種畜と種鶏を生産し、これを繋養(けいよう)あるいは配布して家畜と家禽(かきん)の改良増殖を図る施設として種畜牧場がある。日本では官有が多く、民有は少ない。2001年(平成13)現在、独立行政法人家畜改良センターのもとで11の牧場が全国に適正配置されている。各牧場は乳用牛、肉用牛、ブタ、ニワトリ、メンヨウ、ヤギ、ウサギなど主要家畜種をもち、それら優良種畜の生産と配布、人工授精用精液や種卵の配布、飼料作物の原種圃(ほ)の経営と種子の配布を行っている。また共通の主要家畜をもつ牧場が組織的に機能分担して、世界的な育種規模の拡大に対応し、能力検定済み種畜の作出に努めている。
各都道府県にも、畜産試験場あるいは養豚試験場、養鶏試験場が設置され、これらは家畜改良センターおよび種畜牧場と同じように都道府県単位に家畜の改良と普及に努めている。これらの試験場は、優良遺伝子をもったクローン家畜の作出にも積極的に関与している。
[西田恂子]
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