宿主の感染防御機構

内科学 第10版 「宿主の感染防御機構」の解説

宿主の感染防御機構(感染症総論)

(1)物理化学的・生理学的な防御機能
 角化上皮と落屑による体表面の保護,胃液内の塩酸やDoderlein桿菌の産生する乳酸などによる殺菌・静菌作用,繊毛運動蠕動運動による異物の排除,咳やくしゃみなどの不随意あるいは随意運動排尿による洗浄作用など,物理化学的・生理学的な防御機能は,微生物の生体内への侵入を食い止める上できわめて重要であり,その破綻感染症に直結しうる.一次防御機能ともいえる体表層での防御機能は,微生物の種類を問わず非特異的である.人の体の表面や口腔・鼻腔内,腸管内などには,細菌を中心におびただしい数の微生物が生息している.このような常在細菌叢は,物理化学的・生理学的な防御機能や免疫学的な防御機能が破綻したときなど,それ自身が感染症の原因ともなりうるが,栄養や定着を病原細菌と競合することによって,健常時には防御的に重要な役割を果たしている.
(2)自然免疫による防御機能
 生体内に侵入した細菌などの病原微生物は,好中球やマクロファージなどの貪食細胞によって排除される.貪食作用は生来備わった防御機能で,微生物の種類を問わず基本的に非特異的である.
(3)獲得免疫による防御機能
 獲得免疫による防御機能は,世代をこえて引き継がれることはなく,感染やワクチン接種によって後天的に獲得される防御機能で,抗原特異的である.ウイルスなどの病原体に感染した細胞では,細胞表面に病原体特異的な抗原が提示される.病原体それぞれに特異的な抗原を認識する細胞はリンパ球で,Tリンパ球とBリンパ球が存在する.Tリンパ球は,T細胞受容体を使って特異抗原を認識する.なかでも,ヘルパーTリンパ球(おもにCD4陽性Tリンパ球)は,抗原を認識するとサイトカインなどを放出し,ほかの免疫担当細胞の機能を高める.キラーT細胞(おもにCD8陽性Tリンパ球)は,T細胞受容体を使って抗原を認識し,ウイルス感染細胞などを直接攻撃する.Tリンパ球による防御機能を細胞性免疫という.
 Bリンパ球の表面には抗原特異的な抗体分子が存在し,抗原認識やヘルパーTリンパ球の指令に応じて増殖し,形質細胞に分化する.形質細胞は,いわば抗体産生工場に分化した細胞で,特異抗体を大量に細胞外に放出する.抗体を介した防御機能を液性免疫という.
(4)その他の宿主防御機能
 宿主の防御機能は,基本的に自己と非自己を識別できる能力であり,免疫学の進歩に伴い,さまざまな機能分子が明らかとなっている.また,非自己(異物)への過剰な反応は,サイトカインストームなど宿主に対して攻撃的となる場合がある.[岩本愛𠮷]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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