改訂新版 世界大百科事典 「農業統計」の意味・わかりやすい解説
農業統計 (のうぎょうとうけい)
産業としての農業の全体の構造を明らかにする統計を総称して農業統計という。しかし,日本の農業統計の特徴は,産業としての農業を統計的に把握することを目的とするだけでなく,農家,農業者の実態について把握することも目的としており,他の産業統計あるいは諸外国の農業統計とその点で大きく異なっている。諸外国の農業統計の統計単位は経営体であるが,日本では農家世帯を統計単位としている。その理由は,日本の農業が零細な家族経営を基盤にして存在しているからにほかならない。ただし,この考え方は日本農業の企業化のある程度の進展により,近年では一部で変更が迫られており,経営単位を基盤とした統計の作成も部分的に始まっている。
農業統計は日本の統計のなかでは最も古い歴史をもち,明治初期から生産統計を中心に作成されていた。1902年からは農事統計が作成されており,これは国が帝国農会に委託して主として自小作関係を重視して農家数や耕地面積の調査を行ったものである。第2次大戦前の農業統計は,調査票を市町村役場などに送付して記入を要求する表式調査による統計の作成が大部分であったが,第2次大戦直前に統計制度の大改正が行われ,表式調査を改め農家の申告による調査方法がとられることになった。47年占領軍の指令により農林省に統計調査部が設置され,その下部機構として都道府県ごとに統計調査事務所(当初は作物報告事務所)が新設され,農林統計は国の直轄機構で整備されることとなった。
農業統計には,(1)農林省(現,農林水産省)統計情報部(1972年に統計調査部を改組)の作成する統計,(2)農林水産省各部局の所管業務に関して作成する業務統計,(3)各種農業団体の作成する統計(全国農業会議所の作成する田畑売買価格及び小作料調査など),(4)都道府県庁などの作成する地方統計がある。これらのなかで最も重要な農業統計は農水省統計情報部の作成するものであり,その構成は,(1)農林業センサス,(2)生産・流通・消費量調査,(3)経済調査,(4)加工統計などの体系から成りたっている。農林業センサスは経済統計に関する国際条約により10年ごとに実施される世界農業センサスの一環として行われるもので,農林業に関する資源総量把握と農林家の性格把握を意図する悉皆(しつかい)調査であり,日本ではその中間年の5年ごとにも農業センサスが実施されている。生産・流通・消費量調査は多岐にわたるが作付面積及び耕地面積調査,農作物収穫高調査が代表的なものである。経済調査としては,農業経営面に重点を置いた農業経営統計,米・麦・畜産物等の生産コストを把握する生産費統計および農家経済の動向を把握する農家経済統計をすべて統合した農業経営統計調査が行われている。また加工統計としては農業総産出額,農業生産所得,農林水産業生産指数,食料需給表,農業および農家の社会勘定などの統計が作成され,農業および食糧需給の全体構造を把握するよう意図されている。
執筆者:今村 奈良臣
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報