唐様(からよう)(中国風の書法)に対することばが和様(わよう)であり、わが国独自の書風をさすが、なかでも平安時代に完成された和様を、とくに上代様とよぶ。
奈良時代から平安初期にかけて影響を受けた中国書法のうち、とりわけ王羲之(おうぎし)の書は温和で品格が高く、平安朝貴族に愛好された。これを基盤として優れた書風を完成した三筆(さんぴつ)(空海、嵯峨(さが)天皇、橘逸勢(たちばなのはやなり))の名筆は、和様確立への橋渡しとなった。894年(寛平6)遣唐使が廃止となり、10世紀に入ると最初の勅撰(ちょくせん)歌集『古今和歌集』をはじめ和風文化がしだいに爛熟(らんじゅく)の度を増し、ついで羲之の再生といわれた小野道風(おののとうふう)の登場をみるころには仮名も完成し、美しい書体で日本語が表記されるようになった。仮名の柔和な書風は和様の確立に寄与し、とくに優美で豊潤な書風を樹立して和様の開祖とされる道風、続く藤原佐理(すけまさ)、藤原行成(ゆきなり)の「三蹟(さんせき)」を中心に、さまざまな上代様の名筆が生まれた。『文選(もんぜん)』『白氏文集(はくしもんじゅう)』をはじめとする中国の典籍や、わが国の勅撰集および藤原公任(きんとう)撰の『和漢朗詠集』などの文学作品、さらに能書の栄誉とされた御願寺(ごがんじ)の扉絵色紙形(しきしがた)、上表文(じょうひょうもん)、願文(がんもん)などもすべてこの上代様が根底となっている。平安朝貴族の美意識の結実した優雅な料紙に花開いた洗練された上代様の書風は、鎌倉以後もつねに規範とされ、さまざまな書流が展開されたのである。
[古谷 稔]
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