改訂新版 世界大百科事典 「専門職制度」の意味・わかりやすい解説
専門職制度 (せんもんしょくせいど)
一般に日本の専門職制度とは,一企業内の仕事を通じて専門的な知識・能力を身につけた人材を,部長-課長-係長といったライン管理職とは別に処遇する制度を指している。医師,弁護士,公認会計士などの社会的に通用するプロフェショナルの意味ではない(これについては〈専門職〉の項参照)。
この制度が導入された理由としては,第1に,社員のもつ専門性を十分に活用するため,部下の管理などの業務から解放して専門業務に専念させる,第2には管理職ポスト不足に対する対応策,の二つが考えられる。とくに1973年の第1次石油危機以降,経済成長の減速化,従業員の高学歴化・高齢化による管理職ポストの不足が顕著になり,この解消策として導入されたケースが多い。このため,たとえ専門的知識や能力が備わっていなくても専門職(呼称は審議役,調査役,専門部長など種々ある)に任命し,出世ラインからはずされたという感じをもたせる結果となり,かえって全体のモラール(士気)を低下させるケースもみられないことはない。しかし技術革新,経営環境の変化の速さに対応するために,企業は各分野において専門性を要求されている。技術職では,研究開発にあたる研究職,生産技術の企画的職務(生産管理,設計,QC,システムエンジニアリングなど),事務職でも,新規事業市場の開拓や企業提携などに対処するための法律,経済その他のノウ・ハウをもった人材の活用が急務である。販売部門でも,消費者のニーズの高度化に対応した高度な経験的知識と販売技術が要求されている。先に触れた弊害を防ぎ専門職制度を活用するためには,(1)仕事内容を明確にし専門性を基準に任命すること,(2)専門職とライン管理職とを固定せずに,一定の基準でローテーションを行う余地を残しておくこと,(3)専門職にも,トップの政策決定に専門性の立場から参加する権限を付与し,社内的位置づけを高めること,等が必要である。
執筆者:石田 光男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報