朝日日本歴史人物事典 「尊円入道親王」の解説
尊円入道親王
生年:永仁6.8.1(1298.9.7)
南北朝時代の能書の僧侶。伏見天皇の第6皇子。母は三善俊衡の娘播磨内侍。名は尊彦。延慶1(1308)年に青蓮院に入り,3年親王宣下を受けた。翌年6月,大成院において薙髪して尊円と改名。同年8月には青蓮院門跡となった。以後,門跡に3度補されるほか,元弘1(1331)年に天台座主になって以来,4度その任についた。さらに,延文1/正平11(1356)年には四天王寺別当も歴任した。歴代天皇屈指の能書帝伏見天皇を父に,また後伏見・花園天皇を兄に持つという能書の血流を受けた親王は,天賦の才に加えて,世尊寺行房・行尹兄弟から書法を学び,さらに小野道風や藤原行成など上代様の書に範を求めて,古典に立脚した流麗で量感あふれる独自の書風を形成した。その書は青蓮院の歴代門跡をはじめ,多くの人々に尊重,追随され,尊円流,粟田口流,青蓮院流と呼ばれる大きな書流となった。江戸時代には御家流と名を変えてさらに流行した。『入木抄』は,尊円が後光厳天皇の手習いのために選進したものであるが,尊円の書道観を集大成したものとして貴重である。代表作は,建武2(1335)年の大覚寺の夏安居(一定期間,室内にこもって行う修行)に際し衆僧の連名を執筆した「大覚寺結夏衆僧名単」(宮内庁保管)。『門葉記』(130巻),『釈家官班記』の編纂など,天台僧としての業績も注目される。<著作>『入木口伝抄』『入木抄』<参考文献>小松茂美『日本書流全史』
(島谷弘幸)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報